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そこな令嬢、ご満悦!  作者: シラスイ
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36 前途多難な出発




 満月が天に浮かぶ夜、私はお屋敷を密かに脱出した。


 目的はただ一つ。昼行性だという、エデラー区ライルット草原に現れた魔物を奇襲でぶちのめすこと。



 まず、こいつのせいで遠足が中止になるんじゃないかー、ってことになってるから倒すのもあるけど、神(笑)ミッションでもあるから、私がシバキにいかねばならぬのだ!



「お嬢様。」

「っひゃあ!…ってマリーですか。よくわかりましたね。」


 心拍が二倍速になった。 こんな真っ暗闇の中で背後から声かけられるとか怖いわ。


 え?なんで真っ暗闇なのに歩けんのかって?夜目が効くんですよ、夜目が。



「お嬢様を第一に、です。安全を確保するのも、私めの仕事ですから。」


 夜目が効くとはいえ、暗闇は暗闇だからよく見えない。けれど、マリーさんも軽装備を身につけているのはわかった。見ていたら、暗殺者メイドとかいうのが脳裏に浮かんだ。



「成長したお嬢様ならば、遅れをとることもないはずですが…危険が迫った時は、『マリ~さ~ん!』とでも叫んでいただければ、即座に駆けつけます。というか、道中見守りします。」


 あ、ついてくるのね。まあ…トリスタンがバレなきゃいいか。



 あれから、神(笑)からの連絡は何一つ無い。前は、先人の想いがどうのこうのとか言って、唐突にぽっと出てきたから全然話せなかったし。


 てかさー……正直言うと私、もうやる気無くしてんだよね。いや、お菓子…地球の食べ物は久しぶりに食べたいよ?こっちの食べ物って、美食の師が伝えた地球食と、この国のやけに小綺麗で味の薄い料理がごっちゃになって、納豆とケーキとかクッソカオス状態だから。全部食べるし、あんま気にしてませんけど。


 でも、神(笑)が『魔物倒して』って言ったのは、私に実戦で"トリスタン"使わせるためでしょ?

 私、王子戦でもう使ったんだよなぁ…。データ十分に取れたよなぁ…。


 副作用だって、多分あの高熱がそうだ。効果中にどれだけ運動したり魔力使ったりしたかに比例して、副作用が重くなる。そんなとこだと思う。

 実際、一錠飲んでちょっと運動したくらいなら高熱は出ず、次の日ダルくなるくらいだった。



 だから、はっきり言ってこんなハイリスクなことしたくない。もう聖剣ゲットして、神(笑)も言いくるめてお菓子ゲットして終わりにしたい。



 でも、ここまで来てハイ終わり、にもしたくない。せっかく魔物倒すためにマリーと特訓して、念の為聖剣貰って、オリジナル魔術も使えるようにしたのに。


 ってことで、私は行く。目的地までは、キロメートル換算で約20キロメートル。

 そこまで、フリーランニングの要領で建物の屋根を伝って走りまくる。トリスタンでステータス底上げもして、とにかく迅速に行く。


 テクテク歩いて立ち止まり、お屋敷の大きな門を飛び越える。


…そういえば、学院に行く以外で外に出るのは初めてだ。何か感動的。はじめの一歩!



 敷地を出た所のすぐには警備兵がいる。なので、ここからもう隠密行動開始だ。


 暗闇に紛れるため、服装は真っ黒…にしたかったけれど、そんなんなかったから諦めて灰色。この真っ白な髪もすっぽり収まるローブである。収まりすぎて、鼻まで隠れそうなのは辛い。


 それでも一応、ほとんど影に同化しているから、光でも当てられない限りバレない。ヒョイヒョイと建物の上に上がっても、警備が気付くことは無かった。


 ごめんよ警備兵さん、あなた達が無能なんじゃない、私の隠密性が高すぎるのよ。これからも、己の仕事に誇りを持って、貫き通しなさいな…。



…警備兵さんにお別れを心の中で言ってから、目的地まで一直線にランニング。


 普段、夜に外出されることがないから新鮮で気分がいい。電気もちゃんとあるけど建物はあまり高くないから、景観は別でも夜の京都を高台から見下ろしたような感動がある。


 はー、風が気持ちいい。やっぱ夜っていいよね。朝昼夜なら、夜が一番好きかも。



「お嬢様。」

「マリー!」


 にゅいっと出てきたマリー。当然のように私と並走するのは…まあマリーさんだから何でもアリか。


「どうしたのマリー…ああ、もしかして競走?いいわよ。今、なんでもできそうな気分なの。」

「いえ、そうではございませんお嬢様。」


 んー?じゃあなんで出てきたん?

 別に危機が迫ってるわけじゃないし、まだ見守っててくれたらいいよ。



「方向が違います。」


「あっ。」


 あっ。


 

「…本当だ。危ない危ない、教えてくれてありがとうマリー。…しかも北に進んじゃったわね。早く西に向かわないと…。」


 北は、それはもう冒険者の街らしいし、憧れるけど今は用が無い。


 方向間違えちゃうなんて私ったらもう、うっかりやさんね!


 まあいいわ。時間はまだあるし、これくらい些細な問題。気を取り直して、山の見える方に進みましょ…



「おい、誰だアレは!?」


 うわっ、眩しい!?


 全く、誰よ人に光ぶつける野蛮人は!


「ローブに短剣、しかもガキ…?」

「バカ野郎!真夜中にヒョイヒョイたてもんの上跳ぶガキがいるか!?」


 え、ぼ、冒険者!?なんで…ってか絵に描いたような装いですね。


「しかも白髪だ、ますます怪しい…って、まさか!」

「なんだ、なにがまさかなんだ!?」

「最近噂の、幼女に化けるスライムかもしれん!ほら、アイツが死にかけで帰ってきて、他皆全滅したっていう…。」

「おま、それ魔王軍幹部のスライムんことじゃねえか……はっ、白髪!それって…。」


 十数人が、ジィっとこちらを見据えた。


 どうやら、セルグランス区の冒険者ギルド前の建物だったらしい。運悪い!



「とにかく不審者だっ!捕まえろ!」

「ちち、違います!私、ただの通りすがりの歩行者で…。」

「「短剣光らせて高速で移動する怪しいガキがどこにいるんだよ!」」



 短剣…ってああ!腰につけた聖剣がポワって光ってる!そらバレるわ!


 しかも言い返せないし…あ、マリーさんがいない。ちょっと、あんたのお嬢様がピンチなんですけど!?てか魔術撃たれてるんですけど!?


 くうぅ、とにかく退散!聖剣はローブに隠して即行逃走だー!



「あっ!待て、逃げんじゃねえ!」

「待てって言われて待つやつはいませんよ!」



 はー、なんで私が悪役台詞を言ってんだか。


 とりあえず、このままライルット草原まで行こう……。




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