22 遠足に向けて
私が倒れて、丸一日休んだ日から早二週間が経った。
外を見れば、草木は生い茂り、いかにも『初夏に入ります!』みたいな天気で、文化部や吸血鬼を苦しめる陽光がサンサンと降り注いでいるけれど………残念ながら、私の心は晴れではない!
何故かって?そりゃ、神(笑)に課せられた問題のことですよ。『トリスタンを飲んで魔物討伐』の件。あれをクリアした暁には、なんと前世の食べ物を貰えることになっている!
つまり、私は何としてでもこのミッションをクリアせねばならぬのだ!
「どうなさいました?目の焦点が一点にあっておられますが……」
「え?……ええ、平気ですわ。少し考え事を。」
授業が、超がつくほど簡単だとはいえ、気が逸れると急に指名されることがあるから、気が抜けない。こうして休み時間にちょくちょく考えるのが一番。
でも、その時間も皆と話す時に化けの皮が剥がれないよう取り繕うので安心できない。恥を晒すことだけは避けたい。
ちなみに、王子との奇妙な関係は続いている。魔法紙を受け取り、魔法陣を描いて渡す。今のところ、他の人にはバレてない……はず。はずだよね?
「しっかし、本当にムカつきますね!あの人は!」
今は、イラシャズに対する愚痴を言い合ってるみたい。
倒れた次の日、私達はイラシャズに一言物申した。具体的には、『周りの方の迷惑も考えては?』って感じに。
そしたらイラシャズは、一瞬目を合わせあってからクスリと笑い、『あなたこそ、ジル様の迷惑を考えてみては?』と特大ブーメランを放って去っていったのだ。
その時、私の心の中は怒りよりも……断然、笑いが込み上げてきた。
いやだって、いくらでも論破の道があるんですもの。ちょっと滑稽すぎて……王子も憐れな目で見てて……フッ。
まあ、私と一緒に来たこの四人……いや二人は、かなーり腹を立てていたけど。リラちゃんはうんざりした目で、クロリアさんはそもそも見てすらいなかった。ずっと本読んでた。見たら、芋についての本だった。よくわからん。
「まーま、あんな人にさく時間がもったいないしさ、それより遠足の話しよーな。」
「そうですね!えんそく楽しみです!」
「遠足ですか……どこへ行くのでしょう?」
リラちゃんナイス!グッドサインをニヤッと、私にだけ見えるように送ってきたので、きっちり返す。
しかし遠足か。幼等院一年生の最初の行事らしい。
なんでも、平民よりも外界を目にすることの少ない貴族の子たちに、広い自然を体験させると同時に、仲間との交流を図る目的があるみたい。
仲間………と言っても、特権階級の子が集まるここでは、どうしてもカーストが強くなる。基本、同じ家柄の子が集まったり、極端に大きな家の子に皆集まるといった二種類のタイプがある。私は後者の、受け身の方だ。最も、この髪のせいか、実際に絡むのはこの四人くらいだけれど………要はツ○ッターみたいなもんだ。フォロワーは案外多いけど、実際絡む人は少ないって感じ。
「たしか、西のエデラー区だっけ?に行くらしい。広い原っぱだってさ。」
「原っぱですか。私、そういうところ行ったことないので楽しみです!ルミリエ様はどうですか?」
「私?」
原っぱ……ピクニックか……。
……前世のあの親が連れていってくれること、なかったな。
「ルミリエ様?」
「あっ、原っぱね……私も、外に出始めて日が浅いですし、どのような場所なのか気になりますわ。」
「私も。うちのおやじ厳しーんだ。」
「私もですね。勝手にお外へでると怒られます。」
うんうん、皆楽しみそうでなにより。私も楽しみになってきた。
原っぱと言われると、クローバーとかシロツメクサとかがわんさか生えた場所を思い浮かべるけれど……この世界でも似たようなものかな。魔素がある分、マンドラゴラとか生えてそうだけど。
「みんなおなじってことですね!」
「そだな、皆同じだな。クロっちも家は侯爵家だし同じでしょ。」
「……まぁ、似ているとの認識でいい。」
そう言ったクロリアさんも、どこか楽しげな感じ。表情筋がいつもよりちょっと上がってる。多分。
「……あ、そろそろ次の授業がはじまりますよ~。席につきましょう。」
サリエちゃんの一声で、一旦解散となった。
………遠足ねぇ。精神年齢的に見て、大丈夫だろうか。
・・・・・・・・
遠足の話を皆でしたその日。
「どうなさいました?お父様。」
珍しく、書斎でウンウン唸ってるお父様を見つけたので、声をかけた。
「おお、ルミリエ。確か、今度の野外活動の行き先はエデラー区のライルット草原だったかな?」
「いえ、詳しくは存じ上げないのですが……エデラー区なのは確実です。」
そう答えると、「ああ、やっぱり。」と、困った顔をしたお父様。
「なにかあったのですか?」
「実は………」
お父様の話によると、こうだ。
私達が学院の行事で今度向かう、エデラー区ライルット草原。
そこは、地方貴族の領内となるのだが、なんでもその子爵から『かなり強力な魔物が出た。危ないので、近づくことは勧めない。』との連絡が。
普通なら行き先変更となるだろう。しかし、貴族の子の集団が訪れても狙われる危険がなく、且つ学院のネットワーク内となると、そこくらいしか無いので、このままだと中止、となるらしい。
「ルミリエは楽しみにしていたかい?」
「はい。皆も楽しみにしておりまして、私自身も同じ気持ちでした。」
「そうか………私は今、一つ考えていることがあるんだ。その問題の魔物が倒せれば、元の心配は無くなるだろう?」
まあ……他に湧く可能性もありますけど。
「ここで、子爵領に騎士を派遣しようと思うんだ。」
セルグランス家だけでなく、貴族の大半は子飼いの兵を持っている。これは、暗殺や反乱を防ぐためでもある。
ちなみにセルグランス家には、直轄の兵士が合計約20000人。かなり大きい。
中でも騎士は6000人。王国内に分布していて、治安を守ったりしてるらしい。
とはいえその人達も、王国騎士団としてカウントされるため、実質国の力だ。王国騎士団員は合計約70000人。
「その魔物を討伐するのですか?」
「そうだよ。どっちみち野放しは危険だし、ライルット殿も困っているようでね。こことも関係が深いから、救援に行くんだ。」
ふーん、魔物を倒す………倒す?
『だから、トリスタンの性能を知りたいんだ。副作用もキチンと見ておきたいから、そうだね……魔物と戦ってくれればいいかな。』
そう私に課した、神(笑)。
そして、今回の魔物騒動。
絶好の機会じゃありゃせんか!




