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こんな人間にもできること  作者: 雪桜と紅葉
諦めは心の養生。それが人生を蝕む毒になることは多々あります
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人と人、心と心、断ち切るは因習、紡ぐは絆 30

すみません遅くなりました。こんな時間ではありますが、今日の更新とさせていただきます。

そして明日は更新ができませんので、ご了承ください。

「リリア、パースは住人の避難を優先してください!残りの者は私に続け!」


 30体はいるだろうか。空を旋回する巨大な鳥の魔物から、多くの人の形を成した魔物が投下された。魔道具の類なのか、巨鳥の面積では到底支えきれない量の魔物が雨のように降ってくる。


 我らが団長、ユアン・フェイクが転移魔法で駆けつけ、すぐさま指示を行なっているが相手も尋常じゃない。


 普段からいくつかの小隊が森の中心、他国では首都に当たる場所に在中している。それでもたかが30程度の魔物に苦戦し、押し込まれる。確かに、ここ数十年で小競り合いはあったものの大きな戦争はなかった。迷宮決壊(スタンピード)は発生前に食い止められていた。


 気の緩みがあったことは認めざる得ないだろう。しかし、彼らは決して訓練を怠っていたわけではない。実力が低いわけでも、軍として動けないわけでもない。


 だが、足りなかった


 人型の魔物がその剛腕を振り落とす。身体強化が施されただけの鉄拳は地面を砕き、破壊音と共に相対した者の戦意を削る。剛力を避け、細身の魔物と矛を交えようものなら単独戦は無謀である。2人で劣勢、3人でやっと同じ土俵に立てると考えるべきだ。これに加えて少数ではあるが支援・遠距離魔法に特化した個体も見られる。たかが30体されど30体。数的有利が小隊を従えるエルフ側にあったとしても、この質に隔たりがあり過ぎては話にならない。


 無策で突っ込めば死の渦に巻き込まれ、堅実な策を(ろう)すれば絶望に飲み込まれる。いくら敵が強くとも、それはエルフの一般兵を基準としたに過ぎない。ユアン・フェイクにとっては格下に過ぎず、さらに(こえ)を討つために過剰なまでの宝具を貸し出されている。


 しかし、戦場が国家の主幹たるオールドエルフが座する大樹付近だったことが災いした。敵の全てを亡き者にする大魔法は使えず、司令塔だと思われる人間は巨鳥に乗り空中を旋回している。結果として投下された敵の魔物を討伐するしかなく、被害が及ばないように範囲指定のできる魔法しか使えない。


 こりゃヤバイんじゃないか?団長は負けはしねえだろうが、突っ走り過ぎだ。何をそんなに焦ってやがるんだあいつは!


 一刀のもとに斬り伏せる、とまではいかないが彼は周りの仲間とは段違いの速度で敵を減らしていく。戦場がなんとか拮抗を保っているのも一重に彼の働きあってものだろう。


「おい、団長!1度退がれ!」

「このままじゃ被害が広がるだけだろう!私がなんとかする。お前たちは足止めに尽力してくれ!」


 敵が複数だろうが関係なく追撃する。その姿はまさに勇者に相応しい勇敢さを示しているだろう。蛮勇ではない、本物の()()()()()()()彼を支えていた。


 故に散発的だった敵の攻撃、そのズレに気付くのが遅れた。敵が凄まじい速度で学習していることに気付けなかった。


 自身の身体はあろうかという筋肉の塊を躱し、細剣の間合いに落とし込む。狙うは首。宝具による強化とそれ自身が宝具である細剣が振るわれれば首を落とすなど造作もない。回避行動を取ろうが間に合わない距離、元々の速度差がある以上一瞬の戦闘においてユアン・フェイクが負けることはない。


 しかして結果は回避に非ず。抱擁という言葉生ぬるいほどの束縛が彼を襲った。防御宝具もある、数瞬のうちに抜け出せる。学習する敵が数瞬を待つ通りは無かった。吹き抜ける風の刃が機動力の根幹たる足の腱を切断する。細身の魔物が手に得物を携え、命を刈り取ろうとその手を振るう。


 彼は優秀だった、彼は天才だった。周囲には秀才だとは認められなかったが、それでも少なからず彼と友という間柄のエルフは存在した。彼は傲慢だったわけではない。油断をして手を抜いていたわけでもない。


 実力に裏打ちされた戦果を挙げていた彼が窮地に陥ったのは実力を発揮したからに他ならない。実力以上を発揮できなかったからに他ならない。少しの殲滅速度の減少を容認できれば、自分がなんとかしようという気持ちが少しでも弱ければ結末は変わっただろう。


 最高効率を求めて自身を最大限に活用することは、なるほど、戦士としては正しい。しかし彼は団長である、指揮する立場でもある。軍を十全に活かすことの意義を軽視していた。強過ぎる力を持つ故に、弱い力を束ねることの意義を軽視した。


 羽交い締めにされて視認できないが、刻一刻と濃密な死の気配が迫り来る。緩慢に感じる時間の中で、友の叫び声が聞こえた気がした。いっそのこと自爆覚悟の魔法でも使おうか、周辺被害を考慮しない大魔法を使おうかという思考が湧いては消えた。彼の守りたいものは大きく、そこまで大胆な行動に踏み出せなかった。




「はぁ、コエくんはこっちじゃなかったですか」




 数多のナイフが死を撃ち抜いた。


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