理想の行先 3
血を流して倒れている千石のズボンのポケットから京也が取り出したのは、かなり古めの鍵だった。それが通路の奥の鉄扉の鍵だと悟った京也は歩にここで待つよう言い、扉の方を見た。そんな京也を明人が呼び止めた。京也はその声に反応し、血を流す腹部に制服を当てて押さえるように苺に指示をしながら足早に近づいた。
「これ、持って行け・・・笹山さんの、番号がある」
そう言って差し出したスマホを受け取ると頷いた京也は通路に向かって駆けた。怪我人や意識を失った人が多い。一刻も早く救急車を呼ぶ必要があった。通路に倒れている2人の3年生の女子を確認すれば、こちらも意識を失っているだけのようだ。京也は鍵を挿してそれを回すと、鈍い音がして鍵が開くのを確認した。そのまま扉を開けるとさらに広い空間に5つの通路が見て取れた。とりあえず正面の通路を行けばすぐにコンクリートの階段が姿を見せる。駆け上がると、1メートル四方の蓋がされているではないか。鍵もないが、とにかく取っ手をひねってそれを押せば、それはゆっくりと持ち上がった。自分たちをさらうためにあらかじめ鍵を開けていたのかはわからないが、扉を開いて外に出る。まぶしい光に目をかばいつつ外に出れば、そこは裏山と学校との間にある整備された川べりだった。意外な場所と繋がっていたことに驚くが、確かにここは盲点だ。こんな舗装された川べりに繋がっているなど、予想もしていなかったことだ。京也はまず笹山に電話をし、場所と状況を伝えつつ救急車も複数呼ぶよう要請した。そのまま上履きのままで学校まで走ると、職員室に飛び込んでそれを知らせる。教師たちが驚きの顔をしつつ川べりに着いたときには、すでにパトカーが1台到着していた。数学準備室側の収納は開かず、川べりの通路を使ってけが人を搬送する。3台の救急車に複数のパトカー、大勢の警官の登場に周囲は騒然とし、京也は笹山に事情を説明しつつ搬送されていく健司や紀子の姿を見ていた。苺は明人に付き添う形で救急車に乗り込み、歩は京也を見つつもそこへ近づけず、そのまま英理子に付き添って救急車に乗り込んだ。京也は覆面パトカーに乗せられて二見署へと向かう。車内には刑事がいて、走りながらいろいろ聞かれたことに答えるのだった。笹山は搬送される千石の傷を見て眉をひそめた。
「どんな技を使ったのやら・・・」
つぶやき、坑道に入れば、調べることは山積みだった。千石の背後関係を洗い、さらわれた女子生徒の保護を指示する。連続失踪事件の黒幕は逮捕したものの、事件そのものが解決するにはまだ時間がかかりそうだと頭を掻く笹山はパトカーに乗り込むと自分も署に向かうのだった。
*
ベッドごと上半身を起こし、窓の向こうに見える景色を見つめていた。ついさっきまで2人の刑事による簡単な事情聴取がされていたが、答えるべきことは答えただけで自分は何もできなかったと痛感した。結局、千石は逮捕され、警察病院へと送られた。京也の技によって内臓までダメージを受けていたが、命に別状はないらしい。それに、現状で失踪した女子生徒のうち、保護されたのは水星だけだという。一時的に仮置きされる倉庫で眠っていたところを保護したが、他の生徒に関しては人身売買組織の摘発が完了しないと分からないと笹山から報告を受けていた。共謀者である悠は死に、実に後味の悪い結果になってしまった。ため息をついた明人がテレビでもつけて気分転換しようとした時、ドアがノックされた。看護師でも来るのかと返事をすれば、ドアを開けて入ってきたのは京也だった。明人は無表情のまま京也を見据え、目ですぐ脇にある椅子を指した。そんな明人に苦笑しつつ椅子に腰掛けた京也はいつもの柔らかい雰囲気を身にまとっている。
「怪我、大したことなくてホッとしたよ」
「おかげさまでな」
嫌味ではなく、それが明人だと思う。苦笑した京也から視線を外した明人は、昨日、千石を倒した京也を恐怖の目で見たことを後悔していた。あの場合、ああいう技でも使わなければ京也が殺されていたと思う。だが、どうにも恐怖を覚えてしまったのだ。人を殺す技、その凄まじさを目の当たりにして出た感情が恐怖だったのだ。苺もそうだ。苺もまた京也に対して千石を見る目と同じ恐怖で満ちた顔をしていた。あの場にいた中で、歩だけが救われたことに感謝し、素直にそれを口にした。それは物凄く簡単で単純で、それでいて難しいことだと思う。
「昨日はすまなかった」
「ん?」
「お前を、助けてくれたお前に対して怖いと思ってしまった」
明人にしては珍しく自分を見ず、それでいて苦悶の表情を浮かべていた。後悔がにじみ出ている、そんな顔だ。
「あー、仕方がないよ、あれは」
そう言って京也はにんまりと笑った。そんな京也にようやく顔を向けた明人は少し顔を伏せた。
「嫉妬もした・・・」
「嫉妬?」
「みんなを、苺を助けられたお前に、嫉妬したんだ」
「必死だっただけだよ」
「そう、必死だったな・・・お前、千石を倒せるのなら自分は死んでもいいと思っていただろう?」
その言葉に小さく微笑みを浮かべる。さすが明人、お見通しかという自嘲だ。
「そうだねぇ」
「死んでも彼女を守りたい、そう思って戦った・・・だからお前は勝って、俺は負けた」
その言葉を吐き出す明人はいつもと違って感情をあらわにしていた。後悔、嫉妬、そして安堵。全ての感情を表に出す明人に、京也はゆっくりと語りかけた。
「一枝さんと約束をしてたんだ。自分に何かあったら、その時は守って欲しいって・・・俺はそれを実行しただけだよ。たとえ死んでも守る、ただそれだけ」
「だからお前は千石に『負けない』と言ったんだな。勝つとは言わずに」
よく覚えていたなと口元に笑みが浮かぶ。そう、勝つのではなく負けない覚悟だった。たとえ刺し違えても千石を倒す、ただそれだけだった。
「俺は、強さを求めた。かつて俺を助けてくれた人が、その時の悔しさを忘れるな、そうすれば強くなれる、そう言ったからな。だから自分を鍛えた。鍛えて強くなって苺を守る、そう思っていた」
来る日も来る日も鍛え続けた。今度こそ苺を守る、その意志だけを持って。
「だが、それは歪んでいった。俺は、あの人が見せた左右同時の蹴りを使って苺を守る、そう目標を歪めて生きてきてしまった」
練習しても出来ないその技に焦りつつ、それでも鍛えてきた。そして昨日、無意識的にその技で千石に勝ち、苺を守ろうとしたのだ。それを千石は見抜いていた。
「だから俺は負けた。俺がするべきことは、お前と同じでただ千石を倒して苺を守ることだった」
悔しそうにそう言い、明人は目を閉じた。そんな明人を見つめる京也は明人の苺への想いをあらためて感じ取っていた。
「もし、明人がちゃんと自分と向き合って、しっかりと志保美さんとのことを考えるのなら、俺が教えてあげるよ、左右同時の蹴り、『亀岩砕』を」
その言葉に驚きの顔を京也に向ける。京也は小さな笑みを浮かべつつまっすぐに明人を見ていた。
「志保美さんを好きな気持ちを見つめ直して、自分がどうしたいのかを見つけられるなら、ね」
その言葉に視線を落とし、何かを考える明人。京也は微笑をそのままに、窓の方へと顔を向けた。雲が多めだが、それでも天気はいい。
「そうだな・・・俺はもう一度原点に戻る。だから、教えて欲しい」
そう言って明人は痛む体を押して頭を下げた。今まで誰に教えを乞わず、自分の力だけで強くなってきた。だが、目の前にいる京也は違う。尊敬に値する人物だ。自らの命すら投げ捨てて、たとえ好意を寄せてくれている人から嫌われようともそれを守ろうとした人。そんな京也だからこそ、頭を下げられる。
「分かった。ただし教える技は2つだけ。『幻龍脚』と『亀岩砕』だけ。あとは教えない」
「その『幻龍脚』はほとんど近いことができるがな」
そう言って小さく笑う明人を見た京也は苦笑してみせた。
「さすが!これならマスターも早そうだ」
「足技は得意だからな」
その言葉にきょとんとした京也だったが、すぐに笑顔になる。そして明人もまた満面の笑みを浮かべていた。こんな表情豊かな明人は奇跡に近いが、京也は何も言わず立ち上がった。
「まずは怪我を治すことだねぇ」
「ああ。もう行くのか?」
「うん。このあとまた警察だよ・・・今日は1日丸つぶれ」
そう言って渋い顔をする京也に苦笑した明人だったが、すぐに無表情に戻った。
「お前も、一枝の気持ちに早く応えてやれ。あの子はきっと、お前に会うために生まれてきたんだ」
明人らしからぬ言葉に驚いた顔を向ける。その明人は無表情のままだ。あの時、自分も苺もただ怯えた目をするしかなかった。ああまで凄惨な技を出した京也が怖かった。そんな中で歩だけがただ京也の無事にホッとし、助けられたことに感謝をした。そんな人物が他にいるとは思えない。
「明人からそういう台詞を聞くとは思ってもみなかったなぁ」
「そういうドラマにハマってたからな」
これもまた意外な言葉だった。そのドラマが自分が歩と見た映画の物語だと悟った京也の口元に優しい笑みが浮かぶ。
「大丈夫、答えは出たよ」
そう言って屈託なく笑う京也に、明人もまた笑顔を返した。
「じゃ」
「浅見たちには会ったのか?」
「いや・・・今日は会わないで行くよ。また明日、かな」
「来てくれてありがとう」
「うんにゃ、じゃ」
珍しく素直にそう言う明人に手を挙げて返事をし、京也はにこやかな顔をして病室を後にした。この病院には昨日坑道にいた人間全てが搬送されている。幸いにも気を失っていただけの紀子や春香は今日にも退院だが、自分も健司も1週間ほどは入院とされていた。明人にしても大部屋が空く今日にはそちらへ移動となる。おそらく健司と同部屋になるだろう。そんな健司も今日までは個室に入院していた。こちらは肩の傷は大したことはないのだが、かなり酷い状態で折られた胸骨のせいで1人でトイレにも行けない状態だった。そんな健司の病室にいるのは春香だ。神経薬のせいで意識を失っていたが、検査の結果どこにも異常はなく、夕方には退院となっていた。それは紀子も同じで、2人は軽症と診断されている。3年生の2人に関しては数回にわたって香りを嗅がされたこともあって軽い意識障害を患っているとのことで2、3日の入院と診断されている。なので元気な春香は暇を持て余して健司の病室に押しかけていたのだった。
「・・・ということらしい」
今朝、笹山から聞いた情報を春香に伝い終えた健司は麻酔が効いているおかげで少し顔色がよくなっていた。痛み止めが切れれば、肩よりも胸の痛みが頭に響くほどの重症である。だがここは病院だ、常に痛み止めの薬が点滴されていた。
「へぇ・・・千石先生にもびっくりだけどさ、木戸にもびっくりだね」
「苺ちゃん、精神的に参ってたようだしな、心配だ」
この後に及んでも苺を心配する健司を健司らしと思うが、怪我もしてない苺を気遣わず、自分を気遣って欲しいと思う春香は腕組みをして健司を睨んだ。
「私も一応被害を受けたんですけどぉ?」
「無事だったし、ずっと寝てたから怖くなかっただろうに?」
「あんたもじゃん」
「俺は頑張った結果の怪我、名誉の負傷だ」
「何が名誉だか」
そう言って目を細める春香をじとっと睨む健司。自分としても頑張った上での大怪我だ。そこまでけなされる覚えはない。
「俺が一番重症なんだからな!動けないし、1人でトイレにも行けないぐらいにな!」
その言葉に春香の目が光る。嫌な予感がする健司は自分的には自然な動きで窓の方へと顔を向けたつもりだった。だが、春香にしてみればそれは不自然なことこの上ない。
「良かったじゃぁ~ん!看護師さんにおしっこ処理してもらえるんでしょ?もう、超ラッキーじゃん!」
「よくないし・・・」
「ちんちん、暴走させちゃわないようにねぇん」
「するかバカ!」
「無理しなさんな!」
「してねーよ!」
「じゃぁ、私が試してあげようか?」
「ああいいぜ・・・・・って、マジで言ってるのか?」
慌てる健司が面白くてからかったが、冷静になればとんでもないことを口にしていると気づいた春香は顔を赤くして俯いてしまった。そんな春香を見て気まずい健司もまたバツが悪そうな顔を窓へと向けた。長い沈黙が流れる。気まずい空気をそのままに、春香が立ち上がったために健司は体をビクつかせてそっちを見た。
「私、もう行くね」
「お、おう」
「怪我、大事にね」
「ああ」
「名誉の負傷、だもんね」
「まぁな」
そう言った健司の鼻先を春香の髪がくすぐった。その直後、柔らかいものが唇にそっと触れた。ほんの少し触れた春香の唇。春香の部屋の香りと同じ匂いを間近で感じる健司は、ゆっくりと離れる春香の顔をぼんやりした目で見つめていた。
「ごほうび」
微笑んでそう言うと、春香は何事もなかったかのように病室を出て行った。残された健司がそっと自分の唇に指を当てる。間違いなく触れたのは春香の唇だった。ドキドキと高鳴る胸。ごほうびでキスをした春香の心境が分からず、ただただ戸惑うしかない健司だった。
*
「あれぇ、歩ちゃん!」
「志保美先輩!」
病院へ向かうための大きな交差点、そこで顔を合わせたのは苺と歩だった。昨日の事件の後、病院へ搬送された明人と英理子にそれぞれ付き添っていた2人だが、結局会うことはなかっただけに1日ぶりの再会となっていた。簡単な事情聴取を別々に受け、昨日は保護者が迎えに来たこともあって慌しい夜になっていたが、見た限り苺の精神状態は安定しているようだった。目の前で健司が倒され、明人も大怪我を負い、京也の技を見て失神寸前にまで追い込まれていたのを見ているだけに、歩は苺のことを心配していたのだ。
「大丈夫、なんですか?」
「うん、私はもう大丈夫。昨日はパニックになっちゃってゴメンね」
「ううん。無理ないですから。私も同じだったし」
とても同じようには見えなかった歩の言葉に苺は目をパチクリさせた。そう言って笑う歩がまぶしく見える。千石を倒し、血に濡れた手をした京也が怖かった。明人もそうだったと思う。なのに歩は違った。あの状況でお礼を言える歩は尊敬に値する。
「戸口先輩のお見舞いですか?」
「うん。健司君や春香も、紀ちゃんもいるからね」
「皆さん、元気そうだといいですね?」
「そうだね。歩ちゃんも友達のお見舞い?」
「はい」
千石が連れてきたのが歩の友達だというのは分かっている。当初、千石にプリントを運ぶのを手伝うように言われていたその友達を待っていた上に、千石が坑道に姿を見せたときに歩がその名前を呼んだことも覚えているからだ。全員が搬送された病院は学校からは数キロ離れた位置にある総合病院だ。この辺りで存在する病院では一番大きなもので、施設としてもかなり整った病院でもある。歩も苺も電車を降りて病院に向かっているところだ。既に正面のマンションの向こうに病院を示す緑の十字が見え隠れしていた。苺は歩と並んで歩きつつ、昨日のことを聞いてみたいと思っていた。そう、あの状況で京也にお礼を言った時の心境が知りたいのだ。好きだからでは済まされない、他に何か要因があると思ってのことだった。
「あのさ・・・」
「はい?」
「昨日さ・・・木戸君に、お礼、言ったでしょ?」
「はい」
どことなく言葉にしにくいのか、途切れ途切れにそう言う苺に対し、歩ははきはきとした返事をしていた。実に対照的な2人である。
「凄いなぁって、思った」
「あー、あれ、言っとかないとって思って、それで」
微笑みながらそう言う歩の心境が全く読めない。確かに言うべきことなのだろうが、あの状況でそれが出来るというのが不思議なのだ。それが知りたくて、苺はじっと歩を見つめていた。
「でも、あの状況でよく言えるなぁって、感心しちゃった」
「木戸先輩と初めて会ったとき、自転車のチェーンを直してくれたとき、私、お礼言えなかったんですよね」
2人の出会いについてはよく知っている。直接本人から話を聞いているからだ。苺は頷き、続きを待った。
「だから、今度からはすぐにその場でお礼を言おうって決めてたんですよ、だから」
「え?だからって・・・あの状況で、あの木戸君見て、言えるものなの?」
「あの木戸君って?」
「私、正直言って、怖かった。容赦なく、悪い人だけど、あんなに血を出させるほどやっちゃった木戸君が、凄く怖かった。先生から血もいっぱい出てたし、木戸君の手にも血がいっぱいついてたし・・・」
そう言いながらも苺は怯えた目をしていた。本当のことを言えば、苺は京也に会うのが怖かった。どんな顔をして会えばいいかわからないからだ。きっと自分はこれからそういう目で京也を見てしまうだろう。恩人なのに、恐怖の対象として。
「怖かったですよ?」
歩は前を向きながらそう言った。そんな歩を見つめつつ、苺は少し苦い顔をしてみせる。
「でも、木戸先輩は怖くなかった。やられちゃうんじゃないかって、それが怖かった」
「あ?え?」
怖さの対象が違うことに、変な声が出てしまった。
「木戸先輩が負けたらみんな終わりだったし、先輩が死んじゃうんじゃないかって思ったりして怖かった」
「そこ?怖かったのってそこなの?」
その言葉に苺を見た歩は笑っていた。今の言葉に嘘はない、そういう笑顔だった。
「木戸先輩もちょっと怖かったけど、それ以上に、あぁ助かったって思ってホッとした。約束守ってくれたし」
「約束?」
そう言えばそんなことを言っていたなと思い出す。印象に残っている言葉がありがとうなだけに、その辺は頭からすっぽりと抜け落ちていた。
「以前、約束したんです。私が危険な目にあったときは助けて欲しいって。冗談半分な約束でしたけど、それでも先輩はそれを守ってくれた。覚えていてくれたことにもありがとうって、そう言いたかった」
にっこり微笑む歩を見た苺は自分が恥ずかしくなった。そう、歩はただまっすぐに京也を見ていただけだ。怖くもなく、ただ約束を守るために、自分を守るために戦った姿を見て、それを成し遂げた京也に対して素直な気持ちでお礼を言っただけのことなのだ。深い意味などない。感謝をしたからそれを口にしただけのこと。
「歩ちゃん、凄いね・・・私には無理だよ」
「え?」
「昨日の木戸君が明人君だったとして、私を助けてくれた明人君に、お礼なんて言えなかった」
「言えたと思いますよ?」
俯いていた苺が顔を上げた。歩は微笑を強くして苺を見て、それから前を向いた。
「好きな人に助けてもらったら、それがどんな状況でも言えますよ」
苺を見ながら微笑み、自信に満ちた声でそう言った。歩がどれだけ京也を好きか知った瞬間だった。たとえ怖い京也を見ても、歩は京也が好きだ。心から愛している、そう思える笑顔だった。だからこそ、自分もそうなりたい、そう思う。
「本当に好きなんだね、木戸君のこと」
「はい!」
どうしてこんなに素直でいられるのだろうと思う。きっと歩は京也に対して不安も何も抱かないのだろう。純粋で真っ白な歩だからこそ、あの京也ですら受け止められるのだ。それは苺の中で忘れていた何かを思い出させてくれる返事だった。
「私も、歩ちゃんみたいに頑張る」
「ん?どういうことですか?」
「強くなるってこと!」
苺は前を向き、胸の前で2つ拳を握って気合を入れるようにしてみせた。歩はそんな苺を見て首を傾げつつ、それでも笑顔を絶やさなかった。
「今日、会うの?」
その言葉が京也と会うのかを聞いているのだと悟った歩は首を横に振った。
「夜まで事情聴取なんですって。まぁ、仕方がないですけど・・・明日は会おうってメールは来てました」
「会えるの?」
それが明日も事情聴取があるのではないかという意味だと理解する。
「さぁ?本人がそう言うんで、大丈夫だと思いますけどねぇ・・・会いたいし」
そう言って微笑む。そんな歩にいきなり抱きついた苺は、歩の頭を胸に埋めるようにしつつそれを撫で撫でしてみせた。いきなりのことに面食らいつつ赤面した歩が顔を動かすと、苺はすぐに歩を解放した。
「なんなんです?」
「もー!歩ちゃん、最高だよ!」
「・・・どうもです」
わけがわからず愛想笑いをする歩は、えへへと笑っている苺の胸に目をやった。そんな視線に気づいた苺が自分の胸に目をやる。
「ん?なに?」
「・・・胸、何カップなんですか?」
「んー?胸?Eだよ。でもFに近いけど」
「Fに近いE?いいなぁ・・・」
「歩ちゃんは?」
「Dです・・・」
「立派なもんじゃん!」
「先輩が言わないで下さい!」
唇を尖らせてそう言う歩ににへへと笑う苺。なごんだ雰囲気のまま胸の大きさの話に花が咲く。そのまま2人は病院へとやって来たのだった。




