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夢の中の少女は俺を主様と呼び仕える  作者: 龍夢
第二章 ワカルフ編
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イシュカ、襲撃される②

 食堂へ着くと、まずは自分とシーナの分の朝食を頼み、待っている間は先に降りていった二人を視線で追う。すると、他の者と合流し、人数が七人となって朝食を食べているのが確認できた。

 イシュカはここでも驚かされる事になった。一人だけ渋いおじさんが混じっているが、他の男は誰もが平均以上に整った顔立ちをしていたからだ。それに……。


(全員がかなりの腕前ね……先程の男は例外としても、他の者も冒険者でいえばBクラス以上かな……)


 と、ざっと見た感じではあるが、その力量にも驚かされる。

 男達の力量を一人一人確認していると、少女と目が合い中断させられてしまったが、軽く会釈をされた為、それに同じように会釈を返すと、出来上がってきた朝食をバスケットごと受け取り、自分の部屋へと戻った。そして、シーナと一緒に朝食も食べ終わり、食後をソファーでくつろいでいた時だった。ドアをノックする音が部屋の中に響き、宿の者だろう男から声が掛けられた。


「ランベル様にお会いしたいという方が下にいらしていますが、どうなさいますか?」


(私に会いたい?)


 ワカルフへ身分を明かさずに来ている以上、自分を冒険者『イシュカ・ランベル』と知って会いに来るのは誰だろうか? とりあえず会ってみなければ分からないか? などと考えていた時だった。

 ドアの向こうで『ゴトリ』と何かが倒れる音がし、次の瞬間には物凄い威圧感がイシュカへと押し寄せてきた。


(不味い!)


 何か危ういものを感じ取ったイシュカは、自分達がドアの延長線上から外れているのを確認し、立ち上がると同時に剣を抜き放つ。すると、ほぼ同時に破壊されたドアが部屋の中を飛んでいき、廊下へと立つ者の姿が露わとなった。そして、その人物の姿を見たイシュカは、顔を驚きに染めながらその名を叫んだ。


「おまえは、エシェック!!」


 エシェックと呼ばれた男は、部屋へとずかずか入って来ると、大槌を両手で構えイシュカへと狙いを定めた。しかも、背中には二対の戦斧がまだ背負われている。


「偶然だったんだよなぁ……そう偶然なんだよ街で見かけたのはよ……お前の名前だって知ってるんだ。なあ?王都では有名人のイシュカさんよぉ!」


 縦よりは横に広い体形をしているエシェックは、身長こそイシュカとさほど変わらないが、ドアを力尽くで破壊できる力といい、得物も大槌や戦斧である事からパワーファイターだと分かる。

 普通のパワーファイターならば、技やスピードよりも力に頼る戦い方をする為、当たらなければ致命傷を負う事はないが、このエシェックという男は、スピードも馬鹿にならない事をイシュカは知っていた。


「シーナ、隙を見てこの部屋から逃げなさい。もし可能なら窓からでもいいから」


「でも………」


「私の事は心配しないで! 大声を出してでもいいから、外に出たら助けを呼んでちょうだい」


「うん! わかった!!」


 気休めではあるが、そうする事でシーナが商会の者から手出しされないかもしれないし、本当に助けてくれる者が現れるかもしれないという期待があった。

 アマゾネスの少女は、入り口から外へ出るのは無理と見ると、素早く身を翻し、窓から外へと飛び降りた。そして、外からは『誰か助けて~』とシーナの声が何度か聞こえてきた。


 実はイシュカも窓から逃げ出す事を考えなくもなかったが、それを許すほどこの男は甘くないだろう。


「もう別れは済んだのか?」


「あら、待っていてくれてありがとう。以外と紳士なのね?」


「はん! 俺はお前さえぶっ殺せれば文句はねえ。兄貴の仇は取らせてもらうぜ」


 もう数年前になるだろうか。ラターニア王国と隣国クシュの国境付近で、大規模な盗賊掃討作戦が行われたのだ。

 理由は分からないが、冒険者ギルドへと出された依頼内容には、盗賊の頭目だけは生かして捕らえよと明記されており、アジトへの奇襲が成功した事により盗賊はほぼ壊滅、それに参加したイシュカは、盗賊の頭目であったこの男の兄を生きたまま捕らえる事に成功した。しかし、捕らえた盗賊の護送途中、敗走する仲間をまとめあげ、兄を助けにきたエシェック。執拗な奪還の為の奇襲を何度も退け、イダンセへと無事帰還はできたものの、受けた被害も甚大だった。


 盗賊の数は百余名、冒険者ギルドに出された依頼から作戦に参加した者五十余名、帰還してみればその数は半数まで減っているという有様だったのだ。そして、とうとうエシェックだけは仕留める事が出来ないまま作戦は終わった。


 このエシェックという男は、戦って負けるとはいわないが、近接戦闘だけみれば、イシュカの実力をもってしても容易に勝てる相手ではない。そして、何よりも厄介な事に異常なほどしつこいのだ。それが、まさかここワカルフで見つかり、白昼堂々宿で襲われるとは思ってもいなかった。


「あなた、もしかして兄を探して奴隷市場に?」


 後の噂で、盗賊の頭目は秘密裏にモルトへ売り払われたと聞いている。なんとなく確認の為に聞いてみたが、地雷を踏んでしまったのか、みるみるうちにエシェックの顔は怒気で真っ赤に染まる。


「もう遅かったんだよ。ラハリクで兄貴を見つけた時には俺の事すら分からねえ状態だった。そして、病にかかってた兄貴はろくに治療もできず死んじまった………もう俺にはお前に復讐するくらいしか残された道はねえんだよっ!」


 そう言って振り回された大槌をバックステップを踏んで躱す。

 一回、二回、三回、止まる事なく振り回される大槌は、重いというのにスピードもあり、イシュカに反撃の機会を与える事なく部屋の隅へと追い込んでしまう。


 窓から逃げる事は出来ない。かといって部屋の入口から逃げる事もできなかった。イシュカの額からは一条の汗が伝い、少しだけ余裕の無さが伺える。しかし、けして焦っているようではない。


「はん! やっぱ外とは勝手が違うよなあ? 狭い部屋の中じゃまともに逃げる事だって出来ねえだろう?」


「………」


「そろそろ死ねやっ!」


 エシェックにとっては仕留める為の渾身の一撃。しかし、イシュカにとってもこの攻撃は逃れる為の好機であった。

 仕留めるのを優先し、高めのゴルフスイングのように放たれたこの一撃は、イシュカに当たる事なく壁に大穴を開ける。

 体をペタリと潰すような体勢で攻撃をやりすごしたイシュカは、素早く体を起こすと、壁穴から外へと身を躍らせた。


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