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そこな令嬢、ご満悦!  作者: シラスイ
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16 王子の心情




 俺には兄がいる。


 ジエム王国第一王子、レイ·ヴァイス=ジュエラリー。その弟……第二王子がこの俺、ジル·ヴァイス=ジュエラリーなのだ。



 俺は、天才である。まわりはそろってそう言うし、本当に天才だと思う。

 今はまだ6歳だが、既に大人たちにも引けをとらないくらい知能は高いと自負できる。

 剣術も魔術も、始めたらすぐに理解出来たし、座学も一瞬で記憶してしまう。

 弓も得意、ダンスも球技も弦楽器も、どれも簡単なものだった。



 しかし、兄上には何一つ勝てない。勝ったことがない。あれには天才、というのもおこがましいのかもしれない。


 7歳で上級魔術を操り、11歳にはオリジナルの魔術を完成させた。

 3歳で初めて剣を握り、7歳にして近衛騎士を圧倒した。

 4歳で幼等院卒業レベルの知識を蓄え、8歳で高等院生と肩を並べた。


 兄上が10歳となり、祝技の儀で判明したステータスはまさに化け物レベル。


 そんな兄上は、当然ながら王位継承権も暫定一位。俺と比べる余地もない。


 歳が離れているから、今兄上に何一つ勝てないのは納得がいく。



 だが、俺は毎度毎度、「レイ様がこの歳の時はもう……」「ジル様は確かにすごいですが……レイ様と比べると見劣りしてしまいます。」と言われる。

 正面切って告げる者はいないが、王宮内でそう囁かれていることはわかっている。



 何をしても、兄上には優れない。父上も、俺よりも兄上に手厚く、母上も兄上には優しい。



 俺だって努力をしている。

 この歳で中級魔術を操るやつなんて、兄上と俺以外聞いたことも無いし、見たことも無かった。

 剣術だって、師範代……騎士団長と中々の勝負ができる。



 これだけでも、物凄いことのはずなのだ。



 なのに、周囲はそれを評価せず、あまつは「出来損ない」のレッテルを貼り、ただの天才、と呼ぶようになった。

 ならお前はできたのか?俺と同じ歳の時に、ここまでできたのか?

 たまにそう叫びたくなる。


 しかし、王族としてそのような醜態を晒すわけにもいかず、いつしか自分でもわかるくらいひねくれた考えをするようになっていった。それを行動に移すことなく、心の奥底に溜めて。





 俺は魔王が好きだ。



 本を読むと、ただの破壊衝動のままに殺戮を繰り返す怪物のように書かれているが、それがいい。

 王なんてくだらないプライドに縛られず、自分のままに生きられたらどれだけ幸せだろう。

 周りのことなど知らない。己の人生を自由に生きる魔王が羨ましい。



 近く、学院へ通うことになった俺は、父上に連れられてパーティーに参加することとなった。

 特に行っても価値などないだろう。兄上も、女にたかられて困ったと言っていた。どうせ、身分目当てのやつらだ。そんなやつらに構う時間が惜しい。


 だが、ここでも王族の名が邪魔をする。

 結局、半ば強制で行くこととなった。



 そこで、俺は出会った。




 白い髪の女だ。


 魔王と同じ白い髪。公爵家の令嬢だという。



 とてもかわいかった。いや、そうじゃないな。


 その時俺は話せなかった。

 醸し出す雰囲気が、兄上のそれだったからだ。

 色々なものが混じりあったような……不覚にも、俺は恐怖を感じたのかもしれない。理由は解らない。



 でも、あの白い髪。触りたい。


 学院では、運良く同じクラスとなった。



 触ってやった。


 本当に白くて、何だか触れていると安心感を覚えた。

 白い髪は、世界的に忌々しいものとして避けられる。

 故に、王族の俺がこのようなことをするのはいけないことだ。


 でも抗えない。気づいたら、勝手に触っていた。あちらも諦めたように触らせてくれるようになった。





 そんな日々が続き、俺は魔術を披露することとなった。

 使えるのは中級魔術まで。上級魔術はまだ描けない。魔法陣というのは不思議なもので、先天性の才能がないと、複雑な魔法陣を描くのは難しくなっていく。



 だから、俺は中級魔術を発動させた。結果は、先生の柱を数本壊す程度。本気で勢いをつけたのに、それだけ。



 次に、白い髪の女……確かルミリエといった。そいつも魔術を見せることとなった。



「……なににするんだ?」


 興味本位で聞いてみた。


「ジル様。」

「なんだ。」


 ちょうど手の位置のあいつの頭があったから、反射的に撫でてしまった。



「私が描くのは、上級魔術です。上級光魔術輝継鐘(フォーフュングベル)"。」

「なっ………!」


 思わず手を離す。



 ふと脳裏に浮かんだのは、初めて目にした時の、兄上に似た雰囲気。

 あれは、錯覚でもなんでもなかった。




 こいつもか。



 お前も、天才なのか。




 一般人がどれだけ努力しても、普通才能が無ければ中級魔術を描き極めるのが関の山。



 つまり、俺は平凡だ。



 どれだけ努力しても、上級魔術の魔法陣を描けるようにならないと、薄々勘づいてはいた。



 才能が、ない。



 なんだか、現実を叩きつけられたような感触。



「お前、できるのか……?」


 声が震える。



 怖い。



 あんなに努力した自分よりも上の者を見るのが、怖い。



 しかし、返ってきたのは拍子抜けするような返答だった。



「無理です。私の推定魔素量から見て、恐らく足りません。」


 足りない?どういうことだ?


 つまり、発動できないのに魔法陣を描いたのか?


 何を考えているんだ、こいつは。足りないならば、中級魔術とかでもいいだろ。

 もしや、プライドか。



「そこで、王子にこの魔術を発動させて欲しいのです。」


 何なんだ。何故俺にやらせる。


「俺がか?」


 本当に足りているならば、一人で発動させればいい話。俺にさせる意味はない。本当に魔素量が足りないのか?



「そうです。これなら、柱を全て折ることも可能でしょうね。」


 可能性はあるが。だが、俺に押し付ける理由はなんだ?


 こいつは、魔素量が足りないと言った。言い換えれば、元々持っていない。


 だが、魔法陣を描いた。才能があるんだ。


 俺は、魔法陣を描けない。


 だが、王族の特徴として、魔素量は膨大。つまり、元々持っている。



 見事に反対だ。……もしや、このことを知っていたのか?


 兄上が上級魔術を行使できるようになったのは7歳。こいつは、6歳。

 俺と兄上の魔素量に、どれだけの差があるのかはわからない。



 今まで俺はたった一人で、才能が無い者の武器である努力を振るい、兄上に追いつき越そうと頑張ってきた。


 二人でもいいのではないか?片方が片方の欠点を埋める。



「………わかった。やってやる。」



 なにを考えているのか分かりにくい、不思議な女。



 こいつと組めば、兄上にさえ勝てる、そんな気がした。




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