十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない。それはいつ実証されるのでしょうか? 7
ちょっとした説明回となります。そこまでダラダラとは書いていないのでご安心ください。
宗教国家の歴史はその名の通り、宗教の歴史である。その起こりは、この世界を作り上げたという三柱の神を信仰する集団からだと言われている。太陽神ラハト、月の女神エシャク、生命神レーヴェンリウ。これら三柱の神を信仰していたのが、宗教国家の起源である。
余談ではあるが、紆余曲折を経て現在では、獣国家が太陽神を、人国家が月の女神を、森国家が生命神をそれぞれ信仰している。
ただし、現在これら三柱を宗教国家が信仰しているかと問われれば答えは否である。宗教国家の前身である集団から数えたのなら、現4国家のうちで最も長い歴史を持つのが宗教国家である。まだただの宗教集団でしかなかった頃、その集団は様々な地域、国家に根を下ろしていた。あるところでは大々的に演説を行った。あるところでは密教が如く人々の信仰を集めた。
しかし時代はこのような教えが、その後どうなるのかを何度となく物語っている。時としてそれは国を支える教えとなり、時としてそれは国の仇とみなされ徹底的に弾圧される。
国教として召し上げられたのが人国家エーテルにある諸教会であり、後に一言主神教と呼ばれるものである。弾圧され、その信仰を地に貶められたのが宗教国家の起源となるものである。
彼らは絶望した。信じる神に裏切られたことに嘆き悲しんだ。そんな時分、人の心が弱り、拠り所を必要としていた時に現れたのがひとりの黒衣の男だった。彼は迷いし人々に道を示した。半信半疑だった彼らは、男が見せた、神より授けられし奇跡に魅せられた。今までの神々とは違う、明確な恩地を目の前にしたことで彼らの心に再び火が付いた。黒衣の男は主導者として信者の皆を導き、小さな村を作った。小さな町を作った。それは徐々に発展し、何時しか国を作り上げた。数ある村や町を吸収し、統合し、統治した。それは当時あった列強諸国にも負けず、国力を蓄えていった。これが宗教国家の始まりである。
この克己の歴史は現代の歴史には刻まれていない。宗教国家のみで伝えられている歴史である。もはやそこに真偽を問うことは無益である。知ったところで今の宗教国家の根幹が崩れるわけではない。真偽に関係なく人の信仰心で成り立つのが宗教であり、確かめられないものを利用して利益を得ようとするのが人間なのだから。
◇
「試験運用でもやってみるとしますかねぇ」
地下のある一室。様々な魔法陣が刻まれた装置が並ぶ中で、男は小さな笑い声を上げた。長年に渡り研究してきた物がついに身を結んだのである。
「あの5体は戦闘能力は高いんですけどねぇ。まだ実戦で使用するにはリスクが高過ぎるんですよねぇ」
試験運用するのは5体とは別の個体、劣化品。学習能力がほとんど備わっていない戦闘特化の品。故に失敗した時の被害が少ない。離脱をするといった思考は存在せず、その身が朽ちるまで獲物を追い続ける。試験場所さえ注意すれば被害が及ぶこともない。
「秘書官からの許可も漸く降りたことですし、派手にいきましょうかねぇ。国内でやれば他国に漏洩することもないでしょうしねぇ」
男は透明な薬液で満たされた装置の前に移動する。中に入れられた個体の体には、その体を覆い尽くさんほど魔法陣や幾何学模様が刻み込まれている。
「いやー、本当に失敗作ですよねぇ、あなたたちは。なんて無駄の多い紋様なんでしょうかねぇ。戦闘にだけ特化しているのに、この有様とは作った本人もびっくりですよ」
周囲を見渡しそう洩す男の顔には笑顔が張り付いていた。視線の先には何百という円柱状の装置が並べられ、一定間隔で装置に刻まれた魔法陣が躍動している。
完成品たる5体を作り出すために作られた試作品の数々。男女の区別なく様々な体格の個体が辺りを埋め尽くしているが、その顔はたった5種類という汎用性を欠くものになっている。
「それにしても、途中で個体の発生段階で魔法陣を刻もうと考えた私は天才ですねぇ。あれなら体の内部にも魔法陣が刻み込めますし、刻める面積がだいぶ増えましたねぇ」
ここに所属する職員たち彼の独り言に疑問を持たない。非人道的だの人権の侵害だのといった思考には至らない。崇高なる理想のためならば必要なことなのだから。感情は付与していないが、試作品だって感情を持っていたならきっと光栄だと喜んだろう、とここにいる研究員の全員が思っている。
「取り敢えずは勇者やそれに近いものを優先的に狙うように設定しましょうかねぇ。そんな人間が国の端にいるとは思いませんがねぇ」
研究者にとって、少なくとも彼にとっては自身の研究結果を、試作品とはいえ世に出せるのは大変喜ばしいことだ。そこに損得勘定は無く、あるのは自分を誇示したい、欲求を満たしたいといった人間味溢れる理由だけである。




