1話
「わー! 助けてくれー!」
僕は必死に走っている。突如現れた未知の怪物に襲われているからだ。
体力的にはあまり自信はない。しかも最悪な事にもうそろそろ限界が来ている。
「そこまでだ!」
怪物を遮る声。頼もしげな声で颯爽と現れた人物は……。
「悪を退治する者……セイギマン参上! 俺に遭遇するとは不運だったな、怪物よ」
まさしくそれはヒーローと思しき風貌をした、若く逞しげな青年だった。
「ボクが来たからにはもう大丈夫! キミ、名前は?」
「守田勇樹です」
「ムッ、貴様さては男か……!?」
「そうですけど何か?」
その男は覆面をしていたが、それ越しにでも分かるくらい不服そうな雰囲気を醸し出している。
「俺は可愛い女子を助けるためにヒーローをやってるのでね、つまり君を助けることは俺のポリシーに反する」
「というと?」
「簡単なことだ。俺は男のために戦うほど意味のないことはしないのだ。では……」
いそいそと帰る仕草を見せるセイギマン。
そんな様子を見るやいなや、ちょっと待てと男の前に立ちはだかる少年。
「待ってくださいよ! 敵が目の前にいるんですよ? 帰っちゃだめでしょ!」
「ん? それは元々貴様を追ってきていたヤツだろう? 貴様も男である以上、そのくらい自分でなんとかしてみろ」
「ヒーローが現れたならその力にすがりたいというのは当然じゃないんですか!?」
お互いの主張は平行のまま続き、そしてそれは折れる気配はない。
律儀なことにこの間、怪物はこの口論を身じろぎせず立ち尽くしたまま聞いているのだった。
その怪物の心中は果たしてどうなのか真意は分からないが、案外良い奴なのかもしれない。
「そんな弱腰だから、最近の男は草食系だとか、女みたいだといった分類にカテゴライズされるのだ。反省しろ!」
「……あ、はい。すみません」
セイギマンが語気を強めて言うものだから、少年はつられて肯定してしまった。が、すぐに、
なんだよ、反省って……。
と思ったが、それは言わないでおくことにした。
「ともかくだ! 私は次なる女子の危機を救わねばならぬ。さらばだ……!」
「ちょっとまっ……!」
行ってしまった。
まあ、考えてみれば誰彼構わず助けるヒーローというのがそもそも空想上の夢物語のような存在なのであって、現実的な見返りを求める彼こそヒーローという存在の本来の姿なのかもしれない。
……ハッ!
そんなことを考えている場合ではなかった。
怪物が僕を……。
……ってあれ、いなくなってる。
口論に聞き飽きてどこかへ行ってしまったのだろうか。ともかく危機は去ったようだ。
などと安心している最中、あまり離れていない所から、
「キャ〜!」
近くで女性の声がした。
「とうっ! 怪物め! 覚悟しろ!」
そして、先ほどの口上どおり、あの男が女性を守るようにして参上する。
少年はこの時思ったのだった。
最低なヒーローだ、と。