加速 2
苺は紀子と一緒に下校していた。そんな紀子は土曜日のことを根掘り葉掘り聞いてくる苺に困りつつも、京也との関係を否定することに終始していた。確かに京也を誘ったのは紀子だ。それは変な意味があるわけではなく、ただ一緒にお鍋を食べたかったのと京也の本心が聞きたかったからだ。紀子は京也に対して友達以上の感情はないと言い続け、苺も渋々ながらそれを認める形になった。
「まったく、何度おんなじこと言わせるんだか・・・」
「でも怪しいんだよね、紀ちゃんと木戸君」
「まだ言うか!」
強めにそう言われ、苺はしゅんとしつつも不満そうな顔をしていた。紀子はそんな苺にため息をつきつつまだ赤味の差していない空を見上げた。
「私ね・・・好きな人、いるんだよ」
今までどんなにそれを聞いてもはぐらかしてきた紀子の告白に、苺は驚きながらも顔を上げた。そんな苺に顔を向けた紀子は小さく微笑んだ。
「ずっと昔に、少しだけ遊んだ人なんだけどね」
「へぇ、幼馴染とか、そういうの?」
「ううん・・・違う。その人、その時は年上だし」
その言い方に疑問が生じる。その時は年上とはどういう意味なのか。考えた苺が出した答えは誕生日がすぐ近くの同級生だということだった。つまり、誕生日が先だっただけの年上なのだと。だが、実際は違う。話しても信じてもらえないような不思議な関係がそこにある。
「私はその人にまた会えるのを待ってるの」
そう言って微笑む紀子はその人を思い出しているのか、優しい笑みを浮かべていた。いや、恋をしている顔だ。未来で出会う王子様の話、その正体がわかっただけで満足する。はにかむ顔の紀子を見た苺は頷くと、それ以上なにも言わなかった。
「だから、木戸君はただの友達。木戸君も同じだよ」
「そっか、わかった」
そう言って笑いあう2人。紀子は苺から再度空を見上げる。そこにその人の顔を思い浮かべた。会いたくて会いたくて、でもまだ会えないその人の顔を。
*
本屋に寄ったこともあって、駅で明人たちと遭遇した苺はその異様な空気に戸惑っていた。健司と明人に会話はない。喧嘩でもしているような微妙な距離感もある。電車に揺られながらも2人を交互に見る苺もまた何も言わないでいた。そんな苺がこの空気をどうにかしようとした矢先、大きなカーブで苺がよろめいた。その瞬間、倒れそうになっている苺の体に手を回してグイっと自分の方に引き寄せたのは健司だった。密着というよりは抱きしめられているような状態。柔らかい苺の体を全身で感じる健司はしばらくそのまま苺を放さなかった。苺は目をぱちくりさせながらもゆっくり離れる健司を見てありがとうと言いながら小さく微笑む。照れた様子もない苺を見ながら頷く健司だったが、その心は崩れ落ちそうな状態にあった。あんなに抱きしめたにも関わらず、苺に変化はない。それに加えて明人の顔色を伺うようにしている。まるで当て馬にされたような悲壮感が漂う中、健司はどうすれば自分という人間をアピールできるのかを考えてみるが答えは出ない。夏休みなどと言わず、今日にでも春香に相談する必要があると感じた健司がその決意を固めるのを黙って見ている明人だった。
*
自転車を押しながら校門を出た歩はそこで待っていた友達と一緒に駅へと向かった。今日もいつもの場所では京也が待っているはずだ。そうして楽しく会話をしながら歩いていると、少し離れた場所に同級生の青島錬が立っていることに気づいた。青島はクラスではイケメンな部類に入り、明るい性格もあって女子からの人気も高い男子だった。
「あれ、どうしたのさ?」
歩と同じバスケ部の飯島優奈にそう声をかけられた錬は申し訳なさそうに優奈にこの場を外してくれるように頼む。その言葉から歩と顔を見合わせた優奈は事情を察し、少し先で待ってるからと言ってその場を離れた。歩は錬のしようとしていることが何かを知りながらもそれを表情に出さず、真剣な目を自分に向けている錬を見つめた。
「一枝、俺、お前のことが好きだ。付き合って欲しい」
まっすぐな目にまっすぐな言葉。息も若干荒く、顔も紅潮しているのが夜でもわかるほどだ。だが、歩の心には何も響かない。何故よく知らない自分を好きになれるのだろうかとぼんやりと考えていた。クラスでも話はするが、2人だけで話をしたことなどない。そんな錬が自分を好きになる理由が知りたくなった。
「ありがとう。でもさ、あんまり話をしたことないよね?私のどこがいいのかわかんないけど・・・」
そう言うと、錬は一歩前に出た。思わず一歩下がる歩に対し、錬はその答えを口にした。
「可愛いし、好みのタイプだしさ」
「顔?」
その言葉にはにかみながら頷く錬に、歩はまたかとため息をついた。
「青島君とは、友達だよ。だから、ゴメン。でも、好きだと言われて嬉しかった」
その言葉は予想の範囲内だったのか、錬はうなだれるようにしながらも分かったと返事をした。
「友達でいい。でも、もし俺を好きになったら・・・その時は・・・」
それでも引き下がろうとしない錬の言葉に嫌悪感を抱いた歩はそんな錬をまっすぐに見据えた。
「私、好きな人いるから、それはないと思う」
「あの、2年生の?」
知っていたのかと思う歩だが、無表情のまま頷いた。
「でも、あいつより俺の方がお前を好きだし、それに、あいつよりイケてると思うけど・・・」
「それ以上言わないほうがいいよ。本気で青島のことを嫌いになっちゃいそうだから」
睨むようにそう言われた錬は顔を青ざめさせて体を震わせた。
「私が勝手に好きなの。それに外見なんかどうでもいい。でも、外見も含めてその人のことを全部好きだけど」
そこまで言われれば、もう自分の入り込む余地などなかった。どうしてあんな冴えない男のことをこうまで好きでいられるのか不思議でならない。俯き、歯を食いしばるようにして立っている青島にさよならと告げ、歩は優奈が待っている場所まで走った。今、無性に京也に会いたい、そう思いながら。
*
今日もバイクを駐輪場に止め、自動販売機でジュースを買おうとした健司は向こうからやってくる見慣れた顔を見て渋い顔をしてみせた。
「ありゃ?健司、何してんの?」
「あー、まぁ、なんつーか、ドライブ?」
「ほぉ」
ニヤけ面でそう言う京也の言葉を聞いている健司の顔色を伺うようにしてみれば、明らかに動揺した顔をしている。これは何かあるなと思っていると、健司は缶ジュースを買って蓋を開けるとそれを一気に飲み干した。その動作が既に怪しさを証明しているようなものだ。そんな京也の視線を受けながらも愛想笑いをし、健司もまた京也が何故ここにいるかを聞いてみると、京也はあっさりと歩の部活が終わるのを待っていると答えた。これにはさすがの健司も困ってしまう。正直に春香を送っていくためと言えばいいが、それを言うと後で何を言われるか分かったものではない。明人あたりに冷やかされそうな気もするし、何より苺に変な誤解をされたくもない。困り果てた健司が言い訳を考えていると、京也が駅の方へと頭を巡らせた。これ幸いと言い訳を考える健司の耳に、絶望的な声が飛び込んできた。
「あれー、木戸じゃん」
聞きなれたその声の主、春香の登場だった。あわてて時計を見るがいつもよりもかなり早い。今日に限って何故だと思いながら春香に手を挙げつつ、じろっと自分を見る京也に愛想笑いをしてみせた。
「もう部活終わったんだ」
「うん。事件のせいで早め早めでウザイったらありゃしない」
苦笑気味にそう言うと、健司を見やった。その健司はまだ一言も言葉を発していない。
「どうしたの?行こうよ」
「あ、ああ、そうだな」
どこかしどろもどろになる健司に小首を傾げた春香はいそいそとヘルメットを取り出す様子を見ていた。
「いつも健司に?」
その京也の言葉を聞いた健司が神に祈るが、普段の行いのせいか、女神が微笑むことはなかった。
「そう。毎日ありがたいことです」
「そうなんだぁ。やるねぇ、この色男」
「うっせえ」
そう言うと春香にヘルメットを差し出した。いつもにはないぶっきらぼうなその動作にさすがの春香もピーンと来る。こういう場面を京也や他のメンバーに見られたくなかったのだ。そう思うとこの毎日の行動は知られたくないことなのかと思え、春香としては少し悲しくなってしまった。自分はバレても構わない。冷やかされようが、それが健司の優しさだと堂々と言える、そう思ってきた。けれど健司は違うらしい。
「ま、男は黙って行動、だもんねぇ」
微笑む京也の言葉に健司は怒ったような困ったような顔をしつつそっぽを向いた。それを見た春香はこの健司の反応がただの照れ隠しだと分かり、心のどこかでホッとしている自分に気づく。
「木戸はここで歩ちゃん待ち?」
春香の言葉に頷くと、京也は何かと物騒だからねと返事をした。確かに彼女はキューティ3の1人、狙われる可能性は常にある。
「さすが、返事は保留してるけどやることはやるじゃん!」
「それ褒めてんの?」
「最大の賞賛だけど?」
そう言って笑いあう2人を見つつ、健司はバイクを出すとシートにまたがった。春香もまたヘルメットをかぶると後部シートにちょこんと乗る。乗りなれているせいか、スカートがめくれないようにしつつ自然な動きで健司の腰に手を回した。
「じゃぁな」
「また明日ね!」
「うん、気をつけて」
手を振る京也に手を振り返す春香、片手を挙げる健司。バイクは徐々に加速して、すぐに見えなくなった。微笑ましい2人を見て、案外お似合いのカップルになりそうだと思う京也がいつもの場所に移動すべく振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた歩の姿があったために京也は思わず奇声を発していた。
「どぉわっ!って一枝さん!びっくりしたよぉ」
「驚きすぎですけど・・・」
「あはは~、いや、あまりに意外な展開だったから」
頭を掻きつつそう言う京也に微笑む歩はそこに疲れた翳を浮かべていた。歩にしてみれば、それは表に出していないつもりだった。さっきの錬のことがあるため、それが顔に出ていたのだろう。
「疲れてるね?」
「え?あ、今日は久々にハードだったから」
「そっか、じゃぁペースダウンで行こう」
「はい」
こういう気配りが出来る京也が好きだった。自分の異変に気づき、ちゃんとフォローをしてくれる優しさ。決して自分を顔だけで判断しない人。歩はこのとき、京也にぎゅっと力強く抱きしめられたかった。壊れるほど強く抱きしめられ、元気を送って欲しかった。けれど2人はそういう関係ではない。だからといってそれを強要することも、返事を督促することもしない。待つと決めた以上、ただ待つだけなのだ。いつもよりかなりゆっくりしたペースで自転車は進む。会話もない2人だけの時間、それだけで、歩は幸せを感じられた。
*
今日も無事に春香の家の前にたどり着く。春香はぴょんと飛び降りるとヘルメットを取って健司に手渡した。いつものことながらヘルメットからはいい香りがしている。ショートカットの春香だが、こういうところは女の子なのだと改めて認識できる部分だった。
「今日もありがとう」
「いや」
「木戸にバレたけど、いいじゃん」
まるでフォローをするかのような言葉に健司はバツの悪そうな顔をしてみせた。そんな健司を見て小さく微笑んだ春香はじっと自分を見つめる健司の視線のせいか、だんだんと胸がドキドキしていくのを感じていた。
「な、なにさ、見つめちゃって・・・」
思わずそう言い、視線を逸らす。顔が赤くならないように意識しながら、春香は胸のドキドキがバレないかを心配していた。
「あのさ、俺、苺ちゃんに告白しようと思ってる」
「え?」
予想もしていなかったその言葉に、春香は胸に痛みを感じた。まだ苺の心は健司には向いていない。それどころか明人しか見ていない状況だ。その状況で告白などすれば玉砕は目に見えている。
「で、でもさすがにまだ・・・」
「そうでもしないと、苺ちゃんは俺を男として見てくれない」
確かにそうかもしれない。告白をしたことで苺は健司を意識するだろう。だが、逆にそれが明人への告白を促す危険性も孕んでいる。
「そうかもしんないけどさ、でも・・・」
「反対か?」
「反対ってか、振られるよ、間違いなく」
「分かってる。京也と同じで返事は後でいいと言えば、少しは気にしてもらえるかなって」
「・・・かも、ね」
そう言って黙り込んだ春香は、胸の痛みと戦いつつ精一杯の笑顔を見せた。
「うん!そうしな。大逆転があるかもしれないしね」
「ああ。そうする。お前にそう言ってもらえると勇気が出るわ」
「なら、なんか奢れ」
「まぁ、また今度な」
そう言って笑う健司はシートに座り直す。そんな健司の後ろ姿を見る春香は涙が出そうな自分に戸惑いつつもそれをグッと我慢した。
「じゃ、今日もありがと、おやすみ」
「ああ、また明日な!」
そう言うと健司は手を振り、バイクを発進させた。その後ろ姿はすぐに消え、残された春香の頬を涙が伝う。今になってはっきり自覚してしまった。自分は健司が好きなのだと。どうしてそうなったとかはどうでもいい。ただ、健司の目には苺しか見えていない。それを理解しているにも関わらず、溢れる涙を堪えることが出来ずに大泣きをしてしまった。これならまだ明人を好きなままの方がよかった。そう思うが、苺に振られた健司が自分を好きになる可能性があると自分に言い聞かせた。けれど、涙は止まらずにしばらくそのまま立ち尽くすしかない春香だった。
*
3人が失踪し、捜査も進めているが進展はなかった。毎日教師による見回りや、周辺の巡回強化も行われているが、それでも犯人に繋がる情報も手掛かりもなかった。そして今日は5月15日、苺の誕生日だ。木曜日とあって昼休みには春香からのプレゼントや、京也や健司からもお菓子のプレゼントが送られてご満悦の苺。健司にしてみれば何かアクセサリーでもと思ったが、それは苺には重すぎるのではないかと判断してお菓子にしていた。そしてその放課後、帰り支度をしている苺に近づいた健司は昨日から何度もシュミレーションをした言葉を噛まないようにしながら口に出した。
「あのさ、土曜日、空いてる?」
「うん。用事ないけど?」
「あのさ、その・・・買い物に付き合って欲しいなぁって」
普段どおり違和感なく言えたことに心でガッツポーズをする。その様子を見ていた春香だったが、この場にいるのが辛くなってそそくさと教室を後にした。京也はさっさと屋上へと向かったために教室にはおらず、明人は廊下の掃除当番でこれまた教室にはいない状態だった。だからこそのここでデートの誘いだ。
「いいよ。じゃぁ授業が終わったら一旦帰って、お昼食べて行く?」
「だね、迎えに行くから」
「了解!」
そう言って笑顔で敬礼する苺に敬礼を返した健司は天にも昇る気分だった。そのままスキップしそうな勢いで教室を出ようとしたところで明人に呼び止められた。とろけそうな笑顔をそのままにそっちを向けば、そこにいたのは明人と新城だった。そのために表情を引き締めた健司はそこに近づく。
「いろいろわかったことがあるんだ。今日、このあと、視聴覚室に来てほしい」
新城の言葉に明人を見つつ頷いた。新城もまた頷くとそのまま廊下を歩いていった。明人と健司は目で合図しつつ別れる。そのまま健司は屋上へと向かった。京也にも声をかけるためだ。3階からの細い階段を上がれば重い扉がある。音を立ててそれを開けば、振り向いてこちらを見ているのは紀子だけだった。屋上に出つつきょろきょろした健司はそのまま紀子に近づいていった。
「木戸、来てない?」
「うん、今日はまだ来てないよ」
「そっか」
そう言うと健司は紀子に手を振って屋上から出た。確かにさっき屋上へ向かったはずなのにとスマホを取り出せば、階段の下に姿を現した京也を見てあわててそこへと近づいた。
「ありゃ?」
「ありゃじゃねーよ!何してた?」
「トイレ・・・だけど?」
「視聴覚室に行くぞ、新城先生から話がある」
その言葉を聞いた京也の顔つきが変わった。1つ頷くとそのまま視聴覚室に向かう。ここは掃除の範囲外なので人がいる心配はない。周囲を見渡してドアに手をかけると、軽やかにすーっと開く。そのままさっと中に入れば、既に新城が机の上に資料らしきものを広げていた。
「お、早いね」
「戸口が来るまで待ちますけど」
「そうだな」
健司の言葉に頷いた新城がカーテンを閉めるとスライドの準備をしていく。最近はパソコンからプロジェクターを使用して白い壁に映すのだが、資料が古いせいか旧型のスライドを使うようだ。そうして準備が整った頃、明人が苺を伴って教室にやってきた。女子生徒が混ざっていることに戸惑った顔をした新城だったが、苺も仲間だと説明されて納得し、鍵をしめた。
「まず、机の上にある資料だ」
大きな紙は地図のようで、他に改造途中の図面らしきものもあった。ここから新城は笹山が明人にしたものとほぼ同じ説明をしていった。坑道への避難ルートを考えての科目棟建設、既に避難ありきで工事が進んでいたこと、そして坑道の強度を検査した結果を受けての変更。床収納のすぐ下は階段になっていること。だが、ここからは笹山の調査になかったことが明らかとなった。新城は照明を消して部屋を暗くしてからスライドをつける。壁に映し出されたそこにある写真、それは避難ルートになっていた坑道の中の写真だった。全員が身を乗り出すようにしてそれを食い入るように見つめる。かなりの広さの空間がそこにあり、3つの階段がコンクリートで作られている。笹山が言った、後に埋めた箇所となる大きな通路のようなものまで映っていた。その奥がどうなっているかは分からないが、扉のようなものがぼんやりと映りこんでいた。
「ここは後に埋めたらしいけど、ボイラー室に繋げるパイプだけは残したそうだ」
そう言って写真に近づいた新城が指をさした通路の天井部分に緑のパイプらしきものが存在していた。つまりパイプはそのままに埋めた結果、風がここを通る際に数学準備室に音が漏れていたのだろう。通路部分に壁を作り、完全に遮断したのだろうと新城は説明を加えた。
「ここの通路は裏山とは反対側に位置する団地のほうに繋がってるらしい。もちろん、いくつも枝分かれして裏山にもね」
「団地か・・・」
「団地側を調べたけど、図面にある場所は完全に埋められていた。他にどこかに繋がっているかもしれないけどね」
そしてここからは新城が仮定の話だがと前置きをして説明を始めた。この間の地震で埋めた壁が崩れ、通路と空間を通じて階段が繋がる。そこで犯人が床収納の鍵を何らかの方法で手に入れ、通路を使って女子生徒を運び出す。そうすれば神隠しは可能なのだ。
「ただ、収納の鍵はなくなっている。管理がずさんな市の実態を責めても仕方がないけど、犯人が盗んだ可能性もあるしね」
その説明に明人は頷く。新城と同じ意見ということもあって異論はなかった。これで1つの道が出来上がった。床のからくりを知った千石が何らかの方法で鍵を手に入れ、収納を開放して通路を発見する。そして悠を使って女子生徒を暗示にかけて地下へと運び、そこから坑道を利用して地上へと運び出す。地下にあれだけの広さがあれば3人同時をさらうことは可能だ。
「この資料は警察にも提出するよ」
そう言った新城は電気を点けると資料をまとめた。明人は机に肘をついて何かを考えるようにしつつ、これからどう動くかを思案した。悠を揺さぶり、千石を動かすべきか。だが、京也の言う暗殺術を使うのが千石であれば、対決は避けられない。負ける気などしないが、用心にこしたことはない。そうなると苺たちを安全な場所へ移動させてから行動する必要がでてくる。悩む明人を見る京也はため息をつくと一点を見つめるようにしてみせた。
「木戸君、ってさ・・・親戚に木戸周人とかいないよね?」
その言葉に顔を上げる京也の顔は動揺も何もなかった。明人も健司も苺も京也を見るが、京也は黙って首を横に振った。ここで出た意外な人物の名に焦るのは苺だが、明人はそれに気づいていなかった。
「ごめんごめん。大学時代にしてたバイトの同僚にその人がいたもんでね、忘れてくれ」
「シュート?なんとも球技な名前ですね」
健司の言葉に苦笑した新城はそうだねとだけ口にした。もうあれから随分と時が経ったと思う。既に周人も自分も結婚している。彼には子供が2人いて、自分はもうすぐ父親になる。周人の奥さんもよく知る新城は口元に笑みを浮かべたまま全員に視聴覚室を出るよう言い、鍵を閉めた。京也はまたも因縁じみた関係に戸惑いつつ、それを表情に出さないように気をつけた。とりあえず貴重な情報を得たことは大きな前進だ。あとはどう動くか。それを考えつつ学校を後にした明人たちは京也がバイトということもあって珍しく寄り道をせずにまっすぐ家に帰ったのだった。




