5 六歳、パーティーに向けて/兄の心情-1
皆さん、ご機嫌よう!
セルグランス家にて、箱入り娘として育てられた私もついに6歳。この世界に転生してから6年も経ったと考えると、何だか考え深いですね。
そして今日は、学院主催のパーティーの日。幼等貴族院へ通う子たちとの顔合わせの意味も兼ねたパーティーです。
私は転生してから今に至るまで、一度も外へ出たことがありません。なので、今日初めて異世界の外へ足を踏み入れることになります。楽しみやら緊張やらが混じって変な気分。
「お嬢様、最後の確認を致しましょう。」
「はい、マリー。恥を晒す訳にはいかないものね。」
お世話係のマリーには、礼儀作法やパーティーに向けてのダンスを教わった。
今回のパーティーには、何と!この国の王様もいらっしゃるようで、無礼は許されない。しかも、同年代には第二王子もいらっしゃるようで、少しだけ心配。そもそも、家の者以外の人と関わるのは前世以来だし……いや、関わると決まったわけではないし。ああでも顔合わせだから強制か……胃が重い。
「完璧ですお嬢様。ドレスも似合っておりますよ。」
「……ありがとうマリー。」
あと気になるのは、「このドレス、フリフリ過ぎない……?」ということ。もしかしたらこれが普通なのかもしれないけど、日本人の感覚を忘れていない私にとっては、ちょっと引け目を感じるデザインだ。いや可愛いのだけど!白と蒼がマッチしていて素晴らしいのだけど!
立てかけられた鏡を見る。
………うん。6歳になって少しハッキリしてきたけど……私、結構美少女だわ。本当に若干つり目かもしれないものの、ぱっちりした目、そしてお父様やお母様のような、どこか気品を感じさせる顔立ち。
しかも若干、前世の私の雰囲気も混じっている。これは……神(笑)のやつ、いい仕事をしたじゃあないか。褒めて遣わすぞ。
髪はロングヘア。お母様がロールにしようと迫って来たことがあったけど、断固拒否させてもらった。この白髪には、クルクルは似合わない。
髪飾りは許容範囲だから付ける。ただこの髪飾り、真ん中に超大粒のダイヤモンドが。光がめっっっちゃ反射して目立つ。これで目潰しとか出来るかな?
「ルミリエ、そろそろ支度は終わったかな?」
部屋の外から、お父様の声。
「はーい、今参ります!」
荷物はマリーが持ってくれている。悪いので私が持つと言っても、「勤めですから。」と言い張り聞いてくれなかった。
「お……おお、ルミリエ!とてもよく似合っているよ。タールもそう思うだろう?」
「ありがとうございます、お父様!タールも。」
お父様の腕の中には赤子が。
そう、なんと今年、私に弟が出来たのだ!お兄様は現在12歳なので、中々に歳の離れた兄弟だけども、私はもちろんお兄様も皆で可愛がっている。
……もしや、私が産まれた時も同じ感じだったのかなぁ。
「しかし、いいのですかお父様?タールを家へ置いてきて。」
「大丈夫だよ。スエラもマリーさんもいるからね。」
この顔合わせのパーティーはかなーり大事なものらしく、お父様も出席することが決まっている。
お母様は、出産して日にちが浅いことから、大事をとって欠席。代わりに、お兄様が付いて来てくれることとなった。やったぜ!
「それでは、そろそろ行こうか。」
「分かりました………あっ!ちょっと待っていて下さい!すぐ戻ります!」
危ない危ない。忘れる所だった。
「確かここら辺に………あった。」
部屋に戻り、隠し棚の奥の箱。
箱の蓋を開けて現れるのは、6年間まだ一度も使っていない真っ赤な錠剤。
───トリスタン10。
………念のため、ドレスの内側に、忍ばせておこう。
・・・・・・・・
僕の名前はエレイ·セルグランス=ダイヤモンド。
大貴族の証、ダイヤモンド公の称号を持つセルグランス家。王族との繋がりも深い。父様と母様は僕を世継ぎとして、高いレベルの教育を、小さい頃から施してくれた。
そんな僕には、妹がいる。
ルミリエ·セルグランス=ダイヤモンド。それが妹の名だ。僕はルミィと呼んでいる。
僕が五歳の時に産まれた妹は、公爵家の長女としてどうなのか疑問を抱くくらい、それはもうおかしな子だ。
夜泣きもしなければ食べ物の好き嫌いも全く無い。1歳の時には、言葉が分かってるんじゃないか?と思わず疑ってしまうような行動を何度もしていた。
そんな大人しい妹かと思えば、ハイハイが出来るようになると、屋敷中をちょこまかちょこまか。僕の部屋まで来たこともあるし、廊下でばったり出くわすこともあった。まさに神出鬼没。
中でも一番驚いたのは、姿を消したルミィを探しに、屋敷中を皆で探した時。
僕も当然、探し回ったものの、全く見つからず。
疲れたから水を飲もうと、リビングへの渡り廊下を歩いていた時だ。
使用人の一人が、曲がり角を曲がらず、まっすぐ歩いていった次の瞬間。
彼女が来た道から、なんとルミィがひょこっと姿を現したのだ!
その時の顔は今でも忘れられない。
彼女が通り過ぎた方向を見て「まいてやったぜ!」というような表情をして、曲がり角を曲がったルミィ。
真正面に、僕。
2歳児がするとは思えない、驚愕の表情を浮かべていた。
ああ、今思い出しても笑えてくる。その後、猛スピードで逃げたルミィを捕まえて、母様に突き出した時に浮かべた絶望の表情も傑作だ。
それに、妹は天才だ。4歳にもなると、父様の書斎に入り浸って難しい本を読んでいたし、「本当に4歳なの?」と言いたくなる程、既に語彙力が凄まじかった。僕も、兄の面子を保つため本をたくさん読んだっけ。
そんな妹も、今年で6歳。つまり、幼等院に通い始める年だ。
活発な妹だけど、外に出るのはこれで初めて。お母様はタールの世話と疲れがあるから、僕がルミィの付き添いをすることとなった。
「お兄様お兄様!あの大きな建物はなんと言うのですか?」
広い外の世界に不安とかないかな……?と最初こそ思ったけど、そんな心配もどうやら杞憂に終わりそうだ。
「あれは冒険者ギルドだよ。ほら、ルミィも昔なりたい!と言っていたじゃないか。」
そう、ルミィは4歳の頃、急に「冒険者になるのが夢!」とか言い出したことがある。あれは本当に驚いた。
「それにしても、この馬車は広いですね!リムジンみたいです!」
「リムジン……は分からないけど、確かに馬車の中でも大きい部類だよ。グレーターホースという、馬型の魔物が引いているんだ。」
「魔物がですか?」
魔物と聞いても驚かないとは……流石はルミィ。この妹は全然物怖じしない。しなさ過ぎて、この前うちの番犬に近づいて噛まれてた。くくく。
「魔物は、通常の動物より力が強いからね。グレーターホースは優しい性格だから、魔物だけどこうして馬車を引かせることも出来るんだ。」
「あ、知っています!動物の魔力が飽和して、魔物になるんでしたよね。凶暴な種類が多いと聞きましたが、例外もあるのですね。」
本当に、よく知っている。それは小等院で習うことだろうに……
この妹なら、人付き合いも上手くやって行けるだろう。品位を疑われることをしなければ完璧だ。礼儀作法も、マリーさんが仕込んでくれたから心配ない。
あと心配なのは……………あのことか。
こればっかりは、僕が守らないといけないな。
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