表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の中の少女は俺を主様と呼び仕える  作者: 龍夢
第二章 ワカルフ編
20/48

逃げた奴隷①

 タリナ砦から馬車で半日ほどの距離に、ワカルフという街がある。

 ラターニア王国の北方に位置するその街は、メト、ラハリクといった他国の都市に近い事もあり、王国の貿易拠点として栄えている貿易都市である。

 他大陸や各国の多種多様な物資が集まる中、西の大陸にあるモルトという国だけは、同盟国のみと交易するという理由で交易がない。

 それでもモルトの物資がまったく入ってこないかと言うとそうではなく、他国経由ではあるが入ってくる。それでは、モルトから入ってくる物資はというと、海路から同盟国ラハリクを経由し、南国特有のフルーツや色鮮やかな染め物。そして、多くの奴隷がラハリクの奴隷商によりワカルフに連れてこられる。

 奴隷の殆どはモルトの奴隷狩りで捕らえられた者であったり、あらゆる国から買い取った凶悪犯罪の罪人といった者達である。


 モルトは国一つが多くの商人、中でも奴隷商人により成り立っているという特殊な国なのだ。


 一級から三級まで格付けされる奴隷の中でも、罪人のような三級奴隷と言われる最底辺の奴隷達は、逆らえばどんな目に遭うかを徹底的に教え込まれる。そうした三級奴隷達は、生きる気力さえ半ば失われ、言われた事だけを実行する人形のような存在に成り下がる。しかし、ワカルフの奴隷市場には、三級奴隷があまり出回らない。取り扱われる奴隷は殆どが一級奴隷と二級奴隷なのだが、理由は三級奴隷をラハリクがほぼ買い占めてしまう為だった。


 そんな奴隷市場の中でも一際大きな市場、カファス商会が経営する奴隷市場で騒ぎは起こった。


「奴隷に逃げられたーっ」


 ノックもせず商会事務所へと駆け込んできた男は、荒い息を吐きながらフォルターへとそう告げた。

 事務所にいる他の者達も事の深刻さが分かるのか、先程まで笑いながら会話していたのを止めると聞き耳を立てる。


「なんだと? 逃げたのはどの奴隷だ?」


「売り物じゃねえやつだ。この間ラハリクの闇商人から仕入れた例の……」


「馬鹿やろう。あれに逃げられただと?」


「飯やろうと思って見た時にはもう居なかったんだよ。まさか子供が檻の格子を曲げて逃げれるなんて思わねえって」


「くそっ。もう渡す日取りまで決まってるってのに信用問題になるだろうがっ。若い奴総出でかまわん。絶対に探し出せ」


「わかった。おい、早く人を集めろっすぐに探すぞ」


 準備を終えると慌ただしく男達が事務所を出ていく。しかし、事務所には一緒に探しに行く事なく一人だけ男が残っていた。

 フォルターは騒ぎを他人ごとのように無視する男のほうを向くと、一回だけ苛立たし気に舌打ちをする。


「カルケル、お前も探しに行け。今回だけは用心棒だからって遊ばせとく余裕はねえ。もし見つけても言うこと聞かねえようなら、多少痛めつけても構わん。裏商売がばれるよりはいい。それと匿ってるような奴がいたらそいつは処分しろ。そして、お前だけは一人で別行動だ。何かあってもこことの関係はしゃべるなよ?」


 すると、カルケルと呼ばれた男は一度だけ頷き、壁に立て掛けてあった大剣を肩に担ぐと部屋を出て行った。


「くそっ。もしこの件が公になったらもうワカルフで商売はできねえな。いや、王国を出ないといけねえかもしれねえ……」


 そう言うとフォルターはもう一度苛立たし気に舌打ちをした。


 カファス商会の代表を務めるフォルター・エイメタは、数年前に父親のカファスからこの商会を継ぎ、裏では人に言えない事に多く手を染めながらも商会をここまで大きくした。父親が経営していた頃と比べると倍ほども資産は増え、雇っている者の数も三十人以上と、ワカルフの奴隷市場では一番の勢力を誇っている。だが、ある奴隷が逃げた事により商会は窮地に立たされる事となる。


 これは、エルジェ達がワカルフへと来る前日の出来事であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ