6 入学パーティ/ともだちができない...
「ようこそおいでなさいました、セルグランス卿。此度は最高級の料理と場をご用意させて頂きました。ごゆるりとお楽しみ下さい。」
馬車にゆられて2時間ほど。
お父様&お兄様と一緒に会場へ入った私は、初めて感じる雰囲気に圧倒されていた。
煌びやかな装飾に紳士なウエイトレス。大量のお料理とシャンパンタワー、ドレスやスーツを纏った貴族達。
そして何より、屋外なのに設置された、1段高い大きな踊り場。
夢のような世界とはこのことだ。転生してから今までで一番、私が貴族ということを実感させられた気がする………うっ、頭が……
「ルミリエ、大丈夫かい?」
「平気です……ですわお父様。少し目眩がしただけですの。」
「ぷっ、」
あ、笑ったな兄め!
仕方ないじゃない。だってお母様に、「話し方に気を付けろ」と口酸っぱく言われたからね!
「お兄様?」
「ごめんごめん、ルミィがいつもと違ってお嬢様っぽかったから、つい。」
「いつもはお嬢様っぽくないと仰るのですか……」
全くもって心外です。
「ルミリエ、エレイ。今から学院長のお言葉だから静かに。」
「了解です父様。」
「わかりましたわ、お父様。」
「………ぷ」
お、お父様まで…………
・・・・・・・・
「皆様、初めまして。私はセルフ·デロンク=ゾイサイト。我がローレン陛下の命により、学院長を勤めさせて頂いております。以後お見知り置きを。」
私達は遅めに到着したらしく、指定席に着いて直ぐに学院長のお言葉が始まった。見た目、初老のお爺さんってとこかな。
セルフデロンク……セルフドリンク…………
おし、学院長はドリンクバーさんでいこう。
「さて、此度は今年、ジエム幼等貴族院へご入学される方々の顔合わせという意味もございます。踊り場もありますので、お好きに交流をお重ね下さい。
それでは次に。大変光栄ながら、陛下直々に祝辞を述べられて下さるそうです。それでは、どうぞ。」
会場の雰囲気が一転、緊張に包まれる。何かを感じ取ったのか、学院長が話している間もワイワイうるさかった子達も、嘘のように静かになった。
そして会場の中央。
王が、姿を現した。
「ご苦労セルフ。……さて、余がジエム王国国王、ローレン·ヴァイス=ジュエラリーだ。まずは入学おめでとう。……ああ、そんなに緊張せずとも良い。今年は第二王子であるジルも入学するのでな、余が顔を出すのも当然であろう。
それでは、子供達の栄誉ある将来を願って………祝杯を!」
王がグラスを天高く掲げた。
「「「祝杯を!」」」
皆、同じようにグラスを掲げ……って、お父様もお兄様もやってる!私も慌ててグラスを掲げた。
騒がしくなる会場。どうやら今のが、開始の合図だったみたい。
「二人とも、まずは陛下にご挨拶へ行こうか。」
王の周りには既に、わらわらと人が集まっている。うわぁ、あの中に入るのか……私、昔から人が多いとこ苦手なんだよなぁ……
「ルミィ、背筋」
いつの間にか猫背になっていた。お兄様に言われて気づき、ピンと姿勢を正す。せめて令嬢として相応しい態度で!おどきなさい貴方達!公爵令嬢のお通りよ!
「……ん?…おおグロウル!グロウルではないか!久しいな!」
「お久しぶりで御座います陛下。お元気そうで何より。」
お?あっちから気付いて寄ってきた。他の人達そっちのけでこちらに来たけれど、大丈夫なのか、王。
「あれはセルグランス卿!」
「ダイヤモンド公………!」
「ということはあの子がご令息とご令嬢?」
「き、綺麗だ……」
ああ注目を浴びている……見ないでくれぇ……私は根が小心者なんだ、この若さで胃に穴を開けるのだけはいやぁ……
「お、エレイか。大きくなったな。」
「本日はお会いできて、光栄です。」
お、王。お兄様と面識があるのか、知らなかった。
おば様方から「あらやだ美少年」みたいな声が聞こえる………お兄様カッコイイもんね。私の同級生となる子達の中にも、顔を赤らめる女の子達がいる。………お兄様は誰にも渡しませんけど。
「その子は……お前がよく話していた娘か。」
「ええ。自慢の娘です。ルミリエ、ご挨拶を。」
「ルミリエ·セルグランス=ダイヤモンドでございます。」
ドレスの裾をちょこんと摘み、優雅に一礼をする。反対に内心はバックバク。やばい、名前言うくらいしか思い出せなかった!どうしよう……不敬罪でシメられるのか、そうなのか!?
「ほう、よく出来た娘だな。どれ、お前も挨拶したらどうだ。」
顔をあげてみると、ふてぶてしいイケメンがいた。違った、第二王子だ。黒髪に白のメッシュが入っている。顔は……優しいというより近寄り難い感じ。
「……ジル·ヴァイス=ジュエラリー。」
そうぶっきらぼうに王子は言うと、そのまま向こうへ行ってしまった。………あ、女子達に囲まれてる。てかキャーキャーうるさいわ……猿みたい。
「すまぬな、ルミリエよ。あやつは人付き合いが苦手なのだ。」
「とんでもありませんわ、陛下。」
おおおやっばい、ルミリエ·エンジンがドクドク鳴り響いてる………緊張で潰れそう……王って謎の威圧感があるわ……
そんな内心を押し殺して、表面では落ち着いて対応する。
「どうやら他にも陛下とお話したい方々がいらっしゃる様ですし……お時間のご都合もあるでしょうから、そろそろ……」
早くどっか行ってくれないかな………
そんな願いが通じたのか、王は「そうだな。では、余は行くとしよう。では、な。ダイヤモンド公。」と言って向こうへ行った。
「すごいじゃないかルミィ。陛下とお話出来るなんて。」
「え、ええ。堂々としたお方でしたわね。それより、お料理を取りに行きましょうよ。」
「ルミリエ、それよりって…………まあいいか。私達のテーブルはここだけど、自由に動いていいからね。私は他の方々とお話してくるよ。」
お父様も行ってしまった。残りの頼りの綱は、お兄様だけだ。
「お兄様、一緒に行きましょう!」
「そうだね。何が食べたい?」
ビュッフェ形式になっているため、お皿を取ってお料理を乗せる。
「そこのお肉を三切れ……あら?」
前に、同年代の少女を発見。………よし、話しかけてみよう。この場で友達第一号、ゲットなるか!?
「ごきげんよう。私……」
「ご、ごめんなさいっ!」
少女は逃走した!
………あれ?
「お、お兄様……」
「……逃げられちゃったね。」
「……お肉、五枚取って下さい。」
ちょっぴり悲しくなった。
・・・・・・・・
解せぬ。
何故だ。何故逃げるのだ。
あの後、もしかしたら自分の名前から入るのが駄目なのかな?と思い、そこら辺の女の子達に「ごきげんよう。あなたのお名前は?」と声をかけてみた。
結果はダメダメ。「も、申し訳ありませんわ!」やら「ごめんなさい!」やら………何で?皆集まってワイワイしてるじゃん!何だ?私が怖いのか?公爵令嬢だからか?6歳だぞ?
近寄ったら離れられ始めたので、今はヤケクソ気味に料理を貪っている。オムレツにカレー、海老グラタンにティラミス。
…………おわかりいただけただろうか。
ここは異世界。私も転生当初、ご飯の文化も違うだろなぁと思っていた。
しかし!なんと前世で馴染み深い料理達がたっくさんあ~るじゃないですか!
気になった私は、書物庫で少し調べてみた。そして見つけた。とある、伝説と呼ばれた男の本を。
──美食の師"ジョルジュ·フレッチ=アレクサンダ"──
『産まれは不明、賢廻暦29年没。美食家であり、センツリー共和国にて料理屋を営む。彼の編み出した料理は数しれず、文化に大いなる貢献をしたとして"美食の師"の称号を授かる。ピザ、パスタ、ハンバーガー、ドリアなど主食を始め、ショコラ、ティラミス、マカロンといった甘味も編み出した。クサヤやナットウといった、クセのあるものも生み出したという。──』
………確信した。こいつ、転生…いや転移者だと。多分フランス人。
今度もし神(笑)に会ったら、コイツのことを問い正そう。
「ちょっと、そこのあなた!」
おっと、今はパーティーの途中でしたわ。
それで?ぼっちになっていた私に話しかけて来たのは………おお、女の子たちだ!あちらから来てくれるなんて感激!
……でも、案外大人数で来たので若干緊張する。努めて笑顔で対応を!
「ごきげんよう皆さん。貴方方のお名前……」
「公爵だからといって、あまり調子に乗らない方が身のためですわよ!」
「「そうよそうよ!」」
おろ?
「王様と話したからって一人でいるなんて寂しい人!そ、そんなものだから誰もよってこないのでは?」
んん?
「わ、わわ私のお父様はすごい方ですわよ!あ、あなたなんか、かんたんに潰せるかりゃ!」
………んんん!?
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