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3話

 某日、とある町にて。


 閑散とした住宅街をやや足早に歩く少年がいた。


 特にこれといって記述するような特徴もないごく普通の住宅街。日没間際、そこまで人通りもあるわけではないのでやはり少しさびしさが感じられる。


 この少年の向かう先からは、人々を誘惑に導く囁きが住宅街にこだましていた。


「石やーきいもー! いもだよー!」


 やや覇気のない平坦な声を拡声器で増幅させ、近隣住民をこれでもかと誘い込んでいた。


 その一人である少年も、家から財布だけ持ち出し、ようやく屋台まで追いつくことが出来た。


「おじさん、いも1つください」


「オイオイ、並んでくれないと困るよ」


 見れば、屋台にはびっくりするほどの行列ができており、それはこの一帯の住人が並んでいるのではないかと思われるほどだった。


「え、なにこれ」


 これほどの行列をまさか石焼いもの屋台で見ることになるとは思いもしなかったからこそ、実直な感想がこぼれた。


 この行列の凄さは、某有名テーマパークの人気アトラクションに並ぶほどの行列に匹敵している、といえば理解して頂けるだろうか。


 いも1つのためにこんなに並ぶのもどうかと思ったが、せっかくなので並んでみることにした。


 と同時に一つの疑問が浮かんでくる。


 何の気なしに並んでみたが、もしかすると超絶おいしい焼き芋なのではないだろうか。


 行列に見合うだけの対価を期待するとモチベーションもあがってくる。


 その後もどんどん人は増え列は次第に伸びていく。


 店のおっさんも頑張って売り続けているが、列はむしろ増える一方だった。


 そんな中、一人の少女がしびれを切らしたのか店長に向かって言い放つ。


「こんなもの並んでたら、日が暮れてしまうわ。私に優先的に売りなさい」


 そう言う少女の顔を少年は知っていた。


 同学年女子高生、霧咲舞だ。


 学校内ではミステリアスなクール系女子で通っているが、この間の一件で考えを改めさせられている。


 この女はサイテーである、と。


 すでに少年は列の前方まで来ており、もうすぐ買えそうというところまできたが、その女と店長との口論になったところで、店長のいもを売る手が完全にストップしてしまった。


 口論とはいうものの、実際のところは頑なにこばむ店長に対し、少女がいもを売れの一点張りという理論もへったくれもない、ただの子供の言い争いでしかなかった。


 このままでは終点が見えないので――決して気は進まないが、ここは多少顔を見知っている自分が間に入らなければならない気がしたので、その場に割って入った。


「あのー。すみません。みんな並んでいるから並んだ方がよろしいかと」


「あのね、バカ?」


 この少女は人を認識するやいなや貶さないといけない性質でもあるのだろうか。


「貴方も知ってるでしょう? 私はヒーローなの。だからこの列に並んでいる時間すら惜しいわけ。それとも私がこの列に並んでいる間に町の人が襲われたら貴方はその責任をとれるのかしら」


 よくもまあこうも自分に都合のいい解釈ができるなと少年は感心する。


 だがここでこのまま言い負かされるわけにもいかず、すかさず反論する。


「でも、こんなところで油をうっていていいんですか? ここは静かすぎるし、町からも離れているからモンスターが出現しても感知できないのでは」


「フン、そんなことは対策済みよ。見なさい、これを」


 といって少女は見たところ何の変哲もないふつうのスマホを取り出した。


 画面には地図みたいなのが表示されており、現在地を示すようなマーク等がしるされている。


「これはヒーロー達の知恵を結集させて開発した、モンスターサーチアプリよ。これにより、モンスターが私の管轄に出現したとき、通知がくるようになっているわ」


「すごい! それをみんなインストールすればモンスターを避けて歩けるようになるんだね」


「バカ? そんなことしたら一般市民がモンスターに襲われなくなって、私達の稼業が廃れてしまうじゃない」


「それは根本が何か間違ってる気が……」


 ヒーローという生き物は、一般市民がモンスターに襲われるべきとでも思っているような節がある。バカなのだろうか。


「ところで、さっきからその画面で点滅している赤い点は何なの?」


 少女の持っていたスマホの画面には、先ほどから赤い点滅と共に、エマージェンシーの文字が表示されており只事ならぬ雰囲気を醸している。


「こ、これは……敵を示す表示!? おのれ……私の隙につけこんで町を襲撃するとは許されまじ!」


「さっき、いつ襲ってきても大丈夫って言ってたような……」


 それはそうと先ほどから気になっていることがある。この赤の点滅は現在地店からかなり近く、地図を元に類推するに今二人が立っている位置の目と鼻の先に敵がいることを示しているようだった。


「これってまさか……」


 そう、そのまさかである。


「……フッ、ばれたか。いかにも、この私こそが焼き芋を売って得た資金を元に、一大勢力を築き上げ世界を滅亡に陥れようと企む、焼き芋男爵その人である」 


「……焼き芋で一般市民から金銭を巻き上げ、敵勢力の拡大を狙うなどなんと小癪なまねを……!」


 してやられた! といった感じで少女は悪態をつくが、焼き芋を売ってその対価として金銭を得ているだけなので別段そこに悪の所業を感じないのは果たして自分だけだろうか。


「よくもそのような悪巧みが思いつくものね、毎度感心されられるわ」


「人間の企業の方がむしろ悪質性の高いものが多いような気もするけど……」


「あんたはどっちの味方するつもりよ!」


「味方も何も……。この人はただ芋を売ってるだけだし悪質性はないんじゃ……」


 どこからどうみてもただの焼き芋を売っているおっさんである。それにモンスター特有の攻撃気質のようなものも特に感じられない。


「フン、じゃあおっさんに問うけれども、そのいもを売った資金を元に、貴方は何をしようと考えているの?」


「それは簡単なことでございます。資金が集まれば新たな焼き芋屋を立ち上げ、全国に展開することを望んでおります」


「……その先は?」


「ふむ。その先ですか。そうですねぇ、考えたこともありませんでしたが、宇宙に点在するモンスターに向けて、宇宙焼き芋店をオープンするのもよさそうです」


「ほら、この人はただの焼き芋屋だよ」


「クッ……。そこまで言うならいいでしょう。本当に焼き芋に情熱を注いでいるというなら、その味をもって私に焼き芋一筋であることを証明してみなさい!」


「ふふ……。元気な御嬢さんだ。これは友好の証として特別に無償でサービスさせて頂くとしましょうか。じゃ、君にも」


 焼き芋のおっさんは、少年と少女に一つずつ焼き芋を手渡す。出来立ての芋は蒸気を発散させ、いかにもいまが食べごろですとアピールしているかのようだ。


 さんざん待たされたこともあり、無言で焼き芋にかぶりついた。上質な甘みが口の中に広がり、焼き芋の常識を覆すようなそのおいしさに少年は感激していた。


 隣にいた少女も一口食べ、しばらく無口になっていたが、


「フン、せいぜいがんばりなさい」


 と言うなり、踵を返してどこかへ去って行ってしまった。


「うまかったんだな……」


 そのあとも焼き芋屋の列が減ることはなく、行列のできる焼き芋屋として焼き芋を売り続けるのだった。

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