27 王子戦まであと一日
ついに、明日へと迫った王子戦。
今日は学院がある日なので、マリーはいないけれど自主練はする。
…訓練場に置かれた人型の的。数は合計三体。
手にした本物の短剣を構え、少し腰を落とす。
「っふ!」
軽やかに地面を蹴り、正面の一体の首目掛けてダガーを添える。浅いと感じたので、即座に魔法陣を展開、初級火魔術で炎上させる。一抜き!
発動させてから空中で一回転して着地、反動で斜め上のもう一体の足元を切りつけて、そのまま空中でくるっと身を翻す。
さらにもう一体の背後から、手首を切り落とす勢いで滑らかに着地する。三抜き!
「ふぅ……」
「す、すごいですルミリエ様…。」
「速すぎて目で追えませんでした!」
「…この休みの間、何があったし。」
「魔術だけじゃなかったのね。」
放課後、訓練場に行くと言ったら皆付いてきた。
今日はトリスタンを使っていない。マリー教官のおかげで、身体能力は爆発的に上がった…と思う。
「いえ、ジル様に対抗するにまだまだ……とはいえ、明日なのですけれどね。」
「ルミリエ様、けがだけはなさらないでくださいね…?」
心底心配そうなロローナちゃん。他の三人も同じような……二人違った。リラちゃんは何か楽しそうだし、クロリアさんは本読んでる。
「なるべく逃げに徹しますが……ジル様相手だと分が悪いです。そこは、隠し玉を使って対応します。」
「隠し玉?」
マリーとの特訓の中で、魔術をバンバン撃って魔素量を増やしまくり、なんとか上級魔術を発動出来るようになった。なったけれど、出来るのは数種類だけだし、通常時では現在の魔力的に二回ほど……つまり、トリスタン効果持続中なら二十回くらい。
それらは決定打にかけるものばかりで、いまいちパッとしないのだ。
そこで!この前の"輝継鐘"を見習って魔法陣の改造を試してみた!結果は……
「それは、明日のお楽しみです。」
「むぅ……わかりました。楽しみはあとにとっておきましょう。」
ロローナちゃんは不満そうだ。でも、我ながら結構いい感じに仕上がったから、ぜひとも楽しみにしてもらおう……ん?
「そういえば皆さん、なぜ私が明日、ジル様と試合を行うと知って……」
そこまで言うと、三人はイルカのシンクロ並のタイミングで、バッ!と顔を背けた。
なんだか嫌な予感がする。そういえば今日、校舎で『が、頑張って下さい!』とか聞こえたり、イラシャズの睨みが二割増でキツかったけどたまに馬鹿にしたように見てきたような…。
「えっと、皆さん?誰からお聞きしたのですか?」
努めて笑顔で、怖くならないよう優しく話しかける。
すると、観念したのか、リラちゃんが口を開いた。
「や、別にジル様が隠してたわけでもないし、てか自分でいいふらかしてた?みたいな……」
「いいふらかす?」
王子が?『今度どこぞの公爵娘とバトルするぞ』って?
「ジル殿下は、今後の私たちの魔術や剣術の学びがより深まるよう、お手本を見せると仰っていました。」
サリエちゃんが補足する。
お手本?聞いてない聞いてない。
「…大人も見に来るらしい。多分、一年生で最初のビックイベントになるわ。」
マジですか。
・・・・・・・・
「ジル様ー!ジル…あっ、いた!」
教室で何かを書いているらしき王子を発見!
「ん?…ああ、お前か。なんだ。」
「何のおつもりですか!説明して下さい!あとほら、今日の分のスクロール!」
「お、おう。感謝する。…説明?」
バンと机を叩き、グイッと王子に迫る。一応、デイリー魔法陣は描いてきたからついでに渡した。
それより…
「説明です。何故こんなにもこの件が広まって……いえ、広まるのは当然でしょう。何故、周囲に伝えたのですか?」
「そのことか。」
さりげなーく描いていたものを隠した王子は、さも当たり前のようにこう言った。
「父上が、興味を持ったからだ。」
「ふぁ」
隙間もないのに、ひゅうっと風が吹くような感覚。
父上……王様。あの、威厳溢れるおっさんが。興味を。
「お前の腕も見てみたいらしいぞ。ダイヤモンド公の娘だからと予定を断って見に来るそうだ。」
うぅ~、ハードルが急上昇…。
「思えば、一国の王族との試合だ。そりゃ大勢見に来るだろ。それに、ほら。お前の髪は……」
少し言い淀んで、誤魔化すようにわしゃっと私の髪を撫でてきた。
……なるほど。
公爵の地位を狙う者は多い。
けれど、正面切って喧嘩を売ろうにも、純粋な兵力はそもそも使えないし、闇討ちなんて阿呆のやること。
地道に評判を落とすのが最適……でも、自慢じゃないけど我が家は不正も闇取引も、何にもしていないホワイト公爵。信頼という絶対にして圧倒的な武器がある。
おまけに、息子のお兄様も超優秀で、お父様も仕事できるマン、お母様も文句無し美人で隙もない。
そこで出来た隙。それが私。
理由は、髪。白いから。前世で、人種差別があったように、この世界でもそのようなことはたくさんある。
厄介なのが、それを問題と見ず、正しい行為をしていると完全に信じているということ。仕方ないとはいえ、『白い髪≒魔王』って皆刷り込まれてる。
あ~。今回も、そこにつけ行ってきたか。めんどくさい……無能貴族なんて、現実には全然いないけど、ネチネチした悪徳貴族はちょっといるんだよな~。
私が負けたら、それをこじつけて『天下のセルグランス家の令嬢がこの程度』とか評判落としにかかってくるわ。負けても相手王子だし、そこくらい考慮してほしい。
「大丈夫か?」
「少し考え事をしていただけですわ。大丈夫です、ジル様ごとき簡単にねじ伏せてみせます。」
はっきりとそう言うと、ピクっと王子が反応した。
「……少しは殺気も出るようになったか。」
当たり前。地獄のマリーキャンプを受けていた身としては、『それくらいできないと、捕食者である魔物に蹂躙されて、内臓ぶちまけられてしまいますよ!』と教えられてきたので造作も無くなってしまった。そしてマリーはヤバかった。どれだけかというと、松岡〇造に並ぶくらい熱くなってた。
「はい。では、首を洗って待っていて下さいね。それではごきげんよう!」
「ふん」
正直、王子に勝てるかどうかはわからない。
本人がどのような動きをするのかこの目で見たことがないし、噂などから対策を練るしかなかった。
それでも、何もやらないよりはマシなはず。トリスタン使うかどうかも検討中。
神(笑)の言っていたトリスタンの副作用。
この前、一錠だけ飲んだ時は、翌日かなりの倦怠感に襲われた。多分、それ。
十倍効果中は、普段の状態とかけ離れた感じになるので、本番使うならもっと慣れておきたい……けど、今日飲んじゃったら肝心の明日、副作用が出る。
だから、トリスタンぶっつけ本番か、このまま努力の成果を見せるか……ううむ。
「まあ…あまり深く考えずいこう。」
結果、王子に勝てばいい話だ。
今日もギリギリまで、特訓しておこう。




