異世界生活の始まり 13
遅くなりましたが、本日の2話目の更新になります。
異世界に来て、初めてであろう束の間の安らぎを得ました。
ヴェルさんはベットでぐっすりとお眠り中です。痛むお腹を押さえながら宿のおばさんに断りを入れ、一日だけヴェルさんの滞在許可をもらいました。最後まで迷惑な猫です。
私は椅子に座って身体強化と敏感化の検証中を始めます。これさえはっきりさせれば、この世界での私の生存確率が一気に上がるでしょう。生に執着するつもりはまったくありませんが、無駄死にするつもりは毛頭ありません。
血流に自分の魔力を乗せる。もっと万遍なく、もっと効率的に。より無駄を排除し、より余分をなくす。余剰が生まれる瞬間を一瞬たりとも作り出さない。
「血流に乗せるってイメージじゃ限界か……」
継続時間が短い上に、常に魔力を流していないといけない。魔力の保持能力が低過ぎる。とてもではないが、実戦に転用できない。これでは盾役が良いところだが、そもそも「敏感化」の影響でほとんど耐えられない。
「血管を魔力の通路に使うのは悪くないと思うんだけどなぁ。あ~、赤血球ならいけるか?」
指し示す機能としては違いがあるが、一般的な感覚としては、血液と赤血球は大差ないだろう。だが、これには人間と人とを区別するくらいには意味がある。
赤血球にはおよそ120日間の寿命がある。赤血球という物質の中に魔力を貯蔵できれば、その期間、赤血球を疑似的な魔力として扱えないか?常に一定の魔力を放出する機構を作れれば、一から起動するよりも素早く、円滑に魔力を全身に充填できるはずだ。
少なくとも半日でも保てば十分に使える。ひとつひとつは8㎛がいいところだが、数がある。血流全体に魔力を浸透させるよりは効率的だろう。
そして赤血球には変形能力もあるため、毛細血管などの細い場所にも入って行ける。これで身体強化は大丈夫なはずだ。
「できるな。むしろ血流よりも形をイメージしやすいから楽なくらいか」
高校では生物を専攻していたから、よりイメージしやすい。これならもっと特殊な強化もいけるのでは?
「あとはニューロン間の物質伝達の速度を上げるくらいかぁ……。ただなぁー。興奮の伝達速度を上げると何が起こるのやら」
今でも敏感化の副作用で地球では感じなかった感覚に苛まれている。ただ、これは興奮に必要な閾値、つまり興奮に必要な最低限の刺激量が低下したとも見れる。
それとは別に、興奮の伝達速度上昇を試みることには問題がある。普段の生活では、まずありえない状況。近い状態といえば、運動をしている時か?
「実験しないことにはどうしようもないか」
10分間、無言で実験。「聴力強化」と「敏感化」の影響で前は気にならなかった木の軋む音やヴェルさんの衣擦れの音、呼吸音。外を飛ぶ鳥の羽音、多くの音が感じ取れる。
「駄目だな、これは。とてもじゃないけど常時発動は無理だ」
運動を積極的にやっていた人には覚えがあるのではないだろうか?伝達速度強化はゾーンに入っている状態の再現に近い。これだけなら、ボールがゆっくり見える、周りの無駄な音が聞こえなくなるといった利点が多く生まれる。
しかし、これを通常状態で実現するのが今回の伝達速度強化。疲労感が凄まじい。素人見解だとアドレナリンが原因な気がするが……。アドレナリン分泌の少ない状態では疲労感を誤魔化せない。
「土壇場の切り札としては使えるけど……」
なんで一般高校生がこんなに戦闘のことを考えないといけないんだ……。この思考回路になったのも、あのスキンヘッドのせいだ!のんびり暮らしたかったよ、勇者役じゃないだけましだけど。
「ところでヴェルさん、いつまで寝たふりしてるつもりですか?」
途中から息遣いが変わってましたよ。明らかに息を殺そうとした不自然なものでした。
「いや~、コエくんって気を抜いてるときって、そういう喋り方なんだなぁ~って。ずっと聞いてただけだですよ?」
「起きたのなら帰ってくださいよ。自分の部屋あるんでしょう?ギルド関係の」
「いやで~す。借家はあるけど今日はここにいます。あと、素のしゃべり方でいいですよ?私も素を見せたんですから、お互い気楽にいきましょう〜」
「帰れ、ダメ猫」
「ひどっ!わたしは優秀な猫ですよ!」
延々と話し合いました。それはもう、夜が更けるまで延々と。
おかげで、二人そろって寝不足です。ねむい……。
お仕事、学校のあった皆さんはお疲れ様でした。明日からのお休みは家族サービスなどに当てる方も多いとは思いますが、体調を崩されないようにお気をつけ下さい。更新の方は午前10時を予定しています。




