37 人喰いスライム
追っ手からダッシュで逃げて、休憩をちょっぴり挟みながら数時間。
「ここがライルット草原…」
「はい、そのようですね。」
裏切り者が地図片手に説明する。
「現在地は、ライルット草原東部のようですが…魔物の目撃情報は、南部のハルウェイ川付近です。あともう少し南へ向かい、捜索を開始するのが一番かと。ですが、これは…」
マリーが何とも言えない顔をした。
私もしている。
「ライルット草原は基本、過去にも異常は見られなかった場所。これは、不可解ですね。」
そう、異常が発生しているのだ。
上空から見れば分かりやすいだろう。
…草木が、一線を境に全て根こそぎ消失していた。
・・・・・・・・
光魔術で辺りを照らしながら、禿げた草原を進んだ。
どうやら、ミステリーサークルみたく円型に草木がなくなっていているようで、中心部と思われる所にも、何もいなかった。
しっかし、本当になにもない。植物が見当たらないだけじゃなくて、石も無いし……まるで掃除されたかのような感じ。
「ここまでくると不気味ね…。」
「はい。噂の魔物も見当たりません。場所を移しますか?」
「たしかに、ここじゃ収穫何もないし…近くを探索してみましょう。時間も時間ですし。」
確認すると、帰りの時間を除くと、魔物狩りに費やせる時間はあと二時間くらい。今日見つからなきゃ、遠足は中止で神(笑)からご褒美が貰えない可能性も出てくる。
むむむ、困ったな~……それらしき怪しい場所はあるのに…。
「承知しました……っお嬢様、上です!」
「え?上…って、何!?」
光で上を照らして見ると……黒っぽい液体が空から降ってきた!
「あっぶな!何これ!?」
「お嬢様!警戒して下さい!スライムです!」
えっ、スライム?マジ?このでっかい黒水が?
『人間、人間、おいしい人間!なわばり、入る、アホの人間!』
誰が阿呆やオンドラァ!?
…って、しゃべった!スライムってしゃべれるんだ。
「マリー、魔物ってこれ?」
「いいえ、私の前情報では牛型の魔物だと…というかお嬢様、知らなかったのですか?」
そ、それは……くっ、アホの人間ってのを否定できなくなった!
「ともかく、気をつけて下さいお嬢様。見たところ、かなり上位の個体…話す黒のスライムなど、通常の個体とは全く違います。」
私も知らない。図鑑で見たことがあるのは、どれも色とりどりなやつばっか。こんな禍々しい色じゃない。
見ると私の背丈よりちょっと小さいくらいで、横も縦も多分一メートル下と六十センチくらい。ぶよぶよ動いてる。
『人間、オイシイ、石ヨリモ、草ヨリモ!牛ノ魔物ヨリモ全ッ然!』
言ってることが危ないなこのスライム!
何よ、人間うまいって……牛の魔物って、マリーの前情報と同じだから、そいつをさらにコイツが食べたってこと?
……って、人間も食べたことがある…?
「ねえあなた、人間を食べたの?」
『ソウダヨ!溶カシヤスクテ柔ラカイカラ、食ベヤスイ!』
おおう、スライムの食レポを聞く日が来るとは誰が思うだろうか。
…でも、本当に食べたってことだよね……実感が湧かないけれど、それって私も捕食対象だよね…。
あれ、この状況ヤバい?
討伐対象は、恐らくもういない。この禿げた草原も、この黒スライムが全部食べたと考えられる。
でも、魔物狩れとか言われたし…危ないけどやってみる?でも…、とそう悩んでいると、突然ハッ、とマリーが何かを思い出し、焦燥の表情で私に告げた。
「お嬢様、引きましょう!黒いスライムで思い出しました。過去、一つの国を混沌の渦に陥れ壊滅させた、恐ろしい魔物がいたと言います。」
『ヨク知ッテルネ、ヨク覚エテイルネ、人間!
ボクハスライム、黒ノスライム、魔王ノ手トシテ動ク影!十魔ノ四、"グリューエル"ノ力、見セテアゲル!殺シテアゲル!』
黒い流流動体だったそれは、ゴポゴポとうねり跳ね、その身体を巨大化させていく。
……なんということでしょう。
つい先日までは、ロローナちゃん達や王子らと、和気あいあいの学院生活を送っていたのに。
なんか、魔王の幹部っぽいスライムを目の前にしちゃってます。
よし──無理だわ、逃げよう!
グリューエル ???歳
·種族 オリジナルスライム
·レベル 85
·耐 7000
·力 5500
·魔 5500
·体抗 ー
·魔抗 7000
·俊敏 4000
·魔素量 7000
·スキル…無
·固有能力 ???
クソつよスライムさんです。