34 熱が出ました。
「…ん、………んん?私……寝て?あれ?」
起きた、とごく自然に理解した。
…あれ、色々思い出せない。何か前にも同じようなことがあった気がするけれど…それは多分別のことだ。
……えー、まずは情報をまとめないと。
確か…そうだ!王子と戦ったんだ!
んで、王子をエグい感じにダウンさせて、その後…風呂に入って、出てそれで…。
「お目覚めですか、ルミリエ嬢。」
「うひゃあ!?」
なな、なんだ執事さんか。びっくりした…。
「体調の方は如何ですか?」
「た、体調ですか?」
ふむ、体調…体調ね…。
ちょっと頭が痛くて、全身筋肉痛みたいにきしんで、超がつくくらいダルいくらいかな。
…うん、全然大丈夫じゃないわこれ!え、私どうなってんの!?
とりあえず、聞かれたわけだし体調ヤバいって伝えた方がいいよね。
「……ダルいです。」
「それは、お身体が、といった意味でしょうか。それとも、問答をすること自体辛いという意味でしょうか?」
…ゴメンナサイドッチモデス。
トニカク眠イデス。
「それはさておき、お熱を測らせて頂きます。失礼」
そう言って、モミジみたいなバッジをつけたスーツ執事が、スっと体温計を取り出した。
…体温計ね。あー…、技魔大国の産物だっけ?本で見たわ。
どうやら、測る位置は脇らしい。口とかじゃないんだ。
あと今気づいたけど、おでこに冷えピタみたいに湿った布が置かれてる。まだひんやりしていて気持ちいい。
お、測り終わったみたい。どれどれ…って、
「たかっ!?」
℃でいえば、41℃くらいの高熱!うそ…私の体温高すぎ?
まあ、熱なんですけど。
「少し下がりましたね。初日は今よりも高く、旦那様方も心配しておりました。」
これより高かったんだ…。
てか、今聞き逃せない言葉が。
「しょにち?」
「はい。お嬢様が学院にて倒れられてから、既に三日が経過いたしました。」
マジですかい。めっちゃ寝たじゃん、私。
でも、その間ご飯食べてないんじゃ……うっ、そう考えるとお腹が…。何か食べたいな…。
「ルミィ!」
「お兄さま!」
急いだのか、呼吸が荒くしながらお兄様がやって来た。
「目を、覚ましたんだね。」
「はい。…でも、なんでわかったんですか?」
その質問が予想外だったのか、うーんと少し考えてから、
「…なんとなく?」
なんとなくかよ。
「でも、よかった…。心配したんだよ、父様が『ルミリエが倒れた』っていきなり言うから…。しかも、殿下と試合したんだって?」
「ごめんなさい……。」
「大丈夫だよ、マリーさんも色々説明してくれたし…ルミィは巻き込まれただけらしいし。」
う…半分あってるからセーフ、セーフ。私は無罪、王子は有罪。もともと罪もなにもないけど!
「それより、お腹すいたでしょ?熱があるみたいだし、これでも食べて元気出してね。」
「お…ほおおありがとうございます!」
心を読んだかの如きお兄様の行動!やっぱり優しい!好き!
しかもこれ、UDONじゃないの!?かけUDON!
は~、体調悪い時って、異様にUDONとかOKAYUとかが美味しく感じるよね~。ほんと、いやマジサンクスお兄様!
では、さっそく……って、あれ?
「お兄様、お箸は…」
「おはし?よくわからないけど……ほら、冷めないうちに食べちゃいなよ。」
そうだった。なんてこった、箸がねえ。
お兄様が手渡してくれたのは、フォーク。これは、こっちの世界にもごく普通にある。
どうやら、もともと似たのはあったけど、美食の師もといせんぱいが伝えたのがこの世界でも主流になったっぽい……けど、チョップスティックは伝わってない。伝えろよ。
…いや、そいつに非があるわけじゃない。あ、そうだ!こういう時は、『やらないなら俺がやる』精神でいこう!
「お兄様、きれいな棒とかありませんか?二本だけ。」
「きれいな棒?あるにはあるけど……まあ、取ってくるよ。」
一旦部屋を出ていったお兄様。そして訪れる静寂。
…モミジ執事の人、微動だにしないなあ。必要なこと以外、何も喋らないのかな?
「その…ずっと立っていて疲れませんか?」
「平気です。お気遣いありがとうございます。」
それだけ言うと、また目を閉じて動かなくなった。まるで、置物のようにすら感じる。
でも、質問とかには答えてくれるんだ。じゃあ…
「そのバッジは、どういった意味があるのですか?前から気になっていたのです。」
「これでございますか?」
たま~に見る、かわいいバッジをつけた少数の執事さん。
この人は、モミジっぽいバッジを胸元に付けているし、その中の一人だろうし、聞いてみた。
「これは、旦那様から頂戴したものでございます。セルグランス家に仕える数百、私兵をあわせ数万の人間、その内のほんのひと握りの者に与えられる、名誉ある勲章なのです。」
お、おう…知らなかった。そんなのもあるのね…ってか、数万て。そんなにいんの?
「へえ…モミジ、ですか?」
「私の場合、旦那様に"椛"と呼ばれます。基本、バトラーは皆勲章持ちですね。他は、我々の部下や他種の使用人でございます。」
そういえば、執事は割と使用人の中でも上の方って聞いた事があるような気がする。服装は似ていても、階級は違うのね。
しっかしモミジねぇ…お父様って案外メルヘンなのかも。いや、考えたのはお母様かもしれないけれど。
「ルミィ、あったよ。」
あれこれモミジ執事さんと話していたら、お兄様が帰ってきた。
手にもっているのは、細長い金属。
「ありがとうお兄様。」
……おお、ちょうどいい感じ!案外軽いし、手に馴染む!
これなら箸に使えそう。
では気を取り直して、いざ!
「ってルミィ、それ使って食べるの!?」
久しぶりに手に持ったお箸。持ち方はちゃんと覚えているし、なんだかすっごく懐かしい気持ちでUDONを食す。チュルル……
「…まあ、ミスリルだし安全か。」
「げはっ!」
み、みみミスリル!?
え、うそ。それってあれじゃん。異世界系で定番の、主人公武器の素材じゃん。
それを何?私は剣とかに加工すんじゃなくて、お箸に使っちゃってんの?
「お、お兄様。ミスリル……ですか?」
「ん?ああ、大丈夫だよ。高いっちゃ高いけど、宝石とかに比べれば安いらしいし。それより、面白い使い方だね。」
「こっちの方が食べやすいので。」
安いならいっか。一応、うちも貴族…というか公爵家だし、資金はいっぱいあるからね。これくらい…ね。
そのまま私は、新たにゲットしたミスリルお箸を使いUDONを完食し、お花を摘んでから眠気のままに再度眠りに落ちた。
そうして、次に起きたのは数時間後の夜……王子がここにやってきたとの報せを受けて、私は飛び起きた。