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夢の中の少女は俺を主様と呼び仕える  作者: 龍夢
第二章 ワカルフ編
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逃げた奴隷③

 イシュカの目の前に飼葉から転がり出てきたのは、肌は褐色髪は黒髪の少女であった。

 『アマゾネス』とまでは言葉に出して言わない。それは特徴や見た目からある程度わかったからだ。


 イシュカを見上げ助けてと懇願するアマゾネスの少女。そして、外では何かを探し回るカファス商会の男達。 イシュカはそれらから幾つかの可能性を導き出す。


「いいわ。理由は後で聞くけど、とりあえず一目に付かないように飼葉に潜ってて」


 少女は安堵の為か目に涙を溜めながら頷き、飼葉の中に再びゴソゴゾと潜り込んでいく。それを見届けてから、イシュカは急いで部屋へと戻った。そして、旅用のフードと短剣を持つと再び厩舎へと向かう。

 厩舎へと向かう途中も、カファス商会の者らしき男達が大通りを走っていくのが見えたが、さすがに宿の厩舎までは勝手に入ってこないようだ。

 再び厩舎へと行き飼葉置き場へと近づくと、足音だけで分かったのか、飼葉の山から少女がでてきた。


「これから私の借りてる部屋に行くから付いてきて」


「うん」


「それとローブを持ってきたから着てちょうだい。そうね…フードも被ったほうがいいかな」


 イシュカは少女の服に付いた飼葉をほろい落とすとローブを着せる。そしてフードを被らせると護身用の武器を少女へ渡した。


「これは?」


「護身用かな? ローブの内側に隠しておきなさい」


「わかった」


「宿の厩舎へ出る通用口は大通りからも見えるけど、遠くて誰かまでは分からないわ。ついてくる時はあまりキョロキョロしないでね」


 アマゾネスの少女は頷くと歩き出したイシュカの後ろを付いて行く。

 朝方薄暗い中を厩舎に忍び込んだ為、どこをどう通ってきたかも分からない。それどころか宿の厩舎だという事すらわからなかったのだが、明るい中でみた宿が予想外に大きく立派な事に驚く。感嘆の声を上げそうになるが、少女はそれを必死に我慢した。

 宿から厩舎側へと出れる通用口から入り、食堂を抜けて階段へと向かう。昼時という事で食事をしていた者が多く、その中の何人かが胡乱げな目をこちらに向けてきたが、特に何かを言われるという事なく食堂を抜け、二階への階段を上りきる。

 その後は誰にも会うことなくイシュカが宿泊する部屋へと辿り着く事ができた。

 部屋の鍵を開け、二人とも部屋へ入ると再び施錠する。そして、イシュカが少女の方を見ると、なにやら鼻をつまんで変な顔をしていた。


「あっ……酒臭い部屋でごめんね。ちょっと昨日は酒を飲み過ぎちゃって」


「そ、そうでふゅか…」


 イシュカは酒気のこもった部屋の空気を換気する為、窓を少しだけ開ける。そして、水差しの水をグラスに注ぐと少女へと渡した。よほど喉が渇いていたのか、少女は受け取ったグラスの水を一気に飲み干してしまった。

 脱いだフードと短剣を受け取ると、ソファに座るように促し、もう一度水を注いだグラスを少女へと渡す。少女がゆっくりとグラスの中の水を半分ほど飲むのを見届けると、自分もソファへと腰を下ろした。


「少しは落ち着いた?」


「うん。ありがとう」


「お話し終わったら軽い食事も持ってきてあげる。では、まず自己紹介からね。私の名前はイシュカ・ランベル。王都イダンセを拠点に活動してる冒険者よ」


「わたしはシーナ。よくわからないけどここにいるの……」


「あはは……それって誰かに捕まって連れてこられたとかだったりするのかな?」


 ここは一気に行ってしまえと、いきなり核心を突く質問を投げかけてみたが……。


「うん。浜辺に貝殻を拾いに行ったら美味しそうな魚が打ち上げられてて~近づいたら……あとは気づくと船の上?」


「そ、そうなんだ……」


『この子また捕まる。絶対捕まる……』と心配になるイシュカであったが、そこは自分で気を付けていただくしかないだろう。


「ねえ、ここはどこなの?」


「ここはね、アース大陸のワカルフという街。大陸最大の奴隷市場があるんだけど、おそらくあなたは奴隷狩りに捕まったんだと思う」


「シーナが奴隷……」


「うーん。シーナの場合は奴隷というよりは、体が目当ての変態さん用に捕まった感じかな」


「うえぇ~~~~~~」


 シーナは『ふるふる』と顔を左右に振りながら顔を蒼くする。何かの場面を想像してしまったのだろう。


「シーナはアマゾネスでしょ? だとすれば見かけより年齢はいってないはずよね?」


「どうなのかな、わからないけど歳は十五だよ」


「ここらへんでも褐色の肌の人はいるけど、アマゾネスはまず見かけない。それにシーナみたいに可愛い子は悪目立ちしちゃうかもね。まずはこの部屋に匿ってあげる」


「ありがとう。イシュカはいい人だね」


「うんうん。シーナは可愛いわね。お姉さんに全部任せておきなさい。痛くしないから」


『んっ!?』と少し会話に変なところがあった事を疑問に思うシーナだったが、『こてん』と首を傾げる様子は非常に愛くるしい。

 とりあえずは自分の安全がある程度確保されたので、そこは気にしない事にしたようだ。

 その後もイシュカはシーナからいろいろと聞き出していく。それにより分かった事を簡単にまとめれば次のような事だ。

 名前はシーナで歳は十五歳。南方にあるアマゾネスが住む島の一つ、ビスカス島で捕まりここへと連れてこられたという事。特に何かをされる訳でもなく、むしろ三食の食事をきちんと与えられ大事にされていたのだという。食事を持ってきた何人かの顔は覚えており、今でも顔を見れば分かるというのも大きい。そして、シーナの他にも少女と呼べる年齢の者が何人か捕まっているようだという情報を得る事もできた。

 それらの事から総合的に考えると、シーナは今調べている奴隷密輸に関係していると考える事が出来た。

 貴族の為に用意されたが為に大事にされていたという可能性。アース大陸ではあまり見かける事のない希少性。なにより今の成長過程を楽しむ事を目的とし、貴族がアマゾネスを欲したと考えればしっくりとくる。

 この依頼は時間がかかると覚悟をしていたイシュカだったが、思わぬ所から情報が、いや、決定打にもなりうる証拠が転がり込んできたのだった。


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