23 どうしてそうなる。
「ジル様!借りを返す時ですよ!」
「……借り?」
薄暗く、人目につかない学院の端廊下でそう、王子に向けて、指を指してビシッと告ぐ。
「そうです。私がジル様に毎日渡す魔法陣。その対価をまだ貰っていませんし、そもそも選んですらいません。今日は欲しいものができたので、頼みに来ました。」
「……それ、公爵家でも手に入らないほど高価なものか?」
「いえ、そうではないのですが……お父様やお母様に頼むと、少しばかり問題が……」
今度、遠足で向かうエデラー区のライルット草原に現れたという魔物。
神(笑)に課せられた件もあり、私はこの魔物を倒すことにしたのだ。
勝てるかどうか、で考えると、今のままだと正直自信が無い。
トリスタンを飲めば、ステータス上では勝るかもしれない、というか多分上回る。二錠も飲めば、100倍なのでかなりの上昇が見込めるものの……実戦したことがない。当たり前だ。自衛隊じゃあるまいし、前世でも無い。
さらに、それ以前に武器もない!神(笑)は素手でいける、と言っていたけど、力が強すぎた場合は、魔物が『見せられないよ!』な状態になるだろうし、力が弱かった場合は私の方がそんな状態になってしまう………。
最近は魔術も出来るようになってきたし、今のところ中級魔術のゴリ押しで行こうと思っているけれど、接近戦が心許ない。
そこで、少しでも確実な勝利にするため、装備も充実させたいのだ!
「私が欲しいものは短剣です。なるべく軽くて丈夫なものをお願いします。」
「いやなぜ短剣?」
ちょっと一狩りに……とは言えないか。ううむ、理由を聞かれると困るな……。
「ちょっと、殺したい奴がいまして。」
「!?」
サッ、と王子が身を引く。
あっ、これは言葉選びを間違えた。やばい、確かにこれはダメだわ。どこの暗殺貴族よ。
「ウソデス、マチガエマシタ。」
「そんな声色では説得力ないぞ………人を殺るのか?」
どうやら、引いてもビビってはいない様子。これでも王族だもんね、そこら辺のことも既に学習済みかぁ。
「マモノデース」
そう、棒気味に答えると、王子は少し真剣な顔持ちとなって忠告してきた。
「魔物……危ないぞ、やめておけ。確かにお前は、術式構築に関しては天才だ。俺が保証してやる。だが、実戦は別。お前、体強くないだろ。この前も、少し走っただけで倒れたしな。」
くっ、反論できねぇ!6歳のくせにやりおる!
てかコイツ、本当に6歳なの?天才+英才教育でこうなったとしても、普通に大人と渡り合えるんじゃない?
貴族の子は、温室育ちの影響か、我儘な性格となるケースが多い。その反面、教育に関しては高水準となるため、歳に反してボキャブラリーも多い。
ロローナちゃん達も、癖はあっても頭はかなりいい。イラシャズだってそうだ。
……でも、王子は別格なんだよなー。
なんというか、よく分からないけど「さすが王族!」って感じかな?
「ステータスで言えば、耐や力、俊敏が弱い。魔とかはかなりのものかもしれないが……」
「……心配して下さるのですか?」
「なっ………まあ、そうだ。仮にも知り合いが死んだら、後味が悪いからな……」
そっぽを向いて、少し恥ずかしそうに呟く王子。
こいつの羞恥心のポイントが分からない。お姫様抱っことか簡単にするくせに!
「とにかく、ダメだ。他のものにしろ。」
「どうしても、ですか……?」
ダメ元で聞いてみる。
効かないだろうけど、上目遣いと甘えるような声もプラスする。お父様ならこれで一発。ついでに、王子の好きな髪の毛もサービス。
「っ……。どうしても、と言うなら………」
案外効いたみたいだ。ナイス、美少女フェイス!いやぁ、挑戦したかいがあったというものですよ、ええ。家族以外にやるのはめっさ恥ずかしいですよ。
そう、既に貰える気分でいた私の内心を、吹き飛ばすような一言が王子の口から放たれた。
「俺に勝ってからにしろ。」
どこの守護者だよ!!!