53 雨の賢者/緊急退避
✳霧島視点
「どうですか?上手く行きました?」
儂の隣で、十歳とちょっとの少女がそう聞いてくる。
「大丈夫じゃ。気付かれておらん。このまま、例の部屋まで操作するぞい。」
儂は現在、少女…ルミリエに、第二王子に取り付けさせた小型ゴーレムを遠隔操作しておる。
このゴーレムには、儂の微細な魔力を感じ取り、弱くはなるが儂の"消去"と"復元"や魔法を放てるようになっている。
本来は、神のヤツから『次は学院だよ。それも少等院。』と聞いた時から用意していた盗撮盗聴用のゴーレム…いや、何も言うまい。
とはいえ、こうして役立てることができて万々歳じゃ。魔法も一部使えるようにしておいて正解じゃった。これで、一度来た場所にしか飛べない転移を、空間座標の固定をゴーレムにやらせることで楽に済ませる。
「霧島さん霧島さん。今回は、あくまで調査ですよね?その部屋に何かないか、という。」
「そうじゃな。じゃが、仮に目標がいたならば、その場で狩るぞ。
……お、着いたみたいじゃ。」
さて、そろそろ行くかの。
もしやすると、久しぶりの運動になるやもしれんが、その時は儂の"雨の賢者"としての力を出すだけじゃ。
「もし、手を借りんといかん状況になったら連絡する。その時は、この魔術を使え。上級空間魔術じゃ。座標もつけ足したからの、自動的に跳べるようになっておる。」
「…わかりました。お気をつけて。」
「うむ。」
ゴーレムの取り付けた空間座標まで、一瞬で移動する。
すると、目の前には扉の護衛が三人。
「なっ、何者だ!」
「"ワイドスリープ"」
動揺しておる途中に、中級魔法で眠らせる。
実は儂、王城のヤツらには顔バレしておるので、一応フードを被ってきた。この国に住んどるだけなんじゃが、知らんうちに国家戦力扱いになっておったんじゃ。
「侵入者だ!捕らえろ!」
ほお、もう追加が来るか。ここの兵士は優秀じゃのう。
見たところ二十人程度かの。
「"雨域"」
「雲…?」
「総員警戒態勢!相手は魔術師だ!」
やはり優秀じゃ。魔術師だとわかるや否や、配置をすぐさま変更とは。
じゃがな…一つ違う。
儂は、魔術師ではないんじゃよ。
「…母なる大地よ天空よ、我の願いに応え顕現せよ"石狂域"!」
向こう魔術師三人が、同時に地属性の域を展開しおった。
こちらは水属性。普通に考えれば不利。
ま、それだけじゃないがな。
儂の"雨域"は、水、火、氷、雷、そして空間属性の複合魔法じゃ。
上空にできた雲へ向け、一筋の紫電を放つ。
「まさか…」
「引けーっ!結界魔術を発動させろ!」
敵隊長がそう叫ぶ。
魔術師は、結界魔術を慌てて張る。
「大丈夫じゃ。──死にはせん。」
極太の光柱…いや、雷が落ちる。それはあたかもレーザーのように、数秒間降り注いだ。
ふむ……死にはせん、とは言ったものの、これやっぱ死んだかもな。ヒホッ。
こう煌びやかな場所で、雨が降りしきるというのは何とも不思議で違和感があるのう。その中で一人、佇む儂。
一応、倒れ伏した兵士どもに回復魔法をかけてやる。仮に心臓が止まっていても、これで動くようにはなるじゃろ。
階段を下りる足音が聞こえてきた。面倒じゃし、さっさと見てくるか。
「"消去"」
結界を存在ごと消去する。そして、扉の一部も消去。
中に入り、即座に"復元"で戻した。
「……ほぉ。こりゃ酷い。」
中は、そう呟いてしまうほどの景観じゃった。
明かりもなければ道もない。それだけでなく、壁がズタズタに引き裂かれたようになっておる。
どうやら、かなり広い空間のようじゃ。
…そして、一人誰かがおる。
儂は夜目が効くほうじゃが、こう真っ暗ではさすがに無理じゃ。光球でも出すか。
「…広いのう」
おもちゃのようなものや壊れた武具、食器やらが散漫しておる。まるで、巨大動物が暴れ回った痕みたいな感じじゃ。
ゆっくり奥へ歩いてゆくと、人間の反応が動いた。どうやら、こちらに気づいたようじゃ。
やはり、間違いない。この反応、幼子…四、五歳といったところか。
だんだんと距離が縮まる。
…万一に備えて、準備だけはしておくかの。
そして、数十秒。
ついに、お互いの顔が見える位置まで来た。
「こんばんは、お嬢ちゃん。名前は?」
その少女は、何も知らないような、無垢な顔をしていた。
その姿に、儂は思わず引いてしまった。
「こんばんは…?」
この少女はチートを持っている。
そして、その力は儂を滅ぼし足り得るほど。そう悟ったのじゃった。
・・・・・・・・
「暇…退屈…」
私は、超絶暇だった。
強いて言うならば、ベッドに横たわって霧島さんを待つくらいしか、やることがない。
あー……暇。
でも、それでいい。霧島さんが救援要請なんて、それは危険ってことじゃないですか。行きたくないじゃないですか。
一応、"トリスタン"はちゃんと持ってるし、着替えもしておいた。流石に寝巻きで戦闘とかアホくさいし。
「"トリスタン"ねぇ…」
上級魔術や最上級魔術の発動練習の時にしか、最近は使っていない。魔素量が一時的に増えるから、素では撃てない魔術も撃てるようになるから便利。
神(笑)の言う通り、副作用も緩和されている。二錠までなら、聖(短)剣持ちで普通にいける。
ただ、やっぱ私、一応貴族なのよ?公爵家のご令嬢よ?戦いとは無縁な人種のはずなんだけどなあ……
でも、私は〖天使〗らしいし。これも仕方のないことなのかもしれない。ウルトラスーパー不本意だけれど。
「……」
静かな夜。
その静寂を突き破ったのは、またもやあのロリコンジジイだった。
ボーッとしていた私の目の前の空間が、突如揺らぎ始める。
「き、霧島さん!?」
「捕まれ!一度退避する!」
霧島さんの腕には、見知らぬ女の子が一人抱えられていた。
「えっ、その子って…」
「話は後じゃ!早く!」
「わ、わかりましたっ!」
空間魔法が発動した。
一瞬光に包まれ、浮遊するような感覚の後、私は全く知らない場所にいた。
「ここは…?」
「儂の隠れ家じゃ。全く、面倒なことになったわい。」
「え、ちょっと何が面倒なことになったのか説明して下さいよ。私、何が何やら…」
「そうじゃな。まずはこの子……メグリについてじゃ。
こやつは転生者じゃ。強力なチートを持っておる。じゃが、まだ記憶を取り戻しておらん。」
つまり…あれだ。転生したことに後になって気づくパターンってことかな。
「それで、なんでここに?」
「ああ。それじゃが…しばらくは、ここにいた方がよさそうじゃ。」
寝ている?女の子…メグリを横目に、霧島さんははっきりと、こう言った。
「魔王が、現れた。」
「……は?」
衝撃の告白だった。




