4話
「グァァァァァァァ!」
平和な日本にそぐわない怪物の雄叫びが周囲に鳴り響く。
「た、たすけてー!」
そして、その怪物に襲われる少年。
普通の人ならばその恐ろしさのあまり、足が震えて立つことすら困難なところだが、この少年は怪物との遭遇率の高さのあまり、ごく普通に逃げ回っていた。
平日の公園をぐるぐると走り回る。これならば他人を巻き込むことはないという判断だが、おかげで自分が犠牲になってしまいそうである。
残念なことに持久力はないので、徐々に少年と怪物との距離は縮まっていく。
「フン、モンスターに襲われているようだな」
声のする方には、滑り台の一番高い所に体格のよい青年――セイギマンが立っていた。
「そうです。襲われてるんです。貴方は助けてくれないんでしょうけど」
「よく分かってるじゃないか。私は――」
ぶつぶつ何か言っているヒーローは放って置いて、少年は走り続ける。このねちっこい怪物はしつこいくらい追い回してくる。
「はぁ、はぁ。このままじゃ追いつかれる……!」
「私が来たからにはもう安心よ!」
声のする方には、ジャングルジムの一番上に、SM風の仮面とボンテージ姿をした少女――霧咲舞が鞭を持って立っていた。
「ひとまずそこで土下座しなさい」
「だから追いつかれるって言ってるでしょ!」
息も絶え絶えになっていたが、ツッコミはきっちりとこなしつつ、怪物との距離を保ったまま走り続ける。が、すでに限界は近い。
「く、くそ……。今回ばかりはもうだめかもしれない」
そう思ったとき、奇跡は起きた。
噴水の前に男が立っていた。サラリーマン風の何の変哲もないおじさんだったが、その目は間違いなく怪物に向けられていた。先ほどの二人のヒーローなんかよりも、その目は闘士に満ちている。
「も、もしかして貴方は……!」
そのおじさんは終始無言であったが、しばらくした後、おじさんは瞬間的に変身し、その全身はいかにも戦闘向けの強化スーツに身を包んでいた。
そのおじさんは、特に何の前ふりもなく、地面を蹴り上げ高く跳躍し、そのままモンスター目掛けて高速のキックを炸裂させた!
たった一撃でモンスターの姿は跡形もなく消え去った。
「すごいです! すばらしいです! 僕感動しました。このような強くて善良なヒーローがいたなんて! 僕にもぜひさっきの技を……」
ただのおじさんにしか見えなかったそのヒーロー(以後、ザ・ヒーローと呼称する)は、軽く右手を挙げると、そのまま立ち去ってしまった。
「か、かっこいい……」
少年は感動していた。世の中にはちゃんとあのような素晴らしいヒーローも存在していたのだと。
そうしてこの頃をきっかけに、少年はヒーローになりたいという夢をいつしか抱くようになっていくのだった。