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そこな令嬢、ご満悦!  作者: シラスイ
19/55

19 取り巻きカルテット/間に合わない





「ルミリエ様、ごきげんようです!」


 開口一番、馬車から降りた私に、ロローナちゃんが元気よく挨拶をしてくれた。



「ごきげんよう、ロローナさん。……それと皆さんも。」



 昨日、友達が増えたと言ったな。あれは嘘だ。

……というのも嘘だ。ちゃんとできた。




「や、ルミちゃん。」

「…………」

「ごきげんよう、ルミリエ様。」



 三者三様の挨拶をしたのは、新しくできた友達のリラちゃんと、クロリアさんとサリエちゃん。

 ここ数ヶ月で紆余曲折を経て、仲良くなったのだ。

 皆、私の白髪を悪く思ってはいないし、むしろ綺麗と言ってくれた人たちだ。


 他のクラスメイトとはだいぶ話せるくらい打ち解けてきたけれど………未だに、イラシャちゃん率いる子たちは私を目の敵にしている。




 それは別にいい。仕方のないことだし。


 でも、だけどもロローナちゃん。それに対抗しようと仲間を集めなくていいのよ?ロローナちゃん含めこの四人はまだ違うと思うけど……だんだん取り巻きちゃんが現れてきてるんだけど。どうしてくれんの。



「お、なんだそれ~、重そーだね。」


 気軽に話しかけてきたのはリラちゃん。侯爵家のとこのお嬢様で身なりもいいけど、タメ口を遠慮なく使ってくれるから、話すと気が楽になる。



「ちょっと頼まれ事をされまして。」


 バッグと別に持っているのは、あのお触り王子から頼まれた大量の魔法陣。魔法紙が足りなくなったので途中でやめたけど、かなりの量になった。



「よろしければ、私がお持ちしましょうか?こう見えて私、力もちなんです。」


 親切にそう言ったのは、サリエちゃん。礼儀正しくて、何かと頼りになる。太陽で反射した緑の髪がすごく綺麗。


「よろしいのですか?その、かなり重いと思うのだけど……。」

「大丈夫です!本物の剣を持ったこともありますから!」


 それなら大丈夫かな。お言葉に甘えて、持ってもらおう。



「なるほど、たしかに重い……お……重っ!?」


「あ、落とした。」


 あ、落とされた。



「ご、ごめんなさい!予想以上に重くて………ほんとうにごめんなさいい!」



「………持ったとは言ったけれど、振ったとは言っていない。」


 そうツッコんだのが、普段無口なクロリアさん。

 ずっと本を読んでいて、シンパシーを感じて一緒に本を読んでいたら仲良くなった。今も本を読んでいる。



「ごめんなさい……」

「まったく、ふがいないですね!私がお手本をみせてあげます!」


 そうロローナちゃんが言うと、ひょいと魔法紙が入った手提げを持って……


「おお……やるやん。」

「すごいです……私だったら、もう落としてるところです……」

「…………」


「なかなかですが、楽勝です!このまま運びますね!」

「ありがとう、助かるわ!」

「うっへん!」


 すごいドヤ顔。魔法紙って普通の紙より重いからね、持ってくれると助かるわ。



「……でも、ずっと持っていたルミリエもすごい。」


 クロリアさんが何かに気づいたようだった。






   ・・・・・・・・






 教室に入ると、黄色い歓声が聞こえてくるのは当たり前。慣れたもので、最初は追い払ったりしていた男子らも諦めて、席を取られた人は他の友達のところで談笑している。


 ちなみに、席替えをして私の席もレッドゾーンへ入ってしまったのだが、座られたことはない。

 ロローナちゃん筆頭に、謎の威圧感を出してくれる子がいるからだ。ありがたい。



「ルミリエ様、今日は最初っから運動ですって。めんどくさいですね。」

「そうねー。そもそも運動って苦手なのよ……。」


 これは、前世から続く私の精神的な問題だ。運動、嫌い。

……そういや、神(笑)に出されたミッションとやら、まだ出来てないな。もうすぐ期限だし、そろそろ考えないと。



「とりあえず、着替えましょうか。」

「そうですね!」


 学院の運動服に着替えるため、更衣室に向かう。




「おい待て。」



 教室を出る前に、王子に呼び止められた。



「ちょっとこっち来い。」


「ああ、例の件ですね。今ですか?」

「いまだ。」


 ええ……空気読んでよ、今から着替え行くっちゅうのに。

 でも、仮にも王子の命令は聞かないとまずい。


「わかりました。……皆さんすみません、先に行っておいてくださる?」


「かしこまです!」


 ロローナちゃんたちに先に行かせて、早くしろと急かす王子を横目に魔法紙を取り出す。




「……はい、例のブツです。くれぐれも見つからないようにして下さいよ?」


「別にみつかっても問題ないだろ。」


 危ない薬の裏取引みたいだが、ただ紙の山を渡しただけだ。



「……かなり重いな。どれだけ描いたんだ?」

「今までのあわせて、三百枚くらいですかね。」

「そ、そうか……やはり努力してきたんだな。」


 努力もなにも、暇だったからね。だから、そんな感慨深げに見られても困る。それ、処分に困ってたやつばっかだから。シュレッダーないし。



「ありがとう。これからもよろしく頼む。」

「承りましたわ。できる範囲で、持ってきます。」


 なんか王子が優しい。抑圧的だったのが薄れた感じだ。




「………それで、時間大丈夫なのか?他のやつらはもう行ったぞ。」


「あっ」



 この世界共通の、時計を見る。




 リミットはあと三分!



「ど、どどどうしましょう!今から更衣室は遠いですし……というか王子も危ないのでは?」


 同じ境遇だろう王子に聞いたものの、キョトンとした顔で、


「何を焦っている?ここで着替えればいいだろう。」


 そう言って、目の前で服を脱ぎ始めた!



 なな、なにっ!??なで目の前で……そうか、精神年齢高いとはいえ私ら6歳!恥じらいがないんだー!!



「え、あ、そのっ」


 どうしよ、ここで着替えないと本当に間に合わない……けど、王子の目の前で?やけに広々と開放感があって、隠れる場所がないここで?

 別に、こんな小さい子供に見られること自体はいい。だが、着替えを見られることがダメだ。しかも、6歳児とはいえ異性。やばい。


「どうした?まだ着替えないのか?……わかった。お前、今まで自分で着替えたことないだろ。人に任せっきりだとそうなるんだ。

今回は俺が着替えさせてやるから、こんどから自分でできるようにしろよ。」

「お、お断りします!てかあっち向いてて下さい!今から着替えるので、絶ッ対に見ないで下さい!!」

「わ、わかった。」


 ぷい、と王子があちらを向いたので、猛スピードで運動服に着替える。

 というか何故いるんだ王子。先に行けばいいでしょ……。


「終わったか。」

「終わりました。」


「よし、走るぞ。」




 タイムリミットまで、あと一分半!


 この学院はアメリカンに広いので、教室から校庭……というか平原までも遠い。



 ここから一分半、行けるか?



 王子が駆け出したのに続いて、私も後を必死について行く。今までニート生活をしていたせいで、体力は全然ない。それに比べ天才王子。流石、速い。



 階段を降りて、靴へ履き替えてから外へ飛び出す。


 ここからが遠いのだ。もう、一分は切っているだろう。


 王子が、爆発的な加速で私を置き去りに先へ進む。



「はっ、速っ、まって………」



 あああ脇腹痛い。喉元痛い。


 王子はぐんぐん走って行く。あれなら、追いつくだろうな。



………でも、多分私は追いつけない。時間はオーバーするだろう。

 侯爵家の娘として、家のメンツのためにもこういうことは犯さないようにしてたけど……無理だね。

 百メートルちょっと全力で走って、このザマだから。せめて、トリスタンがあれば……ああ、あの薬って、いっつも使いたい時に手元にないのよね。



 もう無理、限界。鐘鳴る。後十秒。




 ふらふらする。もはや歩くのと同じスピードだ。視界もぼやける。




「あ……」



 鼓膜にチャイムの鐘の音が届いたその時、一瞬人影を遠くに見て……



 視界いっぱいに床が広がり、私は意識を手放した。




この日の気温は28度ほど。

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