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いちごいちえ  作者: 夏みかん
第2章
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小さな約束 5

2人が坑道に入って既に1時間以上が経過していた。待っている3人はお菓子も食べ終え、テレビや漫画、ドラマの話をしつつ2人を待っていた。だが、そろそろ話題もなくなってくる。かといって沈黙は怖い春香は京也をネタにしようと思いついた。こいつに関してはネタは豊富だ、そう思い、まずは歩のことを突っ込んだ。


「木戸さぁ、一枝さんとどうするの?」

「どうって?」

「付き合うの?」

「追記会うも何も、告白されてないけどねぇ」

「されたらするのって聞いてんの!」

「んんー、とりあえず付き合わないで友達関係から開始になるなぁ」

「バカじゃないの?あーんな可愛い子に好かれるなんて、人生で一度きりだよ?キープしとくってか、付き合って放さないようにしないとさぁ」

「えらい言われようだけど・・・・」


苦笑する京也につられて苺も苦笑した。


「でも、歩ちゃん、いい子だよね」

「でしょう?だから放すなって言ってんの!」

「でも・・・・・・・・」


そこで黙る京也に何かを言おうとした矢先、京也に押し倒される形で春香が丸太から転げ落ちた。文句を言おうとしたとき、そこに京也の姿はない。同じように苺を押し倒す形で丸太の下に突っ伏していた。


「誰かが来た」


そのまま伏せているようにゼスチャーし、急いでライトを消す。しんと静まり返った夜の山に足音も何もなかった。誤魔化しでするには大げさすぎるが、京也から伝わる緊張感はかなりのものだ。息を殺して伏せた春香がそっと顔を覗かせると、すぐ向こうの木の陰から黒ずくめの人物が飛び出してきて、そのまま音もなく小走りでこっちに向かってきた。緊張から声も出ない春香に伸びる腕。それを払いのけたのは京也だった。


「走って!」


その言葉に過敏に反応した春香が坑道へと走る。だが出遅れた苺は左腕を黒ずくめの人物に掴まれてしまった。月明かりの下、つま先から頭のてっぺんまで全身を黒のウェットスーツのようなもので身を包み、目の部分には暗視ゴーグルまでつけている人物が露になる。こいつが神隠しの犯人だと直感した京也が苺を救おうと落ちていた木を拾って殴りにかかった。だが黒ずくめの人物は素早く右腕を振ってみせた。その瞬間、まるで刃物で切ったかのように木が真ん中辺りで2つに分かれる。相手の手に刃物はない、なのにこの切れ味。手刀で切ったとしか思えないが、それにしては鋭すぎる。驚く京也が棒を捨ててどうするかを考える。とりあえず春香は逃げたが苺はまだここにいる。さっきの攻撃で苺を掴んでいた相手の手は離れているが、あの攻撃がある以上うかつには近づけない。そう考えた矢先、黒の人物が間合いをつめ、京也の目を狙って右の人差し指を突き出した。闇夜に黒の服、そして尋常ではない速度で突き出される指。回避は不能なその指が京也の目の前で止まった。いや、正確には京也が少し折り曲げた左手の人差し指と中指でその相手の指を挟んでいたのだ。驚くべき握力のせいか、明らかに動揺している相手が小さく驚きの声を上げた。


「挟刃!?」


その言葉に京也も驚き、力が抜ける。それを感じた黒の人物が指を引いて間合いを取った。


「お前・・・なんでそれを・・・・」


動揺する京也がそう言いかけた瞬間、坑道から飛び出した明人が黒の人物に詰め寄った。身構える黒の人物へ飛びながら回し蹴りを放つ。大きく身をよじってかわす黒の人物に今度は右の上段蹴りを放つべくこめかみを狙った。とっさにガードをする黒の人物だったが、突然その蹴りが軌道を変えて下腹部へと下降する。舌打ちした黒の人物が大きく後ろへ跳び退くと、そのまま森の中へと走り去っていった。少し息を切らせる明人が苺を抱き起こす。震えていた苺はホッとしたのか、明人の胸に顔を埋めて泣き出してしまった。やがて坑道から健司と春香も顔を出し、5人がまとまって丸太の前に揃う。泣きじゃくる苺の頭を優しく撫でる明人に嫉妬しつつ、健司は苺の無事にとりあえずホッとした。苺が落ち着くのを待って、5人はやや足早に裏山を降りていく。


「あれは犯人だな」

「だね。でも助かった」

「いや、タイミングが良かった」


それ以上何も言わない明人に、京也はホッとしていた。どうやら明人は相手の目つきを受け止めた自分を見ていないようだ。だが苺はそれを見ていたせいか、明人にくっつきながらもチラチラと京也を見ていた。それをあえて無視した京也はあの人物が発した言葉に動揺を隠せなかった。何故あの人物はあの技の名を知っていたのか。京也があの目つき攻撃を受け止めた技、『挟刃』。初めて見た者が知りえない、その名を知っていたという事実。だが、京也もまたあの相手の技を知っている。あれは大陸を発祥の地とした暗殺術。かつて伯父から聞いたことのある技だ。


「血の因縁かな」


小さくつぶやく声に気づくものはいない。少し雲に隠れる月を見上げつつ、小さなため息をつくのだった。



駅まで戻ってきた5人は小さなファミレスに入った。週末ということもあって、夜10時前だが若者でにぎわっている。とりあえず飲み物をオーダーし、明人と健司がゆっくりと報告を始めた。奥にあった広めの空間に謎の台、そして封印された壁にパイプ。さらには校内と繋がっているであろう扉のこと。さらに襲撃してきた犯人らしき黒ずくめの人物。


「あいつが犯人だとして、狙いはなんだ?」

「狙っていたのは今井さんと志保美さんだった気がする。反撃したから俺に目標を変えたようだけど」

「やっぱ女狙いか」


呆れた口調の健司に苦笑を返す京也。


「とりあえず扉がどこに繋がっているかを調べる必要がある」

「犯人があの扉を使う可能性はもう低いだろうなぁ」

「だといいが」


明人の言葉に全員が疑問の表情を浮かべた。あそこにいた時点であの扉のことは犯人に知られたと思っていい。ならば同じことをして足がつくのをさけるだろうと思うのが常識だ。それに、あそこに現れたことからして坑道側で何かをしようとしていた可能性が高い。証拠の隠蔽、扉の封印、いろいろな可能性が浮かぶ。


「ずっとマークしているならともかく、出入りが自由な限り再犯もありうる。現に俺たちを襲撃してきたってことは、口封じもあるだろう」


納得のいく言葉だった。京也は腕組みをしてあの人物のことを思い浮かべる。聞いたことのある声だったように思えるが、動揺していたせいもあって気のせいということもある。何より暗殺術を使い、自分の使った技も知っていたうえに、それに対して動揺していた。さらには明人のあの変則的な蹴りをかわした技術。上段の蹴りを瞬時に下段蹴りに変化させた明人に技術ははっきりいって高い。それを受け止めることなく瞬時によけた相手もまた只者ではない。そんな風に考えている京也を上目遣いで見つつ、ジュースを飲む苺はさっき見たことを明人には話さなかった。相手の言葉もはっきりと覚えている。突き出した指を受け止めた京也に対して『きょうじん』と、確かにそう言った。そしてそれを聞いた京也の動揺もはっきりと覚えている。何故か他の誰にも言ってはいけない気がして、今も黙っていることが正しいと思っていた。今度京也にだけ話をしてみようと思う苺だが、いつもと違う京也を見たせいか京也という人間に興味が沸きつつあった。


「でも凄いね、明人。あの変化する蹴り、驚いた」


京也の言葉に明人は目だけを向けた。


「あの程度はずっと練習してきた。目指しているのはあんな技じゃない」


吐き捨てるようにそう言い、明人はジュースのおかわりをすべく席を立った。かなりの上級者でないと出来ないあの変化する蹴り、それすら超える明人の目指す蹴りが気になるが深入りはしなかった。


「月曜日、校内探索だなぁ」


ストローをくわえてそう言う健司に全員が頷いた。


「事件の解決には至らないけど、まぁ前進だね」


春香の言葉に頷く苺。そんな苺を見ながら席に戻ってきた明人はまだこれがほんの始まりのような気がしていた。漠然と、そう感じていた。



ファミレスを出た5人は京也の家に向かった。全員が泊まると言って出てきた相手はまちまちだ。明人は健司、健司は明人、苺は春香で春香は苺。なのに向かった先は京也の家。


「親同士で確認されたらアウトじゃん」

「誤魔化しはきく」

「だね、全員一緒にいるんだからさ」


明人の言葉に賛同する春香に、京也はもう何かを言う気力を失った。コンビニでおにぎりやジュース、お菓子を買い込み、京也の家に到着した。歩へはファミレスで結果を報告しているのでとりあえず安心だ。とにかくこれで落ち着くはずだった。


「木戸、お風呂沸いた?」

「春香、一緒に入ろう!」


人の家のお風呂に平然と入る春香と苺。それを覗きたい健司とそれを眼力で制する明人。大勢の客のせいでてんやわんやの京也。布団も足りず、困ってしまう。


「こたつ布団もあるじゃん、俺と明人はそれでいい」

「ならもう一つの布団で女子を寝かせるかぁ」


が、スペースも乏しく、男子3人が狭い場所に布団を並べ、畳の部屋に女子の布団を用意した。結局明人と健司も風呂に入り、全員が布団の上に座ってお菓子を食べ始めたのは夜中の1時を回っていた。明日は10時に待ち合わせをしている京也にしてみればさっさと寝たいところだ。だが、今の状況でそれを言い出せばみんなの好奇心に火をつけてしまう。悩む京也が無口になる中、そんな京也の様子に気づいた明人が口を開いた。


「眠いのか?」


ここで眠いといえば就寝になるのではないかと考えた京也があくびをしながら頷く。だが、これは完全に逆効果だった。


「明日のために、早く寝たほうがいいな」

「あ、そっか!デートだデート!」

「おおぅ!記念すべき初デート!」

「いいなぁ」


明人の何気ない一言をきっかけに盛り上がる3人。目はらんらんとし、寝る気配など微塵もない。最悪の状況に助け舟をと明人を見れば、こちらも無表情に見えて口元が緩んでいた。またも四面楚歌状態に泣きたくなってくる。


「二見が浜はいいよぉ、アミューズメントやらタワーやらあるし。浜辺も綺麗だし」

「だよねぇ、今度行こうよ、明人君」


その何気ない苺の言葉に健司の嫉妬の炎が業火となって燃え盛る。


「俺が連れてってあげようか?」

「ほんとぉ?行こうよ!」

「ゴールデンウィークにでも行こう」


勝ち誇った目をして明人を見るが、いつも明人がそこにいるだけだ。


「どうせならみんなで行こうよ」

「そうだね!行こう!」


春香の横槍に思わず舌打ちをする健司に、小さく微笑む明人。そんな構図をみながら明人と健司の間で何かがあったなと思う京也は思わぬところで話題が逸れてホッとしていた。が、そんな表情を明人に見せたのが失敗だった。


「まずは京也が一枝さんといい感じにならないとな」


話題を戻した明人を睨むが、明人は無表情でオレンジジュースを飲んでいる。


「そうだぞ!あんな可愛い子・・・羨ましい」

「浅見さんにも手を出しているし・・・ボサボサ頭に眼鏡のくせに生意気だよ」

「でも修羅場も期待できるな」


勝手に話を始めた健司と春香の三文芝居が例によって開始される。


「木戸君、どういうこと?私を好きって言ったじゃない!」

「言ってないよ」

「先輩・・・嘘つき!」

「違うって、誤解だよ!」

「じゃぁ、私にキスできますよね?付き合ってるんだし」

「あ、歩ちゃん・・・・・」

「へぇ、私の前でキスできるんだ?」

「浅見、違うって!」

「何が違うの!」

「オーマイガーッ!」

「みたいな?」

「・・・・・・満足したかい?」


脱力しきりの京也の言葉に、心底満足した様子の2人は一仕事終えた一杯を美味しそうに飲んでいた。もうどうしようもない状況に京也もコーラを飲んだ。


「友達からでもいいからさ、大事にしてあげてね、あの子の想いをさ」


優しい口調の中に真剣さを盛り込んだ春香の言葉に、京也もまた真面目な顔をして頷いた。


「なんだ、付き合わないのか?」

「あー、うん。俺って自分から好きにならないとダメなタイプなもんで」

「それで友達から、か?」


明人の言葉に頷く。


「時間が掛かるなら、そう伝えておけよ?」

「そうだね、そうするよ」


笑顔でそう返すが、心は違っていた。そんな京也の気持ちなど知らず、明人の号令で寝る準備が始まった。といっても雑談が混ざるので結局電気が消えたのは午前2時半ごろだったが。翌日は8時には全員が起き、着替えて顔を洗うと4人はそそくさと帰っていった。いつになく静かに帰った4人に違和感を覚えつつもまずは準備をする。朝食を取って顔を洗い、以前に春香の見立てて買った服を着て自転車にまたがると駅へと向かった。いつもの登校時の待ち合わせ場所でなく駅を選んだのは歩で、そのほうがデートらしいからという理由だった。10分前には着いた京也だったが、既に歩はそこにいた。今日は暖かいというより暑いせいか、薄いピンクのTシャツの上からチェック柄のシャツを着込み、ジーンズのミニスカート姿をしていた。


「おはようございます。こういうデートって初めてで、どういう服を着ていいかわからなくて・・・」

「おはよう。十分可愛いよ」


いつもの笑顔を見せつつ服を褒める京也に、歩は照れたような笑みを浮かべていた。


「んじゃ行こうか?」

「はいっ!」


ここから二見が浜までは電車で5つ向こうだ。2人は昨日のことなどを話しながら電車に乗り、会話も弾んだせいか乗車時間が短く感じられる。二見が浜の駅を降り、すぐ目の前に広がるカーブを描く形で建っているショッピングモールに圧倒された。まだ出来て1年程度なのでお洒落で綺麗だ。その建物の向こうには二見タワーも見えていた。京也が歩き出そうとした矢先、歩が右の方を向いて固まっているのを見た京也が歩越しにそちらを見た。歩の左側にいるために覗き込む形になったが、そこにいた人物を見て京也も固まってしまう。


「あれって・・・・・」

「健司と今井さんだな・・・・」

「それに・・・・」

「志保美さんと、明人?」


わざと京也たちを見ないようにして歩いている姿がかなり不自然だ。2組は離れるようにして別々の入り口へと向かい、ショッピングモールへ消えていった。


「最悪だ・・・」


京也のつぶやきに苦笑しつつ、歩は勇気を出して京也の手を掴むと、負けじとショッピングモールのほうへと歩き出すのだった。

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