49 境界交信-3/殺人依頼
『やあ。』
やあ。神(笑)さんお久しぶり。
前会ったのって、二ヶ月前ですよね?若干早くないですか?
『うん。今回からちょっと君にも動いて欲しくてね。』
君にも?
『そう。以前、この場には時が流れてないって話はしたよね?』
あー…、そんなこと言ってましたね。
『うろ覚えなんだ……簡単に言うと、どの時間軸とも繋がってると考えてね。もっとも、自由に干渉できるってわけでもないけど。』
はい。
『だから、今回は他の転生者…君の時代よりも六十年前の時代に転生した、霧島海翔と協力して欲しい。』
えっ、協力…って、どういうことですか…?
『彼には、賢廻暦259年の春、ジエム王国のセルグランス領領主邸、その南二階の右から三番目の部屋に、夜忍び込むよう伝えてある。』
お、おう…完全に私の部屋ですねそこ…。
『多分今日の夜には、君の部屋に見知らぬおじいちゃんが忍び込んでくるだろうけど、不審者じゃないから安心してね。』
おじいちゃん…その、霧島さんと直接会って、行動するんですか?
『そうだよ。ただ、彼は何というか…ロリコンだから、一応気をつけてね。』
ロリコン。あ、今私十歳だ。ジャストの年齢じゃないですか!
え~、他の人じゃダメですか?
『この時間軸では、君と彼だけなんだ。まだ、新しくこの世界に送るだけのエネルギーも溜まってないからね。』
そうですか…。
それで?私はその霧島さんと何をすればいいんでしょうか?
『今回の頼みは、今までと打って変わって、君を辛い気持ちにさせてしまうだろう。そうだと分かっていながら、こんな頼みをしてしまう事をまず謝りたい。』
う、うん。珍しく真面目な雰囲気ですね。
いいですよ。一応、死ぬだけだった私に新たな人生をくれた恩人もとい恩神(笑)ですし。
『その(笑)は取れないんだね…。でも、ありがとう。
今回の依頼は……』
そして少し溜めてから神は、『人を、殺す依頼だよ』と、静かに告げた。
・・・・・・・・
人を、殺す依頼。
殺人は、重犯罪である。それは、この国でも同じだ。
学院の中でも、今日言われたことをずっと考えていた。授業も、殆ど頭に入ってこなかった。
「大丈夫かい?今日はやけに暗い顔だったけれど…」
「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
「平気よ、タール。ちょっと体調が優れないだけだから。お父様もありがとう。」
「それは平気とは言えないけどね…最近は色々あったし、疲れたのだろう。今日はゆっくりと寝なさい。」
「わかりました。では、おやすみなさい。」
「おやすみ、おねえちゃん!」
ガチャ、と部屋の扉を閉める。
「……」
「まあ、そりゃ心配されるじゃろ。そんな顔色してたら。」
「っ!」
窓縁に座る、一人の影。
窓を開ける音もしなかった。というか、目には見えるのに気配が全くしない。不思議な感覚。
「ホヒッ…にしても、こんな若い子と共闘とは…神の奴、先に言っとくれたら良かったのにの…。」
パチ、と明かりが付き、その男の姿がはっきりと、そして同時に気配も顕になった。
「霧島さん…ですか?」
「ヒホッ、そうじゃ。儂が、霧島海翔──この世界では、ヘーズと呼ばれておる。その名を知っているとは、お主で正解のようじゃな。」
この人が、六番目の転生者。
そして……"雨の賢者"その人か。
「はじめまして、お嬢さん。確か、星条龍美…いや、ルミリエと言ったかの?さあ、二人きりの作戦会議を始めようぞ…!」