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夢の中の少女は俺を主様と呼び仕える  作者: 龍夢
第二章 ワカルフ編
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奴隷市場の暴動②

 タリナ商隊護衛業から出た後、フォルターの馬車は大通りを外れた通りを北へ走っていた。


「何ということだ! 相手がタリナというだけで……」


 『萎縮してしまった』とは護衛の二名が馬車に同乗している為に言えなかった。

 始まりは奴隷に逃げられた事からだったが、最終的にはいろいろな要因が絡み合い、単純な判断ミスから今のような状況に陥ってしまった。


「こうなったら王国から出るしかない! まだまだやり直しはきく。先ずはワカルフからの脱出だ! おい、商会には戻らん。例のところへ向かえ」


 そして、向かったのは北大門まで十分程という距離にある古びた洋館だった。

 人目に付かないように裏口から入ると、フォルターはリビングに移動し、中にいた数名の商会幹部に指示をする。しかし、商会幹部とはいっても格好は農民の物だ。つまり、何か特別な場合だけ機能するように用意された者達という事だろう。


「奴隷密輸が明るみに出た。急ぎワカルフを脱出して王国を出る」


「では、商会のほうは緊急時の対処通りで?」


「そうなるな。急ぎ伝令を商会に走らせろ。後はカルケルが上手くやる」




 奴隷市場に近づくと、街の至るところで警備兵の姿を見掛けるようになった。

 中には逃げた奴隷らしき者を拘束している警備兵もいる。情報では多くの奴隷が市街へ逃げたという事だが、どんな面倒事を起こすか分からない為、流石に放置する事は出来ないのだろう。そして、奴隷市場の入り口へ近付けば近付くほど、警備兵や駐屯兵が奴隷達と争う場面が多く見られるようになってくる。


「これは…カファス商会の奴隷だけじゃないわ! 解放された奴隷達が他の商会の奴隷も解放してる?」


「それはあるだろうな。さてどうするか…」


 エルジェ達は領主の通達が伝わっている為か、特に止められる事なく奴隷市場近くまで来る事ができた。しかし、逃げた奴隷達が暴徒となっており、これ以上は馬や馬車での移動が困難なようだ。


「カファス商会までまだ距離があるが、ここからは徒歩で行こう。ちょうどそこの厩舎が使えそうだしな」


 エルジェの指差す方向にはそこそこ大きな宿屋があった。

 既に宿の者や宿泊客は逃げたのか、人のいるような気配はないようだ。


 厩舎だけ間借りし、全員が集合したのを確認すると、早速エルジェは指示を出す。


「よし、一組四人というのは変えずに行動する。まず厩舎の見張りに一組、あとの者はカファス商会へと向かう。途中で奴隷達が襲って来た場合は殺さないように無力化するんだ。では行動…」


「ちょっと待ってエル」


「ん?」


「シーナとナユも連れて行くの?」


「ああ、そのつもりだけど? 理由はある。まずシーナだが、イシュカとは絶対離れたがらないだろ?」


 その通りと言わんばかりにシーナはイシュカにくっついている。


「そして、ナユも俺の行く所には必ず付いてくる。何かあれば俺が守るよ」


「そう………なら何も言わないわ」


「主様、私の事は気にしないで下さい。自分の身は自分で守れるだけの訓練をしています」


 しかし、エルジェは顔を左右に振った。


「ナユ、そうじゃない。居るんだよさっきから近くに……姿は見えないが、何人か殺気を放ってる奴が。イシュカもそれが分かるから言ってるんだろ?」


「えぇ……それでもタリナの男達がこれだけ揃ってるなら問題ないとは思うけど……」


「クガン、どうだ?」


「まあ、ランベル殿の言う通り、よほどの事が無い限り問題ないでしょう」


「よし、では行くとするか」


 と、その時だった。空気を切り裂く音がし、ナユとイシュカ目掛けて矢が飛んできた。

 エルジェはナユに飛んできた矢を手刀で叩き落とし、イシュカも素早く身を捻る事でなんなく躱した。


「へぇ、随分な挨拶じゃないか。あちらさんは殺る気満々なようだな。しかも女だけを狙うか…」


「そうね……エル、私に向かってくる矢は防いでくれないの?」


「あのなあ……イシュカは自分でなんとかできるだろう?」


「………うん。言ってみただけ」


 またエルジェをドキリとさせる表情をするイシュカだが、エルジェはそれに気づかぬ振りをしてナユの方へ顔を向けた。


「今のような攻撃がこれからもあるかもしれない。常に周囲の警戒は怠らないようにするんだ」


「はい!」


 そして、カファス商会へ向け、イシュカを案内として移動を再開する。

 その間、常に一定の距離を置き、何者かが付いてきているのを感じてはいたが、特に何かされる事なく奴隷市場のエリアに入った。

 其処では、エリア外と比べ物にならない程の警備兵と駐屯兵が奴隷達を捕らえるべく動き回っていた。しかし、此処でもタリナ側に関知してくる兵士はいない。


「流石にこの人数で移動してると奴隷も襲ってこないな」


「それはそうでしょ。あと少しでカファス商会だけど、これだけの事をしてどうするつもりなんだか…」


 そして、暫く歩いていると付いてきていた者達の気配もいつの間にか消えていた。


(さて、どんな奴が待ってるんだろうな…)


 カファス商会が見えてくると、中から多くの気配が伝わってきた。しかし、それが商会の集めた者達なのか奴隷達の者かまでは分からない。


「よし、では一組を裏口へ配置する。敵はなるべく殺さず無力化だ。それと、無いとは思うが対処できないような相手だった場合は逃げてもいい。無理せず自分の命を優先するんだ。残りの者は全員中に入る」


 此処まで特に邪魔らしい邪魔もなくすんなり来る事が出来たのは、やはり領主権限での指示が大きいのだろう。

 そして、指示も終わりいざ商会の中へと入ってみると、受付の者が一人だけ立った状態で待っていた。


「タリナの方ですね。奥で代表代行のカルケルがお待ちしております」


 と、受付の若い男はサラリと言う。


「なんともとぼけた対応だな。フォルターはいないのか?」


「フォルター様は出先からお戻りになられてません」


「やはりそうか……ではカルケルとやらに会わせてもらおうか」


 受付の者に案内され、エルジェ達が向かったのは、奥の方にある奴隷展覧区域であった。


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