奴隷市場の暴動③
カファス商会が専有する展覧区域は、人が五百人ほど入れる広さを有しており、中へ通されると、カファス商会が集めただろう多くの私兵らしき者達が集まっていた。
その数およそ二百あまり。その最前列中央にいる男がおそらくカルケルだろう。
「女だ」
「ああ、女だ。しかも上玉揃いだ。あれも報酬か?」
早速男達の方からそんな会話が聞こえてくる。それが聞こえたからか、女三人は眉根を顰めて嫌そうな顔をした。
「代表代行、タリナの方達をお連れしました」
無言で頷いたカルケルは、タリナ側の者達を見回してから口を開いた。
「代表代行をしているカルケルだ。単刀直入に言おう。何もする事なく帰っては貰えないか?」
「それはその人数ならタリナに勝てるという事か?」
「やってみなければ分からないが、この人数相手ではタリナの民といっても無事では済まないだろう。それに三人も女を連れていてはその人数で守り切る事が出来るのか?」
「言っとくが女も戦力だ。無用の心配だな」
ここまで会話するとカファス商会側がざわざわと騒ぎ出した。
「カルケルさん、タリナだからってこの人数なら負けませんって。そこの女も報酬に上乗せしてくれるんなら頑張りますぜ?」
これにはカルケルが睨みを利かせるだけで黙らせる。
「もうフォルター様はワカルフを出られている。つまり戦おうが戦うまいが俺の役目は終わりだ」
「なるほどな、だとすれば尚更何もせずに帰る事は出来なくなったな。全員捕らえて警備兵の尋問を受けて貰おうか。イシュカ、どうだ?」
「可能なの? いえ、可能なんでしょうね…」
エルジェがクガンの方を向くと、問題ないと頷いてよこす。
「で、一つだけ聞いておこうか、この騒ぎを起こしたのはお前達という事でいいんだな?」
「………」
返事は帰ってこなかった。その代わり今まで穏やかだったカルケルから殺気が放たれる。
「分かった……クガンやるぞっ! 俺はカルケルの相手をする。女達の方へは二名ほどつけてくれ」
「わかりました」
そして、カファス商会側から動く事で戦闘は始まった。
タリナの方へ、特にイシュカやナユ、シーナのいる所へと殺到するカファス商会側の男達。
タリナ側は入ってきた入り口の方へと後退し、後方へ回り込まれないように対処する。そして、女達の方へはクガン自らがミシュンと共に付いた。
カルケルは大剣を抜き放つと構えをとった。それに合わせ、エルジェも剣を抜き放ち構える。どんな戦い方をするのか、強さは未知数だが、タリナの男衆よりはだいぶ下だと向かい合ったエルジェには分かる。しかし、油断はしない。それは向かい合った時に感じる強さだけが全てではないと分かっているからだ。
「こいっ カルケル!」
「俺も言っておくが、女にも容赦しない。連れてきた事を後悔するんだな」
周りが乱闘となっている中、エルジェ達の戦闘も始まった。カルケルの大剣が横薙ぎに振られるのをバックステップを踏んで躱す。そのまま何度か振られた大剣はどれも空を切り、エルジェを捕らえる事は出来ない。
けして遅い訳ではないが速いという事もない。これならばさほど時間を掛ける事なく決着が着く。そう思った時だった。ほとんど死角となっている所から投げナイフが飛んできてそれを手甲で弾いた。
(くっ! 投げた相手を特定できなかったな。そう来るか……)
これで敵が一人ではないという事が分かったが、その後もカルケルの攻撃と同時、または合間を縫うようにしてナイフが飛んでくる。しかし、投げてくる相手を特定する事は出来なかった。
「なかなかいい連携だな。やはり一人で相手をするのはキツイか?」
「………」
返事は返ってこない。そして、相手の攻撃は相変わらずだった。
その間、周囲の戦闘もどんどん乱戦の度合いが増していく。女達へ殺到する敵の比重も多くなり、今では傷つけず無効化などとは言っていられない状態となっている。
クガンは大剣をうまく使い、殺す事なく敵を吹き飛ばしているが、イシュカは愛用の剣で躊躇なく相手を切り付け、ナユは短剣二刀を使い相手を切り付ける事で凌いでいる。
そして、シーナはと言うと近接格闘技だった。ナユやイシュカが戦闘不能にした者、または捕まえた相手を投げているが、普通では考えられないような距離を投げられた者が飛んでいく。または蹴られた者も同様に吹き飛んでいくのだ。
攻撃の合間にその戦いぶりを見たイシュカは、一対一ならなんとかなるかもと言っていたシーナに納得してしまった。
(これならほっといても大丈夫ね)
確かにカファス商会側の数は多い。だが、戦闘経験や戦闘力はタリナ側が圧倒的だった。
カファス商会側に戦闘不能者が続出してくると、多くが女目当てでそちら側に戦闘加入しにいく為、タリナ側に余裕が出来てきたのだ。今では女達の守りに二名追加し、他の者が状況に応じた戦闘をする事で戦局はタリナ側に傾きつつある。
始まった当初は約二十倍という人数差があったが、それをまったく苦にしないのは、やはりタリナの男達の強さが尋常ではないのだろう。




