10.鑑定士、魔力量を増やす
ウルスラから魔法をコピーしてから、3日くらいが経過した、ある日のこと。
俺は、世界樹の根元に、あぐらをかいて座っていた。
「よ、よし……いくぞ……」
俺はウルスラから鑑定した【詠唱破棄】能力を使用。
火属性魔法、【火球】を使用する。
ボボボッ……!
俺の両手から、火の玉が3つ出現。
それは世界樹のある広間の奥へと、すっ飛んでいく。
「がは……! も、もうだめだ……」
魔力がつきて、俺は背後に倒れる。
魔法を使うと魔力を消費する。
魔力はこの世にいる人間なら、誰もが持っている。
しかしその多い少ないは、【職業】によって異なる。
俺は魔法職の【職業】ではないので、魔力量は平均値以下だった。
魔法修行初日は、火球1発打つだけで、魔力切れを起こして倒れてしまった。
しかし……今は……。
「ふん。15発で倒れよって。軟弱者め」
「アイン……さん。おつかれ……さまです♡」
倒れる俺を、ウルスラたちがのぞき込むようにして立っている。
ユーリはしゃがみ込んで、俺の頭上に手のひらで皿を作る。
彼女の手のひらに、こんこんと、全回復能力のある、世界樹の雫が湧き出る。
ユーリは手を傾ける。
俺の顔に、世界樹の雫が当たる。
その瞬間、魔力が全回復。
「いつもありがとな、ユーリ」
「あうあう……えうえう……」
かぁ……っとユーリが顔を真っ赤にさせて縮こまる。
「ほれ、さっさと修行を続けぬか」
「わかったよ……」
俺は両手を前に出す。
「というかなにぬるい修行をしておる。一度に全部の魔力を一気に吐き出せ」
「わ、わかったよ……」
手を抜いていたのがバレていた。
畜生。
俺は火球を、全力で発射する。
ボボボボボッ! ボボボボボッ! ボボボボボッ! ボッ!
1度に15発が限度だった、火球。
だが今俺は、16発の火球を出していた。
俺は魔力切れを起こし、また倒れる。
ユーリがすかさず雫を垂らしてくる。
「すげえな……世界樹の雫。魔力を全回復するだけじゃなくて、魔力量を増やす効果まであるなんてな」
「え、えへへ……♡」
ユーリが微笑む。
「と言っても魔力が残っている状態で雫を摂取しても、魔力量は増えぬぞ」
「わかってる。魔力がカラカラになった状態で雫を飲まないと、増えないんだろ?」
だから、こうして魔法を無駄打ちしては、ユーリに雫を飲ませてもらい、魔力量を増やしてもらっているって訳だ。
「まだ火球17発分の魔力量しかないじゃと? こんなもので死熊は倒せぬぞ。なにをやっておる? もっともっと魔法を打ってぶっ倒れろ」
「いや……結構きついって。魔力切れ起こすと、めっちゃ怠いんだって」
マジで死にそうなくらい疲れるんだよな。
だから、魔力ゼロになるまで、全力で魔法を撃つことに、抵抗を覚える。
「わしが目を離すとすぐサボる。ほれささっと撃て! 1000発火球が撃てるくらいまで魔力量を鍛えるからな!」
「し、死ぬって! 死んじゃうって!」
俺はすがるように、ユーリを見た。
「ユーリもウルスラに言ってくれ。もうちょっと手加減してくれって」
ウルスラは親馬鹿なところがある。
娘が頼めば、きっと聞き入ってくれるはず!
しかし……。
「お、おかーさん。アイン、さん。修行、がんばって。ふぁいとっ」
むんっ、とユーリが拳を握って言う。
「ゆ、ユーリ?」
「たく、さん修行しないと。アインさん、強くならないと、だから」
「い、いやそうだけど……さすがに1000発分の魔力量はやりすぎじゃ……」
「やりすぎじゃ、ない。十分、備えないと。備え、大事。たくさん、時間かけて、備えないとっ」
よくわからないが、ユーリはやたらと、魔力量を増やすことを、薦めてくる。
「ふぁいとですっ、アインさんっ」
「ほれ休むな。次は中級魔法を撃て。もう撃てるだろ」
「いや、ランクの高い魔法使うと、負荷が結構……」
「そのぶん1発で魔力を消費できるじゃろうが。ほれ打て!」
俺はウルスラから、かなりの量の魔法を鑑定している。
魔法には強さによって等級がある。
ランクが高い魔法は、殺傷能力が高い分、消費する魔力量も多くなる。
俺は中級魔法、【風裂刃】を無詠唱で使用。
びょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
風の刃の混じった、竜巻が離れたところに発生する。
「いてぇええええええええええ!」
魔力が一気に吸い出され、俺は痛みでその場に仰向けに倒れる。
「わ、わたし……が! 治療します!」
ふすふす、とユーリが鼻息荒く俺のそばにしゃがみ込んで、俺に世界樹の雫をかけて治療してくれる。
「あ、ありがとう……ユーリ」
「~♪」
ユーリが小さくえへへと笑う。
「……これ、良い♡ いっぱい、ありがと♡ 言われる♡ えへへ♡」
「な、なんだって?」
「おい小僧! なに休んでおる! 魔力が回復したらさっさと魔法を撃て!」
こんなふうに、俺は魔力を強化する修行をした。
ユーリは上機嫌だが、ウルスラは彼女がいると機嫌が悪くなる。
まあ治療してくれるのが美少女っていうのが唯一の救いだな。
相変わらずウルスラはスパルタだけど……。
しかし、半月もする頃には……。
「火球」
ボボボボボッ! ボボボボボッ! ボボボボボッ! ボボボボボッ! ボボボボボッ! ボボボボボッ! ボボボボボッ!
とまあ……。
本当に、1000発も火球が撃てるようになった。
打ってもしかも、ぜんぜん平気なのよね。
「すごいです、アインさん♡」
「ふん……ユーリのおかげじゃ。海よりも深く感謝しろよ」
俺は凄まじい量の魔力を手に入れた。
そして賢者から鑑定した無数の魔法を自在に扱えるようになったのだった。




