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夢の中の少女は俺を主様と呼び仕える  作者: 龍夢
第一章 転移・タリナ編
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少女ナユ

 私の名前はナユ。

 タリナの民として生を受け、ここタリナ砦で生活をしている。

 ついこの間十六歳になったが、十六年間、まだ砦から遠く離れた場所へは殆ど行った事がない。

 小さい頃はそれでも良いと思っていたけれど、今は砦の外の世界、この大陸のいろいろな場所に行ってみたいとささやかな願望を持っている。

 タリナの民は十五歳から成人として見られ、早い者は成人するとすぐ婚姻し子を成す者もいる。しかし、そんな事はもう少し歳を重ねてからで良いと私は思う。


 自分にそんな機会がすぐに訪れるとは思わないけれども。


 そして、砦を遠く離れた地へ行く事が出来るようになるのも十五歳からだけど、女は男と比べると、滅多に砦を遠く離れた地へ出歩く事がない。私も月に一度か二度は行くのだが、せいぜいが馬車で半日ほど離れた地にあるワカルフという町と、この砦周辺だけが私の知る世界の全てだ。


 なんと狭い世界だろうか。


 なんでも父様母様の話しでは、タリナの民は特別で、砦の外の世界では普通の生活を送る事が出来ない場合が多いらしい。それが理由なのかは判らないが、町に行く時は数名の男同伴と、顔が見えないほど目深にフードを被るという条件が付く。


 それでもいい。


 十六歳にもなったし、長い一生、今すぐではなくとも外の世界を見れる機会はあるかもしれないのだから。


 私はまだ良いほうだろう。

 タリナでは年に一度、創造神様に仕える者を送る『仕え人送り』という儀式がある。これには長く仕えることが出来るように、十五歳未満の娘が選ばれることが殆どだ。


 つまりは創造の神を主とし身命を捧げるのだ。


 そして、それに選ばれた者を『お役目』といい、タリナの民長であるロウホ様がお決めになる。タリナ創造の神に身命を捧げるのは大変名誉な事で、この儀式で神の側に行き仕える事が出来るのだという。それは、物心付く前からタリナの長老衆や親に教え込まれ、私も小さな頃はそんな名誉なお役目がいつか回ってくるものだと思っていた。しかし、成人するまでお役目が回ってくることはなかった。

 誰にも話してはいないけど、父様が若い頃に砦の外を旅した事を話し聞かせてくれてからは、ずっと知らない世界を自由に見てみたいという憧れを抱いているのだ。


 このように狭い砦であるので、何人もの知人友人、仲の良かった者がお役目に選ばれ、創造神へと身命を捧げたが、本当に生きてやってみたい夢や希望は無かったのだろうか。

 創造の神とはいったいどのような者なのか。

 本当にそのうち伝承の通り降臨するのか、命を捧げた者は神に仕えているのだろうか。

 ロウホ様でも本当のところは知っていないのではないだろうか。


 それでも毎年誰かが選ばれ、儀式は行われる。

 ちょうど今、大集会場では今年のお役目を決めているはずだ。


「ナユ、ロウホ様がお呼びだ。何やら大事な話しがあるらしいから急いでお屋敷に行くがいい」


 考え事をしているところへ急に声をかけられ、ハッとして我に返ると後ろを振り返る。すると、其処には顔見知りの壮年の男が立っていた。ナユはなんとか自分を落ち着かせると、綺麗な通る声で聞き返した。


「大集会場ではなくお屋敷へ?」


「ロウホ様にはそのように聞いている」


「わかった。すぐ行きます」


 一体何の話しだろうか。なんとなく胸騒ぎがする。

 お屋敷の方へ呼ばれたのであれば、お役目ではないかもしれないが、そろそろお役目が決まる頃だと考えていた時だっただけに、もしかすれば、自分が選ばれたのかもしれないという考えが頭を過ぎる。

 十六歳になり、成人した私には別な用事でもあるのかもしれない。ナユはそう思い直すと、ロウホの屋敷へと向かって歩き出した。


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