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夢の中の少女は俺を主様と呼び仕える  作者: 龍夢
第二章 ワカルフ編
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ワカルフにて③ ~ 街の中で

 領主の館を出るとほどよく陽は傾いており、宿泊場所へと向かっても問題ない時間となっていた。

 本日宿泊予定の宿、『夢の懸け橋亭』はワカルフの中で最も高級な宿であるとともに、サービスや出される食事の味も一流であり、食堂は熱い要望により昼と夜だけ一般に開放されているらしい。

 料理は一カ月のローテーションが組まれており、よほどの事がない限り同じ料理を食べるという事にならないとの事で、長期滞在する者には嬉しい限りだろう。

 領主の館からは徒歩で三十分程度の距離だということで、ミシュンは馬車で一足先に宿へと先行し、エルジェとナユ、護衛としてクガンが同行して街を散策しながら移動する事になった。


 館の門を潜り抜け大通りへと出ると、さっそく多くの視線を集める二人だったが、落ち着かない様子のナユとは違い、行き交う人々を冷静に観察するエルジェ。するといくつか気づいた事があった。まず最初に気づいたのは、多くの若い男が何かを探すように忙しく歩き回っている事。そしてもう一つは、ぱっと見は普通に歩いているように見えるが、それらを気にして様子を伺っている女が一人いる事だった。

 女の位置は通りを挟んで反対側の歩道を同じ方向へと歩いているのが見える。帽子を被り街娘のような服を着てはいるが、他とは異なる雰囲気や隙が無い事から、その女は相当な手練であるだろう事が感じ取れる。


 エルジェは少し悪戯心を出してしまい、その女へとだけ分かるように自分の気配を主張し視線を送る。これはエルジェの修めている武術の技の一つで放気という技である。これとあわせて相手の気配などから次の動きを読む察気という技もあるが、それはここで必要としない。

 普通の者であれば感じ取る事もできないだろうが、エルジェの悪戯はその女に効果的面であった。

 女は慌てて立ち止り気配の主を探るような様子を見せる。しかし、何か異質なものでも感じ取ったのか、振り返る事なく何もなかったように歩き出した。


「へぇ……、おもしろいな」


「主様?」


「いや、なんでもないよ」


 自分の主が何に対して『おもしろい』と言ったのか訳もわからず小首を傾げるナユ。それを見て『可愛いな』とご満悦な様子で歩くエルジェ。


『夢の懸け橋亭』へと向かう僅かな間にあった先程の邂逅は、後に意味を持つことになるのだが、それはもう少しだけ先の話である。


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