44 遠足へゴー!
「ルミリエ様ルミリエ様!見てくださいこれ!」
「すごいですね。区によって、ここまで景色が変わるなんて、驚きです。」
私たちは現在、学院の遠足でエデラー区のライルット草原…つまり、こないだ黒スライムと戦ったあの地に向かっている。
遠足は、早朝に学年皆で出発し、馬車で移動からの草原でマターリする予定らしい。帰りは夕方頃。日帰りである。
「ジル様も、少しは景色を見てみては?」
「ああ…。」
馬車は一台に一班の六人ずつ、御者や護衛をあわせて十人くらいが乗っている。
そして班決めは、それぞれ好きな子同士で六人ずつ組めることになったのですが……まあ、当然というかなんというか、王子がウルトラスーパー大人気でして…。
王子争奪戦がクラスで行われ、収拾がつかなくなった結果…先生によって仲良し五人で固まっていた私たちの班に、王子がねじ込まれました。正直言って爆弾です。イラシャちゃんにめっちゃ睨まれました。
まあ、それは仕方ないのでいいとして…。
「ジル様、酔ってます?」
「酔ってない……俺は酔ってなどいないぞ…」
王子が馬車酔いしている。揺れが苦手なようで、大きく馬車が揺れると、毎度ビクッと反応していて、ちょっと面白い。
「…酔い止め、いりますか?」
「いr……酔ってないから、大丈夫だ。」
「痩せ我慢は良くないですよ。ほら。」
「…分かった。」
念の為、私が持ってきた酔い止め薬を渋々受け取る王子。
あれ、酔い止めって酔ってる時飲むんだっけ?酔う前に飲むんだっけ?…ま、いっか。
「それにしても、いい景色ですね~。こんなところに来るのは初めてです。」
「そうだね~」
「ですね~」
サリエちゃんとリラちゃん、ロローナちゃん三人は、初めて見る田舎の風景に魅入っている。
私も、この前は夜中だったから真っ暗で景色なんか見えなかったし、実質ここには初めて来たようなものだ。馬車から外の景色を覗くだけで楽しい。
あ~、空気がおいしい~!変わりは無いだろうけどおいしい~!
「あれは…!」
「遠視で見てみろ。…スライムだ。」
「えっ!?」
御者の人と、護衛騎士の会話だったものの、私は聞き逃さなかった。
あわてて外を見てみる。
「どうしました?」
「あ、ああ、大丈夫ですよお嬢さん。小さいスライムが通る道に出ただけですので。魔物はいないという話でしたがね…。」
「僕たちが駆除してくるから、安心してね。」
馬車を止め、護衛の人らが前に出る。
「"ロックスマッシュ"!!」
騎士たちが剣を抜いた瞬間、突然スライムの上から岩石が落ちてきた。魔術だ。
あれ、騎士たちが魔術使った素振りは見えなかったけれど…。
「お前ら、大丈夫かー?」
「あ、先生!」
スタッ、と上空から私たちの目の前に着地した先生。
「ストラグさん!お疲れです!」
護衛騎士たちが一斉に、先生に向かって敬礼をした。
「なに、ちょうど俺が見つけただけだしな。全く、念の為見回りしといてよかったぜ。」
見回り?馬車は移動してるのに?…でも、今の身体能力見ればありえなくないかも…。
「ああ、うちの五班か。偶然だな。ちょいと邪魔するぞ。」
「えっ、乗るんですか?」
「ちょっと休憩をな。なに、すぐ降りるからよ、そしたらジルと好きなだけ話してろ。」
「いや、この人酔ってるんですよ。」
そんなこんなで、先生も乗せて馬車は再出発した。
先生の言っていた『見回り』は、この間この地区に、あの黒スライムが現れたことから、一応通り道の安全確保…という名の暇潰しをしていたようで、ミニ黒スライムと遭遇したのは偶然。結局、目的地に着くまでうちの馬車に乗っていた。この人も大概、よく分からない人ですよほんと。
あ、あと、王子と先生が思ったより仲良しで、先生という立場というよりかは、叔父さんみたいな接し方だった。馬車酔いしてたけど。
そして、目的地のライルット草原に着いた私たちは、先生方の目につく範囲なら自由行動。ランチ食べても鬼ごっこしても良い。
しかし何より、着いて一番驚いたのは…。
「…庶民院と合同なんですね。」
少し離れた場所に、子どもたちがたくさん。
どうやら今回のイベントは、貴族と庶民の交流目的らしいです。…白髪の私、死にました。