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村人が世界最強だと嫌われるらしい  作者: 夏夜弘
第一章 嫌われ者
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この世界は、何もかもがおかしすぎる 7

 来た道を全力で戻る烈毅。途中でレーナを拾い、今は抱えながら走っている。


 レーナはじたばたしながら、「離せ!」とずっと言っている。


「お前暴れるな! 走りにくいだろ!」


「こんな馬鹿みたいなスピードで走れる村人がいてたまるか!」


「新幹線より早いぞ?」


「そんなもの聞いたこともないわ!」


「ああ、そうか。それはすまん」


「くっそ……解けない……なんだこの馬鹿力は!」


「おい、見えてきたぞ」


 その言葉に、レーナは前を見る。すると、そこには煙を上げ、大きな悲鳴が門の外にまで聞こえてくる。


「一足遅かったか……仕方ない。今は何も話してはやれん。だが、この騒動を片付けたら話してやる」


「……わかった」


 聞分けは良くて助かるよ。素直な子は伸びしろがあるからな。


 レーナを下ろし、一直線にルノの所へ向かう。レベルは多少あるが、それでも数で押されたらすぐに殺られる。


「ルノ、頑張って逃げてくれよ……」


 門を勢いよく蹴破り、辺り見回す。


 その光景は、地獄絵図のようだった。


 村人は首をもがれ、レベルの低い冒険者は一方的に殺られ、女は人形のように扱われている。


 だがそんなことは烈毅にとってはどうでもいい。今はルノの事しか頭に無い。


「ルノどこだー!!」


 その声に、反応はない。振り向いたのは近くにいた変異種達だ。


 数は三匹。どれも冒険者の首を片手に持っている。そいつらは、首を投げ捨て、三匹同時に烈毅に襲いかかる。


 だが……。


「邪魔だ」


 誰も見るどころか、認識する事も不可能な速さで変異種を殴り、宙に鮮血が飛び散る。


 烈毅は町の中を走り出そうとした瞬間、目の前に、ゴブリン達に引きずられているルノを見つける。


「変異種だけじゃなかったのか!」


 烈毅がルノの元へ向かおうとする。だが、それはほかの変異種達に邪魔される。


「邪魔なんだよぉ!!」


 十はいた変異種は一瞬で塵となる。視界が開け、目に映ったのは首元に剣を添えられたルノ。


 ルノはこちらに気づき、聞き取れもしない声でこう呟く。


「助けて……」


 それは烈毅には聞こえない。剣を振り上げるゴブリン。それを阻止したい烈毅。だが、烈毅を阻む変異種達。


 変異種がいくつも沸いて出て、行く手を阻まれる。それにイライラし、烈毅は荒く変異種を葬っていく。


 もう変異種もいなくなり、再びルノが見えた時だった。


 剣はルノの首元数ミリの所まで下ろされていた。


「あっ……」


 その瞬間、頭の中にルノとの思い出が星の速さで駆け巡る。


 最初に出会ってから、今までの全ての思い出が。


 そして烈毅の頬に、一滴の雫が流れ落ちる。


 その瞬間だった。烈毅から黒いオーラが溢れ出す。殺気に満ち溢れた黒いオーラだ。


 烈毅から溢れ出す殺気は、町どころか世界中に恐怖を齎した。


 ゴブリンはその殺気に耐えかね気絶し、剣がカランと音を立て、地面に落ちる。それはゴブリンだけでは無い。変異種、他にその場にいたモンスターは全て泡を吹いて倒れていく。


 烈毅のその殺気に、危険信号を発したのはモンスターだけでは無い。世界中のだれもが、そのとてつもない殺気に、全身を震わせたのだ。


 ルノはその場に力なく倒れる。


 ルノの安全は保証された。だが、その殺気は収まらない。


 何が起きたのか、気になった全ての住人が烈毅の元へ駆け寄ってくる。


 そしてその姿を見て、人は皆、烈毅を恐怖し嫌悪する。


 そこへレーナも駆け寄り、声を漏らす。


「ば、化け物……」


 その一言が耳に届き、烈毅は深呼吸をしてから、オーラを解く。


 無言のままルノの所へ歩いていき、しゃがみ込む。


「すまない。本当にすまない。もう、俺はお前から離れない」


 そのままルノをお姫様抱っこをして持ち上げる。そこへ、レーナが走ってくる。


「お前……さっきのは何だ?」


「…………」


「答えろ! 全てを話すのではなかったのか!」


 町の人はざわざわとし始める。


「すまない。今はそういう気分じゃない。また今度でいいか?」


「何を自分勝手な事を! たかが女が一人殺されそうになったくらいで……」


 その一言に、烈毅のスイッチが入る。


「今……何つった?」


「たかが女一人殺されそうになったくらいで、そんなに態度を変えるのかと言っているのだ! 殺されなかったのだから別にいいだろ!」


「ふざけるなぁぁぁぁあ!!」


 その怒号は、町を揺らし、建物の窓を破壊する。町の人は、思わず耳を塞いでしまう。


 烈毅はそれで我に返り、再び深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「明日、全部話すから……」


 烈毅はそれだけ言い残し、その場を後にした。

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