4 あっという間に四歳です
皆さん、ごきげんよう!
私、星城龍美もとい、ルミリエ·セルグランス=ダイヤモンドは今年で4歳となりました!
すっかり歩けるようになって、言葉も話せるようになったお陰で毎日が楽しいです!また、お嬢様生活にも慣れてきました、なんて。
最近のマイブームはお父様と一緒に書斎へこもること。「ルミリエは勉強熱心だねぇ」と褒められるし、何よりこの世界について色々調べられるから便利。
「ルミリエはいつもその本を読んでいるけど、そんなに魔術に興味があるのかな?」
「はいお父様!私の憧れなんです!」
特に好きなのが、この『魔術大全』。魔術の種類や詠唱から、魔法陣の組み立てまで網羅されていて、前世がオタクな私にとって格好の獲物だ。
「それに私、夢があるんです。」
「夢か。それ、聞かせて貰えるかい?」
「私の夢は、冒険者になることです!」
おっと父よ、そんな微妙な顔をするでない。可愛い娘が唯一、特別に教えてあげたんだから。
私には、この世界でやりたいことがいくつかある。
その一つが、冒険者になることだ。お父様の書斎には、冒険者の武勇伝が記された本などもあり、笑いあり涙ありの物語に感銘を受けた。
「……いいかいルミリエ。君は公爵令嬢という立場なんだ。どんなものか理解しているかい?」
「わかっておりますお父様!王様の次に権力が大きくて、王家の方々との繋がりも深いのでしょう?」
「そうだよ。そして、公爵家の令嬢は、王子様のお嫁さん候補なんだ。その意味がわかるかい?」
それって………
「政略結婚ですか?」
「よくそんな難しい言葉を………確かにそうとも言えるね。でも、ルミリエにはルミリエが好きになった人と結ばれて欲しいと思ってる。」
「お父様………」
四歳児相手に、なんちゅう話を………
「そんな高位な者が冒険者なんて聞いたことがないよ。それらを抜きにしても、冒険者はとっても危ない職業だ。だから、止めておきなさい。」
「そうですか………」
「それでよろしい。」
分かりましたとは言っていないけどねー、くくく。
「そうだお父様!お兄様が"祝技の儀"で、素晴らしい結果を出したとか!」
この世界では、10歳になると"祝技の儀"という儀式が行われる。そこで初めて、自分のステータスが顕になるのだ。お兄様は昨日、その儀にて注目の的になって大変だったと言っていた。
「ああ、我らセルグランス家としても誇らしい限りだよ。」
お父様がニヤニヤしている。……なーんかまた太ったな。今度さり気なく伝えてあげよう。
「それで、どのような結果だったのですか?」
「ステータスは分かるかな?」
「もちろんです!"祝技の儀"では、レベル、耐、力、魔、体抗、魔抗、俊敏……あと、魔素量が数値として表されます!属性の適性……も出るとか。」
「よく知っているね。偉い偉い。」
ふっ、本で読んだからね。
大きな手で、私の髪をわしゃわしゃ撫でるお父様。これはこれで悪くない。60点をやろうではないか。
ちなみに私の髪色は白。鏡で見たけれど、輝くような白で、自分で自分に見蕩れてしまった。前世は茶髪っぽかったので新鮮味がある。
お父様は銀髪、お母様は金髪だ。お兄様も金髪で、私だけ白。銀とも違う白。どんな遺伝だよ。
「じゃあ、スキルについては知っているかな?」
「それも知っています。ごく稀に、持ってる人がいるらしいです。」
驚いた顔で、こちらを見るお父様。……正面切って見ると、やっぱり太ったな。前世で培ったダイエット術を伝授してあげようかな。
「ルミリエは凄いなぁ。その通り、スキルはとても珍しいものなんだ。一万人に一人くらいの確率と言われているよ。そして先日、"祝技の儀"でなんと、エレイがスキル持ちだということが判明したんだ。」
「そうなのですか!?」
そりゃすごい!この世界でスキルは、本当に珍しいものだ。人より魔物なんかが多く持っているけど、それも少数。ここにあった『スキル所有者データ:賢廻暦251年』には、確認されているスキル所有者の人数は世界で38670人となっていた。
賢廻暦は、西暦のようなもので今は253年。一年365日なのは同じ。
それで、何よりスキルの力は強力であり、極めれば魔王すら倒せるほどになると本には書いてあった。その魔王を神(笑)に倒せと言われたのだけど………正直私は不干渉で暮らして行きたい。魔神なんて、響きだけで危ないと分かるしね。
「そろそろエレイも帰って来るだろうから、詳しいことは本人に聞いてごらん。」
「分かりました!」
その後、数十分書斎に篭ってから、お兄様帰宅の報を受けた私は弾丸のように飛び出した。
・・・・・・・・・
セルグランス邸の広い広いリビングに、お兄様の姿はあった。
「お兄様!おかえりなさい!」
「ルミィ、ただいま。」
弾丸スピードで突っ込んだにも関わらず、優しく受け止めてくれるお兄様。
ああ、兄弟がいなかった私にとって、この生活は幸せだ。エレイお兄様は、年齢にそぐわず精神も雰囲気も大人びている。どうやら同級生にもモテているらしい。なんか私の精神年齢17+4歳を軽く超越している気がする………
「お兄様、昨日の"祝技の儀"の結果についてお聞かせ願います!」
「はいはい。ほら、ルミィもそっち座りな。今お茶をいれてあげるから。」
部屋に比例したかのように大きなテーブル。おいでとジェスチャーされたので、お兄様の隣の椅子へ飛び乗る。
む……足が全然つかない。
「お二方、菓子をお持ちしました。」
「ありがとうマリーさん。ルミィ、ティータイムにしようか。」
「はい!マリーもありがとう!」
マリーさんは私のお世話係で、3歳になった時に与えられた私のお部屋の掃除や、遊び相手なんかもしてくれる。
父曰く「マリーさんは強いぞぉ」とのこと。どういう意味だろう?
「ルミィ、何がいい?」
「えっと……アップルティーで。」
「じゃあ僕も同じのにするよ。………はい。」
このテーブルには、様々なお茶が常に熱々の状態でポットに入れられている。母曰く、「私がお気に入りの魔道具なのよ。」とのこと。
「それで、どのような結果だったのですか?」
期待を込めた目でお兄様を見つめる。うーん、美少年!
「そうだね……大体みんな、ステータスは20くらいだったんだけど、僕は高いもので170だったよ。まあ、レベルは6なんだけどね。適性もぼちぼち。」
10歳にして8倍の差があるなんて。やっぱりこの世の中、理不尽なんだなぁ……いや、努力か。
「スキルもあったとお父様から聞きました!」
「うん。僕のスキルは〈導師〉というものだったよ。」
「導師………ですか?」
なんだろう。導師……魔導師?
「確か……"人々を導き、道を照らす光になる"と言われたんだ。」
「なんですか、それ。」
道を照らす……統率力をあげる、みたいな感じかな。
「僕もよく分からないけど……色々な人に祝福されて、嬉しかったんだ。」
「へえ……じゃあ、おめでとうございます、お兄様!」
「ありがとう。ルミィから言われるのが一番嬉しいよ。」
笑顔が眩しい!くっ、これが道を照らす光か……
「ルミィも、あと6年経ったら同じように儀式を執り行うんだよ。楽しみ?」
「うーん、家の恥にならないよう精進します……」
ルミィなら大丈夫だよ、と励ましてくれるけど、正直自信がない。前世では、体育の実技なんて絶望的過ぎて、ドッヂボールなんかではいっつも戦力外通告を受けていた。まあ、「運動オンチ」なんて馬鹿にしてきた男子はもれなく盛大に転倒させてやったけど。あれは面白かった。「覚えてろぉ~」ってほんとに言う人いるんだ……って思ったね。"転倒魔龍"の名は伊達じゃない。
「まあ"祝技の儀"より前に、学院への入学があるでしょ。そっちは楽しみ?」
そう。6歳になると皆、幼等院と呼ばれる学校へ通うこととなるのだ。
この国にも義務教育はあるようで、6歳から9歳は幼等院、9歳から12歳は小等院、12歳から15歳は中等院と分かれている。
その後、15歳から18歳の高等院は任意で受験制らしい。まさかこの世界に来て『受験』なんて悪魔の言葉を聞くとは思わなかった……
この世界では15歳から成人なので、あと5年もしたら、お兄様は大人、ということだ。
中でも貴族院と庶民院で分かれているようで、私はこれでも公爵令嬢だから2年後、幼等貴族院へ通うこととなる。
「楽しみです!お友達も作りたいし、お勉強も楽しそうですから。」
ええ楽しみです。お屋敷の外に出れるし、お勉強もおそらく無双状態ですから。しめしめ。
「座学や、魔術などのお勉強をするのでしょう?冒険者になった時、役立ちそうですから!」
「え………冒険者?」
あ、言っちゃった。ま、いっか。
「私の夢なんです!まだお屋敷から一歩も出たことがない私にとって、この広大な世界を旅することが!」
両手を広げてアピール。やばい、お兄様が固まってる。
「……ルミィ、冒険者は……やめておこうか。」
「……そうですか…」
その後、お父様に「威圧感が出てきましたね。」とオブラートに包んで伝えた。
お父様は、一ヶ月間落ち込んだ。
エレイ·セルグランス=ダイヤモンド 10歳
·レベル 6
·耐 80
·力 110
·魔 60
·体抗 80
·魔抗 60
·俊敏 170
·魔素量 60
·スキル…〈導師〉