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そこな令嬢、ご満悦!  作者: シラスイ
10/55

10 入学式が始まりました





「今年の入学生は、全員で175名ですか………」


 眼下に生徒一同を捉え、そう呟いたスーツ姿の女性は、このジエム幼等·小等·中等貴族院の副院長兼、院長秘書であるスーラ·デスクスク=アメトリン。いかにも仕事が出来る、といった風貌だ。

 

「ええ、過去最多です。庶民院に至っては5000人を超えたと。そろそろ新しい校舎をもう一つ建てた方が良さそうです。」

「5000人………」


 この国では、学院はジエム学院しかない。ただ、ジエム学院だけと一口に言っても、校舎により毛色が違う。このセルグランス区の貴族院は、中でも高い身分の者が集まる。


 そして今年も、そんな学院の入学式がやって来た。



「さて、ルミリエ嬢は()()をどう凌ぐのでしょうね………」


 院長の単眼鏡が、きらりと光った。





   ・・・・・・・・





 やってきました入学式当日!


 学院は、屋敷からかなり近く、前世だったら友達から「近くていいなぁ」と羨ましがられるほどの距離だけれど、予想通り通学は馬車らしい。


 そんな僅かな時間馬車に乗り、降りた先は超巨大な建造物だった。


「お父様……これは。」


 お父様に聞くと、どうやらこれが私たちの学び舎らしい。でかい。志望していた大学のキャンパスよりでかい。屋敷よりもでかい。もはや城。


「今年の入学者数は175人と多いからね。少し狭いかもしれないかな。」


 お父様の感覚が解らない。


 狭い?175人で?お父様は何を仰っているのでしょうか?


「ほらルミリエ、早く行かないと遅れてしまうよ。」


 おっといけない。私とした事が……そうね、そうだわ。ああ、この建物ちっせーなー。せめて東京ドーム数個分くらいにしろよなー。



「これはこれはグロウル様!」

「まぁ、セルグランス卿だわ!」

「グロウル様、本日はお日柄も良く……」


 変なことを考えながら歩いていたら、こちらに大人たちが寄ってきた。あー、あれか、目上の人に媚びへつらうタイプの方々か。

 というか、保護者なら子の元を離れてこっち来ちゃダメでしょ。……あ、ほらあの子なんて「えっ……」みたいな感じで固まっちゃってるじゃない。


「おはようございます、皆さん。」

「ごきげんよう、皆様。」


 一応私も、お父様に見習って挨拶をする。ふむ、今回は中々綺麗にできた。

 今私は、学院の制服を身にまとっている。ブレザーとスカートという前世にかなり似ていて、ベレー帽っぽいのも付いている。まあ、6歳児のちびっこなんですけどね。


 大人達の反応はどうだろう……………あれ、反応されてない。お父様の挨拶には「ありがとうございます!」とか言ってるのに……


「それでグロウル様、本日エレイ様はご一緒ではないのですか?」

「パーティーでのエレイ様のダンスは素晴らしいものでしたわ。ぜひ今度、うちの娘とご一緒させては下さりません?」

「先日、グロウル様に新たにご子息が誕生なさったとお聞きいたしました。一度、お顔を拝見させて頂きたく……」


 ああ、なるほど。流石は貴族。お兄様とタール狙いかぁ。そりゃあ、公爵は世襲制だし、性別的にお兄様かタールがなるのだろうけど……



………なんだろう。ちょっと悔しい。



「すまないが、時間がない。今日は我が娘の晴れの日だからね。遅れさせて恥などかかせたくは無いのだよ。……行こうか、ルミリエ。」


「お、お父様……」


 私の、お父様の手を握る力が強くなったことに気付いてか、お父様がこの場から離れてくれた。


 ちらっとお父様の横顔を見る。



 その時のお父様の顔は、いつもの柔和な表情とは少し違い、頼れる父の横顔だった。





   ・・・・・・・・





 入学式は、学院の大きなホールで行われる。


 舞台があり、椅子が並んでいる。要は会議室や映画館みたいな所だ。



「お父様……私、実は隠していたことがあるのです。」

「何だい、ルミリエ?」


 さて、先程沈んだ気持ちを吹き飛ばすように宣言しよう。それは……



「実は私、今日の式内で代表として言葉を述べることとなっています!」


 ドリンクバーさんが帰った後、「どんな用事だった?」とお父様らが聞いてきたものの、私は秘密にしていた。そっちの方が面白そうだったからだ。


「すごいじゃないかルミリエ!もしかして、前にセルフさんが来た用って……」

「お察しの通り、これについてです。」


 それを聞いて、いつになく沈んだ様子だったお父様の顔にも活力が戻った。


「すごいよ。今年はジル様が行うと思っていたけど、それを抑えてルミリエが……良かったな。」

「はい。」


 本当は、その王子が拒否したからなんだけどね。

 まあ、お父様も嬉しそうだし、言わなくてもいいかな。


「それで、いつ頃ルミリエは出るんだい?」

「あ、そうでした!早く行かないと……」


 順番で言って、私の役は式中の三番目に行われる。


 ドリンクバーさんには最初から待機していて欲しい、との事なので、式が始まる前に裏へ回るのだ。でも、その前に……


「お父様!()()()()は……持ってきて下さいましたか?」

「はい、これだね。それにしてもこれって何に使う道具なんだい?」


 受け取ったモノを確認し、私はニヤッとほくそ笑む。


「……それは、私の番まで秘密です!」


 そう言い告げて、私はお父様と一旦別れた。






   ・・・・・・・・





 まず初めに、パーティーの時と同じくドリンクバー院長の話が始まった。


 ご入学おめでとうございますや、簡単な学院な説明やら。

 私は大事な役目があるから舞台裏で聞いていたけれど、ちょっと寂しかった。だって、他の子は親の隣で聞いているのに、私はお父様と離れてるって……仕方ないけど。


 ちなみに、入学生入場みたいなことはやらない。甘やかされ育った子が多いのか、式が始まったというのに騒ぐ子もいる。

 ま、私はこのことを予想して、()()を持ってきたのですがね。


 お、院長の話が終わって、次は在校生の言葉か。横から見る形だけれど、かなりのイケメンね。まだあどけなさが残っているけど。……私?六歳ですが、なにか?


 ……どうやら、このイケメン在校生は、アルセイ·フェーグン=ルビーという名……つまり、公爵家のご子息だ。話も、学院どこが楽しいとか、学業を頑張れとかいう内容だけども、お兄様のような大人びた雰囲気が醸し出されている。



……在校生代表の話が終わり、盛大な拍手が聞こえる。


 さあ、次はついに私の番だ。気を引き締めて行こう。




次回は、明日同じ時間に投稿です。

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