表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そこな令嬢、ご満悦!  作者: シラスイ
9/55

9 入学式に向けて/境界-1




 入学式を六日後に控えた私だけれども、今日も書斎に引きこもる。


「ルミリエは運動を全然しないけど、大丈夫かい?」

「平気です、お父様。それに、運動した方が良いのはお父様も同じでは?」


 思わぬ娘からのカウンターにより父、999999のダメージ!

 お父様がバタリと机にダウンした。


 だって事実だし………最近また肥えたし………


 私の中では、太った貴族=悪代官みたいなイメージがあるから、正直早く痩せて欲しい。お母様はあんなにも美人なのに……そのせいで段々、お父様のカリスマオーラが落ちてきている。


 そんなお父様を尻目に、今日の本に目を通す。

 魔術とは何か、という根本を追究した賢者が書いた本だ。

 かな〜り難しい本で、頑張って読んでいる。もはや解読に近い形だ。お父様なら読めるかもしれないけど、多分内容は理解できないんじゃないかな………


 この本では最初に、魔術の成り立ちについて綴られている。やたら長い文章で、これだけ読むのも苦労した。ちなみに、この冒頭は全ページの二パーセントくらいにしか過ぎない。そして、私が解読したのもここまで。つまり、まだ一割の半分も読み終わってない。

 古めかしい文章だし、読んでいると言葉使いがおかしくなりそう。


………そういえば、この世界の言語に馴染みすぎて、最近日本語を忘れる時がある。忘れないように、英語も含めて地球ノートでも作っておこう。


「ルミィ、いる?」


 扉を開けて、お兄様がやって来た。


「お兄様!お兄様も本を読みに来たのですか!」

「いや、ルミィにお客さんだよ。」

「お客さん………って、私に用事がある人、ですか?」

 

 誰だろう……外の人と関わったのは、先日のパーティーきりだし……そもそもパーティーでも、誰とも知り合えなかったし………あれ?目から汗が出てきた。


「そうだよ。応接間に通したから、早く行った方がいいんじゃないかな。………それと、なぜ父様は伏せて……?」

「さあ?眠くなってしまったのではありませんかね?」


 さてと、応接間へ向かいましょう!






   ・・・・・・・・






 応接間で私を待っていたのは、先日のパーティーの主催、ジエム学院院長、初老の男性、ドリンクバー……じゃなかった、セルフ·デロンク=ゾイサイトさんだった。


「これはこれはルミリエ嬢、先日はお越しいただきありがとうございました。」


 うぉっ、いきなり芸術的なお辞儀を……これが年の功というやつか。うん、ちょっと違うね。


「いえいえ、私もご招待頂けて光栄でしたわ。」

「そうですか、お楽しみ頂けたようで何よりです。」


 メイドさんが、ミルクティーを私とドリンクバーさんの前に置く。応接間のこの机にも、リビング同様にお母様のお気に入りの、魔道具ポットは置かれている。


 実はこのミルクティー、私がお母様に提案して作ったものなのだ。この世界には紅茶はあるけれど、そこからの派生が乏しいことに私は気が付いた。

 アップルティーはあるのにシナモンティーもミルクティーも無いなんて寂しい!ならば作ればいいじゃない!というわけで、ルミリエプロデュースのお茶が何種類か出来た。お母様も大満足してくれたし、いい仕事をしたと思う。


 ちなみに、ミルクティーはロイヤルではない。作り方が分からないので。


 ドリンクバーさんがススっとミルクティーを飲む。動きが洗練されていて、いかにも高貴な貴族、みたいな感じ。


「……この茶は初めて飲みました。何という茶なのでしょうか?」

「ミルクティーです。私が本で読んだ中にそのようなものがありまして、紅茶とミルクを混ぜるのです。」

「なるほど、道理でまろやかなわけですね。流石はルミリエ嬢、博識でいらっしゃいますな。」


 私が考えました!とは言わない。地球の偉大なる先人達に失礼だもの。

 どうやらミルクティーは、ドリンクバーさんにも好評なようだ。よかった、「なんだこの白い茶は!」とかなったら怖いし。


「してデロンク院長、今日は私に用がおありとか………」

「ああ、そうでした。今日はお願いをしに来たのですよ。」

「お願い……?」


 なんだろう。……もしかして、この髪のことかも。問題になるから染めろ、とか?もしくはスキンヘッドにしてこいとか!やだ私、丸坊主で学院へ通うの!?


「はい、新入生代表として、お言葉を述べて頂きたいのです。」


………変なこと考えてすみませんでした。ですよね、そうですよね。そこはそう来るよね。

 でも何で私?


 それが伝わったのか、ドリンクバーさんはこう話した。


「実はですね、最初はジル様にお言葉を頂きたいと頼んだのですが………頑なに断られてしまって。そこで、我が国の柱とも言える五天貴族、そのご令嬢であるルミリエ嬢ならばと。」


 なるほど、私は二番煎じか。


 まあ、そりゃそうだよね。むしろ凄いことか。どう考えても、今年の入学生の中で知名度は、王子が一番に決まってる。それで私と比べたら多分太陽とテミストくらい差があるよ。だって私、書斎に毎日引きこもってるニート令嬢だし。対して王子は超アメィジングでアクティブな人だし。



 でも、まあやってもいいかな。


「分かりました。それならば、喜んで引き受けさせていただきますわ。」

「ありがとうございます。」


 私もミルクティーを飲む。なーんか違うんだよなぁ………ただ牛乳!茶!みたいな味で。改良の余地がありそうね。


「つきましては、入学式のこのタイミングで………」


 その後少し打ち合わせをしてから、ドリンクバーさんは帰って行った。


 しっかし、紳士な人だったな………あの人が院長なら、学院も安泰だろうね。



 さてと……私も入学式までに、その内容を考えておきますか。






   ・・・・・・・・






 そこは、"境界"と呼ばれる不思議な場所。先は見通せず、暗いのに明るい。


 そんな境界に、一つの溜息が漏れた。


「はあ………遅いなあ……」


 その者の名を知る者は0に近い。真の姿を見た者も、いない。


 神として振る舞い、境界で輪廻転生を見守る。それが、彼の使命にして、唯一の楽しみである。


 そして、新たな使命に従い、最近では別世界に魂を送り出すということもしているのだが……そのことについて、彼は頭を悩ませていた。


「魂の癒着状態は良し、精神も安定。肉体のデータはいいんだけど………肝心のアレがまだなんだよなぁ……」


 前に送り出した一人の少女。


 彼女が偶然持っていた物質に与えた力。何故か、本当の『物質』であったそれは、力を分けると予想を遥かに超える代物となった。


 前例の無いことであり、本心ではそれを彼女に与えず、研究したいところではあったが……


 危険が無いとは言いきれない。故に、今回はデータをとるに収めた。


 しかし所有者の彼女、星城龍美(せいじょうるみ)……いや、ルミリエ·セルグランス=ダイヤモンドは、今まで六年間一回も『トリスタン』を飲んでくれていない。


「あの人も急かしてくるし、早くデータが取りたいんだけど……メッセージなら行けるか。エネルギーは消費するけど……」


 物質を送ることは出来ないが、他の方法なら使える。



「さて、一応試して見ようか……」

 


 そう呟き、彼は今日も任務をこなす。



ブクマありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ