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いちごいちえ  作者: 夏みかん
第2章
8/52

小さな約束 2

教頭はすぐ隣、5歩ほど進んで生徒会室のドアをノックした。廊下を見た限り、苺や歩の姿は無い。1人が完全に姿を消してから次の人を呼んでいることが分かった明人は小さくため息をつきつつ、中からの応答の声にそちらを向いた。扉を開くと中には私服の警察、刑事とおぼしき人物が2人いた。教頭に背中を押され、若い、といっても20代後半の刑事に目の前の椅子を勧められ、明人はそこに座った。扉が閉じられたと同時に明人のことが書かれているのだろう書類を開き、40代と思える刑事が愛想の良い笑みを明人に向けた。


「2年4組の戸口明人君、だね?」

「はい」

「私は二見署の笹山、こちらが同じく武藤だ」


そう言われ、明人は若い刑事である武藤に軽い会釈をしてみせた。


「さて、遠山くんと志保美さん、そして一枝さんたちと一緒にいた、間違いないですね?」


丁寧な物言いに好感を得つつ、明人は頷いた。苺が早かったのは健司や歩と一緒にいたことが大きいと理解し、自分も早く終わるのだろうと思う。


「高橋ミドリさんから一報を聞き、職員室へ一緒に行った」


言い終えて明人を見る笹山に、一つ一つ頷く。


「君は話を聞いてどう思いましたか?例えば、犯人に思い当たるとか、彼女が何か言っていたとか」

「とりあえず、携帯にかけた時点で圏外のようであること、そして圏外の場所がこの周囲では裏山ぐらいなこと。あと犯人に心当たりはありません。池田さんとそう親しいわけでもないですし」


きちんとした受け答えに好感を得る笹山の表情が緩んだ。この子は頭がいい、直感でそう見抜いたのだ。


「そうですか。あと、もし、君が犯行に及ぶなら、今回の神隠し、可能ですか?」


今までの生徒には聞かなかった質問に武藤の表情が変わった。そして明人はそれを見逃さない。しばらく考える仕草を見せた後、静かに口を開いた。


「人のいない科目棟に呼び出すところは同じです。ただ、彼女を隠す場所が思いつかないのでなんとも言いがたいですが、もしその場所があったとすれば何かしらを使って彼女を眠らせるかどうにかし、そこに運ぶ。拉致が目的ならば、車か何かでの運搬が必要なので仲間を呼ぶか、用意します。もっとも、校内と裏山が繋がるルートがある、という限定条件下ですが」


見事な言い方に笹山はにんまりと笑い、武藤はぽかーんとした顔をしてしまった。あわてて表情を直す武藤に苦笑しつつ、笹山はさらに明人に質問を投げた。


「そういう場所があったとして、彼女を他の誰にも見つからずに運ぶことがきるかな?」

「その場所と通路が一緒の場所ならば、そこに誘い出してしまえば可能でしょう。ただ・・・」

「ただ?」

「そこが変な場所ならば、今回のように待たせている生徒にそれを伝えられる危険性がある、という条件が入ります・・・なので、校内にそういう場所があるとは思えず、この推理は信憑性に乏しいですね」

「そうだね・・・実際、そういう小部屋も通路も見つかってはいない。さらわれた痕跡もないしね」


この話が捜査上の機密事項だという風に笹山はあわてて黙った。ただ、今の言葉がわざと明人に向けられたことを理解しているのは言われた明人だけだったが。現に武藤は渋い顔をしたままだ。


「まぁこの学校は歴史も古いし大きな改修工事もしている。調査はしてみる価値あり、だね」


笹山は人懐っこい笑みを浮かべてそう言い、明人は何も言わずに頷いた。


「では最後に・・・何故教室に1時間近く残っていたのかな?」

「遠山や志保美と同じ理由です。友達が人を待っていたので、付き合っていただけです」

「うん。ありがとう」

「終わりですか?」

「ああ、終わりです。ありがとう」


笹山が立ち上がると同時に明人も席を立った。同じく立った武藤が扉へと向かう。


「また何かを聞くかもしれませんが、その時はよろしく」

「はい。失礼します」


扉が閉じられ、明人が廊下に出た。外から教頭が明人に帰るよう伝えている様子が小さいながらも聞こえていた。笹山は明人の書類に何かを書き込みつつ、お茶のペットボトルを手にする武藤を横目で見た。


「お前はもっと緊張感を持て」

「でも警部・・・正直、どの生徒も犯人ではないし、目撃も期待できません。暇です」

「わかっちゃいるが、そういうのを顔に出すなと言ってるんだ。さっきの彼、あれぐらいの度量を持て」

「はぁ」


明人のどこにその度量があるのかさっぱりわからないがとりあえずの返事をする。確かに受け答えはしっかりしていたが、それが度量にどうつながるかが理解できない。


「さぁ、あと1人だ。呼んでもらって」

「はい」


お茶のペットボトルを置き、武藤が扉へと向かった。笹山は最後の1人の生徒の書類に目をやりつつ少し苦笑じみた笑みを浮かべてみせた。何か因縁を感じる苗字が書かれていたからだ。やがて少しの間を置き、失礼しますとの声の後でボサボサ頭にめがねの少年が姿を現した。今時の高校生には珍しいスタイルに笹山は驚きつつも表情は変えない。


「座ってください」

「はぁ」


さっきの明人と違って戸惑いが見て取れる。いや、ああも落ち着き払った明人が特殊だったのだ。他の生徒は皆一葉にこうだった。


「私は二見署の笹山、こちらが武藤刑事」


もう何度目になるかわからない挨拶もこれが最後だと思えば苦にもならない。京也は軽く頭を下げながら木戸ですと挨拶をした。その瞬間、篠山の口元に苦笑が浮かぶ。それを見た京也が怪訝な顔をしてみせたせいか、笹山は咳払いを一つしてからその非礼をわびた。


「いや、失礼しました。以前担当した大きな事件に、君と同じ苗字の人間が2人も絡んでいたもので、それ以来の名前だったからつい因縁みたいなものを感じて、すまない」


笹山は丁寧に頭を下げ、武藤はその事件を担当したわけではないが知っているだけに少し困った顔をする。一方の京也は小さく微笑むと気にしていませんと言いながら笹山を見つめた。


「ではお話をきかせてもらいましょうか」

「はい」

「君も、戸口君たちと一緒に教室に残っていて、高橋さんから事件を聞いて職員室へ向かった、ですね?」

「そうです」

「残っていた理由は?」

「一枝さんと一緒に帰る約束をしていたので、部活のミーティングが終わるまで待っていました」

「2人の関係は?彼氏彼女?」

「友達です」

「学年が違うのに?」

「ついこの間、学校帰りに自転車のチェーンを直したのがきっかけで、それで」

「そうですか。彼女、可愛いからね」

「え?あ、はぁ」


京也のその反応に笹山は小さく微笑んだが、武藤は怪訝な顔をしてみせた。笹山がどう受け取ったかはわからないが、武藤にしてみれば京也の反応は自分にはもっと可愛い彼女がいると言わんばかりのものに感じられたからだ。だが、笹山はそうは思っていない。


「君は彼女が可愛いから友達でいる、という感じではないのですね?」

「可愛いとは思いますけど、あまりそういうのに鈍いタイプなので」


どういうタイプだよと思う武藤をよそに、笹山はにんまりとした笑みを見せた。


「話がそれましたね、失礼。で、君は職員室へ付き添い、そのまま帰った?」

「はい、そうです」

「ふむ・・・では、池田さんの携帯を借りて掛けました?」

「いえ、掛けたのは戸口君だけです」

「圏外だったとは聞きましたか?」

「はい」

「そう聞いて思い当たる節はありますか?」

「圏外は裏山ぐらいですね。何度か行ったことがありますが、友達と連絡を取れずに困った経験があるので」

「なるほど・・・・」


そう言うと、笹山は書類を目に通しながら何かを考えるようにしてみせる。武藤はまたもお茶を飲みつつ今までとは違う笹山の行動に少し疑問を抱いていた。今までならばこれで生徒を帰している。この木戸という男に何かを感じるのか、笹山は書類を眺めつつ2、3度京也へと視線を走らせた。


「ありがとう、あとは戸口君たちと同じだね・・・・また何か聞くかもしれませんが、その際はよろしく」

「はい、失礼します」


京也はホッとしたような顔を見せ、武藤に付き添われて生徒会室を後にした。入れ替わりに入ってきた教頭に事情聴取が全て終わったことを告げると今日の校内の捜査を科目棟に限定して行うことを告げた。資料を武藤に渡し、背伸びをしてから部屋を後にする。


「警部、何かさっきの子に?」


その武藤の変な言い方を気にしつつ、笹山は頭を掻いてみせると廊下を歩きつつ中庭の方に目をやった。


「10年前の事件の重要人物に『木戸』という名の人物がいた、2人もね」

「あの首都圏ビル爆破事件ですか?」


10年前の大きな事件で笹山が携わったのはそれしかない。噂でしか知らないが、特殊部隊も投入されたテロだとも事故だとも言われる今でも謎の多い事件だ。笹山がその事件の事後処理に関わっていたと以前に一緒に飲んだ際に聞かされていた。


「でも、あれって首謀者も一緒に死んだんじゃないんですか?」

「・・・まぁ、そうだ」

「同じ苗字をもつ者が2人・・・で、彼も同じ苗字・・・今回の事件に、彼も?」


武藤の深読みに苦笑しつつ、笹山はそれを完全に否定した。


「バカ、考えすぎだ。彼は関わっていない」

「はぁ・・・」


歩き出す笹山に少し送れてついていく武藤は釈然としない思いを抱えつつため息をついた。深読みさせるような真似をしたのは笹山だというのに。


「けど、彼は間違いなく、『木戸』だ」


武藤には聞こえない声でそう独り言を言う。少し遠い目で中庭を見つつも歩みは止めなかった。


「正か邪か、どちらのものなのかな・・・」


険しい顔をしつつ歩く笹山は10年前の事件のあとで出会った2人の木戸のことを思い出していた。事件の首謀者だった男と、それを止めた男。その2人の顔を思い出しながら歩く笹山に笑顔はなかった。



事情聴取を終えた京也があわてて昇降口に向かうと、そこでは歩が待っていた。見たところ1人で待ってくれていたようで、明人も苺もいない。その京也に気づいた歩が2人は先に行ったと説明をする。気を利かせたつもりだろうが余計なお世話のようにも思えてくる2人の行動にため息をつく京也は、それを歩に気づかれないように気を使いつつ靴を履き換えた。


「大丈夫だった?」

「え?あ、はい」


何が大丈夫だったのかと思い返し、今の質問の意図を理解した歩がにこやかな笑みを見せた。


「たいしたことを聞かれなかったし、それに、笹山さんがいい人だったから」

「そうだねぇ、話やすい人だったよねぇ」


いつもの京也の口調にどこかホッとした歩が小さな笑顔を見せた。それを見つめる京也は確かに可愛いと思うが、だからといってそれを独占したいとかは思わない。


「多分、同じ事を聞かれたんだとは思うけど、報告は後でになるね」

「そうですね」


言いながら自転車を取り出す2人。学年が違うので京也の方が奥に位置するが、そう離れてはいない。


「木戸の名か・・・」


取り出しながらポツリとそう呟く京也。先ほど笹山が言った2人の木戸が誰かは分かっている。少なくとも1人とはかなり親しかった仲だ。


「木戸先輩?」


自転車を通路に出したところで何かを考え込んでいる京也に歩が声をかけた。我に返った京也は駐輪場の通路を抜けて生徒たちが通る広い道へと自転車を出した。


「どうかしたんですか?」

「ん?んー、思ったよりも難解な事件だなぁって」

「そうですね、そう思います」

「君も可愛いから、気をつけてね」


突然そう言われた歩は顔を真っ赤にしつつも頷いた。京也が自分を可愛いと言ってくれたことが素直に嬉しかったのだ。他の男子に言われたのならその裏を読んでしまうところだが、京也は別だ。特別だと言ってもいい。


「大丈夫です。変な呼び出しもらったらすぐ報告しますし・・・・」

「そうだねぇ、連絡はしてね。そういう時は1人では行動しないこと、だねぇ」

「はい。でも、もし危ない目に遭ったら、そしたら、先輩が助けてくれますか?」


自転車にまたがりつつそう問いかける歩に、京也は困った顔をしつつも頷いた。


「いいけど、俺は弱いからねぇ・・・努力はするけどさ」

「約束ですよ?」

「いいよ、約束する。でもさ、やられても軽蔑しないでくれよ?」

「しません」


きっぱりとそう言う歩に苦笑が漏れる。果たして本当に努力はすれど助けられなかった時、彼女が軽蔑しないかどうかは疑問だ。だが、今の言葉は嬉しいと思う。


「ありがとう」


照れた笑みを浮かべる京也が新鮮で、歩もまた笑顔になる。そのまま明日の待ち合わせの時間や場所を確認しながら自転車を走らせ、2人がドーナツ店に着いたのは明人と苺が店に入るのと同時だった。


「あら?早かったんだね」

「自転車だからねぇ」


店のドアを開いたままの苺にそう返しつつ、店の駐輪場へ自転車を止める。明人はさっさと店内に入り、苺は京也と歩を待って一緒に入った。いつもの場所には春香と健司がおり、そこへ向かう明人に続いて3人もそこへと歩き出した。


「遅いよ・・・・私を太らせる気?」

「そういう手があったか」


春香の言葉に苺が笑顔を見せてそう言った。テーブルの上には3つは食べた痕跡が残っている。


「ドーナツ買ってくるね。一枝さんも行こうよ」

「はい」

「あ、俺も。明人は?」

「コーヒーだけ頼む」

「あいあい~」


既にドーナツとコーヒーを目の前においている健司の横に座った明人は少し店内を見渡して見せた。生徒が数人いるだけで客は少ない。みんな真面目に帰ったのか、これ幸いとどこかへ遊びに行ったのか。


「何聞かれた?」

「おそらくお前と同じだ」

「高橋さんを連れて職員室へ行った、か?」

「ああ。あと、俺の見解を聞かれた」


その言葉に健司も春香も驚いた顔をしてみせた。健司にしてみれば、そんなことは聞かれなかった。健司からの報告をいち早く聞いていた春香にしてもそれが少し特殊なことだと分かる。捜査に関係ない生徒に見解を聞くとなれば、容疑者の扱いを受けたに等しいと思えたからだ。


「疑われてるのか?」

「逆だ。純粋に意見を聞いたんだろう」

「さすが秀才は違うね」


春香はそう言いながらニヤッと笑いつついやな目で健司を見やった。


「どうせ俺はバカですよ」

「知ってる」

「はり倒すぞ!」


いつもの漫才を横に聞きつつ、戻ってきた3人を見た明人に促され、京也、歩、苺の順に窓際から腰掛ける。そうしてみんなで何を聞かれたかを話すが、やはり同じ内容だ。ただ明人だけが見解を聞かれ、事件の進捗を聞かされている。


「校内で消えたのは間違いない。痕跡もないとなると、神隠しとも取れる」

「そうだけどさ、さすがにそれはないな」

「呼び出した人物がいるしね」


神隠しと言った明人の意見を否定する健司を支持する春香。そこで京也が口を挟んだ。


「携帯が圏外となると裏山だろうけど、学校との接点がないね」

「警察もそこを調べているようだ。だが、失踪者が1人じゃ、捜査員の数はたかがしれている」

「裏山も捜索されているだろうしな・・・本腰を入れる事件でもないってか」


背伸びをする健司の言葉に京也が頷いた。女性3人は話を聞きつつもドーナツを頬張っている。


「やっぱ昔の地図と学校の関連を調べる必要があるな」

「だよね、改造前と後で埋められた小部屋とかあるかもしれないし」


健司の言葉に賛同する春香。こういう時のコンビネーションは抜群だ。


「図書館にでも行けばわかると思うけど、警察も同じことしてるだろうね」


苺の言葉に渋い顔をする一同。当然、警察も同じ事を考えているのは目に見えている。


「でも、なんかこのメンバーで事件解決しようって流れになってるね」


苺の何気ないその言葉に全員が目をあわす。今まで気づいていなかったのがおかしいが、昨日からその流れになっている、それにようやく気づいた瞬間だった。にんまりと笑う健司と春香、困った顔をする京也と歩、きょとんとした顔の苺、そして無表情でコーヒーをすする明人。様々な反応を見せる面々が口を開きかけた瞬間、明人がカップを置いた音に全員が注目した。


「解決は無理にしろ、何らかの推理は出来る。それは結果的に警察に協力できる、と思っている」

「だな。で、まずはどうする?」

「地図を調べる必要がある。あと、学校の裏山側の塀と校舎の間を調べる」

「校内じゃないの?」

「ああ」


そう言うと、明人は説明を始めた。校内に変な場所はないと笹山は言った。あとは塀と校舎の間にある雑草だらけの場所。警察も調べているだろうが、何かしらある可能性は残っている。出来れば地図と照らし合わせればなお一層分かりやすい。


「明日、図書館へ行こうか?最悪は役所もだな」


明日という言葉にピクリと反応した歩が京也へと顔を向けた瞬間、その京也が口を開いた。


「俺は明日は無理。用事がある」


明日の約束を反故にして調査に加わるのではないかと思っていた歩にとって、それは嬉しい言葉だった。


「俺も日曜日は用事がある」


明人もそう言うとチラッと苺を見やる。


「なんだよ、みんなデートか?」


自分を除く男子2人の言葉にふてくされたような健司の言葉を聞いた歩が少々赤い顔を伏せる。それを見逃さない春香がニヤリと笑みを漏らした。


「ほほぉ、木戸と一枝さんはデートかぁ」

「そうなるね。なんせあんたらのメールが発端なんだからさ」


焦るような歩をよそに、京也が実に涼しげにそう言い放つ。その言葉に苦い顔をした春香は健司のドーナツを半分に千切ると豪快に口の中に放り込んだ。


「こら!俺のだろうが!」

「うっさいなぁ、ケチくさい」

「くぅ・・・・で、明人は?」


ドーナツを諦めた健司の言葉に明人はため息をついてから言葉を発した。


「苺と誕生日のプレゼントを買いに行く」

「うん。毎年恒例なんだけど、今年は早めにってことで」

「お前ら5月だろ?ゴールデンウィークに行けばいいじゃん」

「そのゴールデンウィークを事件のことに使うという発想はないのか?」

「・・・・そうか」


有無を言わせぬ説得力に健司はもう黙るしかなかった。しかし、そこまでかかってもこの事件が解決していないという頭はない。いや、明人には予感があった。この事件はまだ続く、という予感が。


「でもそこまでかかるかな?警察も動いてるのに」


健司と違って現実を見ていると思える春香がもぐもぐと口を動かしながらそう言うと、明人はコーヒーカップを見つめながら意見を言った。


「おそらく長引くだろう。警察も言ってた、痕跡もないってな」

「まさに神隠し、か」

「人の手による、ものだけどな」


健司と視線を合わせる明人の言葉に全員が頷く。


「とにかく、俺たちもやってみるか」

「そうだね」

「面白いじゃん」


健司に賛同する苺と春香。


「でも、大丈夫ですかね?」

「ま、警察の邪魔にならないように、ならね」


不安げな歩をフォローする京也。しかし、これで全員の意見はまとまった。


「特別捜査チーム発足だな。名前はどうする?」

「いらん」

「あった方がやりがいが出るって」

「どんなやりがいだ」


つまらないことで対立する明人と健司を横目に、わいわいと盛り上がる他の面々。


「二見捜査部!」

「部って部活?なんかこう、アメリカドラマみたいなのないの?カッコイイの!」

「えー、シンプルでいいと思ったのにぃ」


苺と春香のやり取りを黙って聞きつつ、京也は笹山の言葉を思い出していた。以前の大きな事件、それが首都圏ビル爆発事件だとは分かっている。あの刑事が自分を調べれば、この先いろいろ聞かれるような気もする。昔の事件には無関係でも、今の事件の容疑をかけられる可能性はある。自分の中を流れる血を呪いつつ、ドーナツを口に含んだ、甘い味が口一杯に広がっていく。たとえ『彼ら』と関係がなくても、自分もまた『木戸』の血を流す人間なのだから。


「よし、じゃぁこの後は図書館だ!」

「え?この後?」


盛り上がった健司の言葉にぼんやりとしていた京也が声を上げた。考え事をしている間に何がどうなってその話になったかはわからないが、みんなの注目を集めることになった京也はにへらと笑って誤魔化した。


「お前、明日のことばっか考えてるだろ?」

「ん?あ?へ?」

「歩ちゃん、こいつはきっと妄想の中で明日の君の裸を・・・・・」


言葉が途切れる直前、春香の肘が健司のみぞおちにめり込んでいた。健司は息も絶え絶えに体を痙攣させてテーブルに突っ伏した。


「ごめんねぇ・・・こいつデリカシーって言葉、生まれる前に忘れてきた男でさ」

「・・・いえ、大丈夫です」


そう言う歩の顔はどこか引きつっていた。


「でも、いいの?私たちは同じ学年だし、同じクラスだけど、一枝さんは1年生だし、こんなことに付き合ってたら友達とも疎遠になっちゃうよ?」

「大丈夫です。休みの日とか、一緒に遊んでる子もまだいないし」

「普段は部活?」

「はい、バスケ部です」

「そっか。私も水泳部だし、普段は暇人たちに任せて部活で青春謳歌しようね」

「そうですね」


その性格のせいか、春香と打ち解けあう歩。お互い社交的なところが合うのかもしれない。


「デートも優先していいんじゃない?」


苺の言葉にチラッと京也を見つつはにかんだ笑みを見せる歩。


「しっかし、こんないい子が木戸を好きって・・・・一枝さん、ホントにこいつが助けたの?」


あからさまに好きと言われて赤面する歩の反応を見て、春香はジトッと京也をねめつけた。言われた京也はとぼけた顔をしてみせる。


「とにかく、やれるだけはやろうぜ」


ようやく息を吹き返した健司の声に全員が顔を見合わせ、無言で頷いた。

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