9話
「わー! 助けてくれー!」
少年が必死に走っている。突如現れた未知の怪物に襲われているからだ。
さんざん追いかけ回されたのか、少年の体力は限界に近いようだ。
「そこまでだ!」
怪物を遮る声。頼もしげな声で颯爽と現れた人物は……。
「真なるヒーロー、セイギ仮面参上! 悪はこのワタシが成敗してくれる!」
その現れたヒーローというのは、僕である。
僕は少年を敵からかばうようにして立ちはだかった。一度やってみたかったシーンを、ようやく実現することができた。
あの怪しげなヒーロー選抜試験の後、名実ともに晴れてヒーローの称号を獲得することができたのだ。
「ケッ、新入りのヒーローかよ。ボコボコにしてやんぜ」
新入りということで敵にもかなり舐められている。ここは大技の一つでも決めて早々に帰って頂くことにしよう。
「ワタシを甘く見たこと後悔させてやる! 天空ぅ! かかと落とし!」
説明しよう。天空かかと落としとはその名の通り、ヒーローの加護を受けた少年が空高く舞い上がり、かかと落としを決めるという大技である。……だが、
「イテッ!」
敵の脳天目掛けて放ったかかと落としは若干着地ポイントを謝り、そのかかとは地面に突き刺さって抜けなくなってしまう。
少年、ぴーんち!
「バカめ! 大技っていうのは威力が大きい反面、成功率もぐんと低くなるからここぞという時に使うというのがセオリーなのだ。だから貴様は新入りなのだ!」
「うぐっ……」
敵に正論を言われぐうの音も出ない。だがしかし、ここで負けるわけにもいかない。さて、どうしたものか。
「フン、野郎を助けるのはワタシのポリシーに反するが、味方の応援となれば話は別だ。とうっ!」
この頼もしげな声はセイギマン。
普段は一般市民のなかでも妙齢の女性しか助けないという奇天烈野郎だが、ヒーローのピンチには駆けつけてくれるという微妙な頼もしさが彼にはあった。
「さあ、ワタシが敵の注意を惹きつけるから、その隙に貴様は自分の足を引っこ抜くのだ」
引っこ抜いてくれないのかよ。
……という発言はこの際止めておくとして、センパイヒーローが作ってくれたこのチャンスを無碍にすることなく、地面に刺さった足を引っこ抜いた。案外簡単にとれた。
「よし、ではワタシは忙しいから後は君がなんとかしたまえ。それじゃあ!」
「……オイ! 敵を目の前にして消えるなっての!」
奴はまた可愛い女子を助けるためにどこかへ行ってしまった。まあでも、あれがリアルなヒーロー像なんだという暗示も最近では自分の中で納得しつつある。
「よし、こんどこそとどめを刺してやる。覚悟しろ!」
「はぁ……。そんなんでよくヒーローが務まるわね」
悪態をつくと同時に現れたのは、同じ高校の女子、霧咲舞。
ボンテージ姿のような出で立ちで今日も現れた。もうその恰好にも見慣れたものでもはや、恥ずかしくないんですか。とか聞く気にさえならなくなっている。
「どうせ貴方には重荷なのだから、私にまかせなさい。とりあえず……」
「嫌です」
「最後まで言わせなさい!」
「嫌です」
どうせ靴を舐めろというのだ。絶対にするものか。そのために僕はヒーローになったのだ。
「靴を舐めないと動かないと言うなら邪魔です。帰ってください」
「キィ〜! 新入りが! いつか後悔させてやるんだから!」
その日はめずらしく本当に悔しがった表情で帰っていった。
いつもなら、こっちが根負けするまでしつこく舐めさせようとしてくるんだが。
「ようやく僕も一人前として見てくれるようになったってことかな? よーし、じゃあがんばるぞー!」
と言って気合いを入れなおして敵のほうに視線を向ける。
すると、そこにいたはずの敵はすでに消滅しており、代わりにあの謎の仮面のヒーローが無言で立ち尽くしていた。
そのヒーローは、軽く右手を挙げると、やはりいつものようにそのまま立ち去ってしまった。
「か、かっこいい……」
ヒーローになってよかった。こうして僕も町を守る人間の一員として、平和の為に戦う事ができるのだから。
完
最後まで読んでいただきありがとうございました。
よかったら最後に感想も頂けたら、全裸で踊ります。