電脳世界で青春を part5
5月5日振りの更新です。感覚が空いてしまい、申し訳ない!!
ソングにちょっかいを出したプレイヤー・カートスのことは、クラス長であるレイに任せて「午後には落ちる」と言っていたソングと一緒にコウはログアウトした。
日曜日はまるまる休むことに専念したので『スチューデンツ・オンライン』にはログインをしなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
西暦2034年 10月23日。
2日間の休みは実にあっという間で、今日からまた5日間は仕事に明け暮れなくてはならない。
「会社に行ったら、あれをしなきゃ……これをしなきゃ」と考えれば考えるほど、不思議とお腹が痛くなってくるような気がした。
秋の少し肌寒い空気を感じながら、家から1番近い駅へと歩き始める。
孝太の通勤方法は車移動ではなく、電車に乗って、会社から最寄りの駅で降りて歩いていく、という方法だ。
別に特別「車通勤禁止」のルールがあるわけでもないのだが、車で行こうとすれば混雑でなかなか進めない状況にハマってしまう可能性が十分にある。
かえって遅刻してしまうリスクを考えれば、電車で移動した方が確実なのだ。
都会ほどではないが、それなりにこの時間も混み合っている。
案外、電車通勤をする人も多いようだ。
あるいは、彼らの会社では「車通勤」がご法度になっているかもしれないが……。
座席は既にいっぱい。いつも通り、立って窓の外をぼうっと眺めながら通勤するのだが、孝太は変な違和感を感じた。
「…………?」
それは出入り口側の方からする。
よく目を凝らしてみると、そこには扉の方向へ押し付けられているかのようにべったりと身体ごと張り付いた女性と、明らかに故意で女性を押し付けているようにしか見えない太めの男がいた。
(まさかな……)
孝太は、その男が女性に対して嫌がらせ、もしくは痴漢を働いているのではないかと疑った。
性格的に確証を持つまで動かない性格なのだが、予感が「助けろ」と告げている。
(仕方ない……行くか)
混み合う人々の間を、長年で培ってきた体術ですり抜けていき、男の手に肩を置いた。
「失礼ですが、そちらの女性が苦しそうだ。出来れば、もう少しゆとりを作って差し上げたら良いかと思いますが?」
「…………っ!!」
(マジか。まさか案の定だったとはな……)
孝太の予感は的中していた。
体格が太めでどこか嫌な体臭を漂わせるその男は、女性が扉側を向いているのをいいことに、混雑中での致し方がない接触を利用して、自らの股間を女性の尻に押し当てていたのだ。
見抜かれるとは思っていなかったのだろう。男は動揺して、咄嗟に思いついたような言い訳を言ってきた。
「こっ、これは、ただ混雑な状況だから、たまたま当たっただけで……!」
「それにしては、動きがかなり怪しいものでしたが。……仮にあなたの言う通りだったとしても、そちらの女性が不快に思われないよう、最善を尽くすべきです」
「くっ……!」
「あまりこんなことを言いたくはありませんが、俺から見ればあなたの行動は痴漢に相当するかと。……もっとも、訴えるのは俺ではなくて彼女ですが」
「だっ、だから、これは仕方のないことだと……!」
「それを聞くのは俺ではなく、警察の仕事です」
「くそっ!」
タイミング悪く、丁度次の駅へ着いたところで扉が開き、男は女性を押し退けて走り去っていった。
「待っ……!!」
孝太は男を捕まえようとしたが、この駅で降りる人は割と多く、波に流されかけてしまい、男を捕まえることが出来なかった。
そして何より、犯人の男を追いかけるよりも、押し退けられて転けた女性に手を差し伸べるのが紳士として優先すべきことだと感じたからだ。
「大丈夫ですか? お怪我は?」
「え、ええ……。大丈夫です……!」
女性に手を差し伸べて立たせると、孝太は女性を見て不謹慎にもこう思ってしまった。
(こ、これはまあ、被害を受けやすいかもしれないな……)
無理もないだろう。
身長は高過ぎず、低過ぎずで男性としては理想的だし、出ているところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
特に胸部はかなりの破壊力で、たわわに実った2つの果実は、希少価値とも呼べるほどの大きさだった。
つい無意識に視線と意識がそちらへ向いたが、一瞬でどうにか適切な方向へと向けた。
「……駅員に報告した方が良いと思いますが、どうしますか?」
正直、ここで立ち止まれば遅刻が決定してしまうので出来れば避けたいが、状況が状況なので見捨てるわけにはいかない。
(まあ、事情を説明すればわかってもらえるだろう……)
どういう言葉で説明しようか悩んでいると、女性は意外な返答をした。
「いえ、私も先を急いでいますので……」
「もしアレなら俺が証人になりますが……?」
「大丈夫、です。それよりも早く車内に戻りましょう……!」
「え。ああ、はい」
2人が再び車内へ入っていくと、まるで乗るのを待っていたかのようにすぐ扉が閉まって発進した。
乗り込んだ人は少なくないようだが、今さっきに比べれば、まだゆとりがある。
だが、席には余裕がないので無闇に移動することはせずに、そのまま入り口付近で立つことにした。
乗降りの邪魔にならない位置で。
せめて警察に連絡すべきではないか、と言いたいところなのだが、何故か気まずい空気が流れて言葉を発せられない。
女性の方も何かを言いたげにモジモジしているが、なかなか口を開くような気配がしない。
ならばこちらから、と言葉を発しかけた瞬間、女性の方も同じ考えに至ったのか、発しかけた声が重なってしまった。
「え……」
「あ……」
孝太がどうすれるべきかと混乱していたら、女性の方が「ど……どうぞ」と先を譲ってくれた。
時間は有限だ。変に遠慮せず、言葉に甘えた。
「ど、どうも。えっと、一応は警察に相談した方が……というか、されるのをお勧めします」
この提案に対し、女性の反応は微妙だった。
まるで「何か言いにくい事情がある」と言いたげな顔だったが、孝太はあえて触れずに次の話題に変えた。
「……俺の言いたいことはとりあえず、それくらいですが。あなたの方は?」
「あ……えっと、助けてくださりありがとうございました……」
正面に立つ女性の赤い顔を見て、孝太も少し恥ずかしくなる。
やがて直視することが出来なくなり、窓の外へと顔を向けた。
その後、何も話すことが出来ずに気まずい時間が無駄に長く流れ、ようやく会社から最寄りの駅へ到着し、そこで別れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
会社では、同性の社員が多い故かゲームの話題は実に出やすい。
だが、独身ならともかく妻子持ちの立場でブレイン・ウォーカーを手にすることは経済的にかなり難しいと言われている。
ましてや、スチューデンツ・オンラインのような出会いがあること前提のゲームは色々とまずい、という見方もある。
一方、孝太の所属する部署では少し違った考えを持つ者もいる。
それは昼食の席。食堂で先輩方と食べている時、食堂に設置されているテレビが丁度、スチューデンツ・オンラインについて特集が流れ、そのまま話題となった。
「スチューデンツ・オンラインなんて甘えだよなぁ」
そう言いだした先輩に、孝太は首を傾げる。
「甘え……ですか?」
「ああ。そもそも俺達は社会人なんだから、学生気分であっちゃいけないだろ? そりゃ、ゲームの中と現実世界をちゃんと分けられるならいいが、実際は出来ないやつもいるわけだしな」
「……まあ、確かに」
スチューデンツ・オンラインの大きな特徴は「学び直し」だ。
しかし、ゲームという分類に分けられている為、必ず授業を受けなくてはならない、というルールは存在しない。だから中には、楽しかった学生生活を再び送ることが出来るのが裏目に出てしまい、ニートの誕生を促進してしまっている面も実際はある。
現在のバージョンでは、長時間の使用を制限させる為、最低1時間。最高6時間の設定で、強制自動ログアウト機能が搭載されている。
だがこれはあくまで、寝食を忘れてゲームにのめり込み過ぎないようにする為の対策であり、ニート対策になっていないことは一目瞭然である。
「だからよ孝太。お前はあんなゲームにのめり込んで、会社に来れないなんて甘えた事抜かすんじゃねーぞ?」
「はい、わかっていますよ……」
つい一昨日、ゲームを始めた者として、孝太は少し複雑な気分になった。
ブレイン・ウォーカーが流行っている時代といえど、スマートフォン向けのアプリゲームが衰退している、ということはない。
むしろ、どこでも自由にプレイできるという特徴は、今でも大きなアドバンテージがあると言える。
職場で話題になるゲームとは、据え置きのゲームではなく、スマートフォン向けアプリゲームだったり、大きなメーカーが出す携帯ゲーム機を使った通信プレイが中心となる。
孝太はあまりゲームをやる人種では無かったのだが、入社して以来、先輩方に合わせているうちにゲーム好きとなった。
スチューデンツ・オンラインに対する複雑な心境は取り敢えず置いておくとして、孝太は職場で流行っているアプリゲームの話題に耳を傾けることにした。
書き溜めとかは出来ていないので、また余裕があったときに更新したいと思います。
気長に待ってくださると嬉しいです。