カファス商会の失墜③
商談を行う部屋へ通されたフォルター達は、待っている間もなかなか落ち着く事が出来なかった。
普通に商談に来たのであれば別だったが、流石に自分達にやましい所があり、さらには敵となりうる、もしくはすでに敵となっている者の本拠地へ来ているのだ。それを平常通り落ち着く事など出来る訳がない。
では護衛業事務所へと来る事になった経緯は何かというと、フォルターは解決策をいろいろと考えた。考えたのだがいい案が浮かばなかった。だったらまずは相手がどんな者達か見てやろう。と、ただ単純にそれだけがここへと来た理由であった。そして、10分ほど待った頃だろうか、足音が聞こえ、廊下を複数の人が歩いてくるのがわかった。
いよいよ護衛業事務所の代表の登場だろうか。どんな者が現れるのだろうか、とフォルター達はいつも以上に気持ちを引き締め身構えた。
フォルター達を待たせている部屋の前へと着いた。
エルジェは後ろに従う二人を見て『いいか』と頷くと、ドアを開け自分が先頭となって部屋の中へ入っていく。 その後に続いてイシュカとナユも入っていくと、あらゆる感情を含んだ遠慮のない視線が三人に対し向けられた。
それらを特に気にした様子のないエルジェとイシュカに対し、ナユは明らかに見られるのが不快だというのが顔にあらわれている。
流石にこのままでは初対面の印象が不味いと思ったのか、フォルターは遠慮のない視線を注意する為、護衛の二人を睨んでから口を開いた。
「私はカファス商会の代表をしているフォルター・エイメタだ。まずは約束もなしに会いに来た事を謝ろう」
「いや、特に気にしなくていい。もし会う事が出来ないなら最初からここへ通したりしていない……まずはこちらも自己紹介からだな。俺はタリナ商隊護衛業の代表をしているエルジェ・イスカーチェだ」
「ふむ。もっと歳のいった年配の者が代表かと思っていたのだが、随分と若くて男前なのでびっくりしましたな。しかも、さすがにここの代表ともなると、連れている女もなかなか見かける事ができないほどの美女。知り合いの商人からタリナの女は美しいと聞いていたが、羨ましい限りですな。もしよろしければ紹介していただけますかな?」
これにはエルジェも少し困ってしまった。それはフォルターが勘違いをしているからだ。正確にはナユだけがタリナの女でありイシュカは違う。
間違いを正すべきかどうかと考えていると、イシュカが問題ないと同意の為に頷いてよこした。
「なら、紹介しよう。そちらから向かって左がナユ、右がイシュカだ」
紹介された二人は軽く会釈をし挨拶をする。
「おお、お二人とも容姿に合ったよい名前ですな」
「ああ、俺もそう思うよ。まずは挨拶も終わった事だし、あまり時間をとれないので率直に尋ねよう。今日はどういった用件でここへ?」
「どんな者が代表をしているのか会って見たかったというのが理由だが、それではだめでしたかな?」
「いや、だめではないが、それだけが理由ではないのだろう? そう、例えば、最近奴隷市場から奴隷が逃げて騒ぎになっていると聞いたんだが?」
「ほう……して、それが何故カファス商会に関係していると?」
「二時間近く前になるが、『夢の懸け橋亭』でちょっとした騒ぎがあったんだ。俺はその場に居合わせてね。その時に助けを求めてきた少女を保護した。話してみるとその少女がどうやら逃げた奴隷らしいんだが、まあ、もし関係ないというのなら構わない」
ここまで話すとエルジェはフォルターの顔色を窺った。しかし、今のところ焦ったりといった変化はみられない。しかし、内心でフォルターはどうしたものかと熟考していた。本当に顔を見に来ただけ、あわよくば様子もというところに、エルジェは特に何かを隠すでもなく奴隷を保護したと言ってきたのだ。そして、それが関係あるのかどうかと問われている。
関係ないと言うのは簡単だが、どうしたものだろうか。少しの間黙考したフォルターだったが、今はもう少し判断材料がほしいと思った。




