7話
気持ちの整理もままならないまま、実技試験は始まってしまった。
最初の組み合わせはあのお調子者とちっさい女子だ。
試合開始のゴングが鳴って尚、両者互いに出方を窺っているといった様子ですぐに攻撃を仕掛けようとはしない。
この状況でまず口を開いたのはあのお調子者の方だった。
「フン、がきんちょだからと言って手加減するボクではないぞ! 降参するなら今の内だからな! い、今の内なんだからな!」
何か策があってというわけではなく、単にしびれをきらしただけのようだ。多少びびっているような感じもする。
「後悔しても知らないぞ!」
念を押すように確認する。びびっていての発言のようにしか思えないが。
「…………」
沈黙を貫き通す少女。相手の動きに対して動じる素振りは特にない。
「バカにしやがってぇ……! 決勝戦で使うつもりだったがやむを得ないな。ボクの必殺技を見よ!」
……。しばしの沈黙。その場にいた誰もがその未知の必殺技が繰り出されるのを待っている中、とうとうその空間は何も起こらないまま時が流れた。
「フフフ。これぞ我が必殺技、時を止める能力! もはや誰も認識できなかったであろう」
彼の言動を汲み取ると、さっきの沈黙の間に彼は時を止める能力を行使し、時間を止めたのだという。ただ、傍から見ればその止まっていた間の認識は我々にはないので、ありもしなかったことを彼が喋っているだけという風にしか見えなくもない。
もはやどこからツッコミをいれるべきかすら迷うこの状況。
果たして彼は本当に時を止めたのか。
あるいはこの凍りついたこの空間を見た彼自身が、自らの力で空間を止めたと錯覚しているだけのなのか……。
それを知るのは神と彼のみだけである。
「さあ、降参しろ! 時間を止める能力に勝る能力者など存在しないのだからな! さあ!」
必死に降参を促す彼。たぶんここが彼の一番の攻め時なのだろう。
「はあ……。この程度の能力でヒーローになれるとしたら、それは世界が平和な時なのかもしれないわね」
深いため息とともに、ようやく少女が口を開いた。
まるで目の前の障害など大した事でもないかのようなその態度。見るからに強者のそれである。
「オ、オイお前! 大口を叩くのは勝ってからにしたまえ!」
散々、他人に対していばっていたヤツのいう事ではない。
というか、今からすぐにでも負けそうな奴のセリフである。
「ギャー! タスケテー!」
お調子者の周りを取り囲むように真っ赤に燃え盛る炎が地面から這い出ていた。
もはや逃げ道などなく、仮に時間を止めたところでこの状況をどうやっても覆すことはできないだろう。
そして彼は、あっけなく敗北した。
そして、次に行われた黒衣の男と筋肉だるまとの戦いは、ほぼ秒殺で決まったとのことらしく、みんなには黒衣の男の勝利だったということだけ伝えられた。