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夢の中の少女は俺を主様と呼び仕える  作者: 龍夢
第一章 転移・タリナ編
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タリナを知る③

 これから如何するかと頭の中を整理していると、ロウホ達がエルジェのほうへと歩み寄ってきた。

 ロウホは少し難しい顔をし、クガンはその後ろを付き従う。それに並ぶカナンはなぜか薄っすらと頬を赤く染めている。


「エルジェ様、お疲れ様でした。まさか素顔を晒されるとまでは思いませんでしたが……」


「いつまでも仮面を付けたままだと気味悪がられるかもしれないしなあ。今日のように砦の者が多く集まる場なら、ちょうど良いと思ったんだ。それと勘違いをされたままで堅苦しい思いをするよりは、自分も人と変わらないという事を言っておくのは必要な事だしね」


「まあ、タリナの民にとっては、降臨したという事実が変わるものではありません。おそらく砦の皆が今の言葉で接し方を変えるという事はないでしょうな」


「そうなのかなあ? まあいいけど……」


 簡単に元の世界へと帰る事が出来ない以上、右も左もよくわからないこの世界で、早々と砦を追い出されるのは正直まずい。

 そうなればそうなったで、冒険者にでもなってしまえばいいかとも考えるが、その場合はナユとだって一緒にいる事は出来ないだろう。そして、異世界人だという事を隠した窮屈な生活を強いられる可能性だってあるのだ。

 『そんなのは御免だな』などと考えていると、三人ほどが自分のほうへと向かい歩いてくる。

 その姿を見たナユは嬉しさで顔をいっぱいにしながら声を掛けた。


「父様、母様、そしてサユも」


「父様? ナユの家族かい?」


「はい」


 嬉しそうに頷くナユの姿を一瞥すると、エルジェはナユの家族のほうへと顔を向ける。

 両親を見た後、エルジェはサユへと目を止めた。

 サユは目を輝かせ何か言いたそうにしながらエルジェを見ている。おそらくあと数年もすれば、ナユに負けないほど美しい娘に成長するのではないか、そう思わせるほど整った顔立ちをしている。


「エルジェ様、お初にお目にかかります。私はジルクと申します。一緒にいるのは妻のミサラと娘のサユです。ナユには至らぬ所が多々あるかと思いますが、側仕えとしてどうかお近くにお置きください」


「いや……」


 どう返事をすれば良いのか困ってしまった。そもそもが成り行きとはいえ、助けただけで他人の娘を自分の所有物のように扱う事などは出来ない。しかも両親が今目の前にいるのだから、本来なら娘を返してほしいと言われても可笑しくないと思うのだが、ナユの父ジルクは娘を側仕えにしてくれと頼んでいるのだ。


「ジルク、神ではなく人だといった俺に娘を返してほしいとは思わないのか?」


 この言葉にはジルクも少し驚いた顔をしたが、すぐに破顔し顔を左右に振った。


「昨日の儀式の前、すでに娘とは別れを済ませているのですよ。それは神に仕えさせる為という理由ではありましたが、もう二度と会う事などできないと、覚悟を決めての事です。そこに現れたのがエルジェ様であれば、そのまま仕えさせるのに問題はないでしょう」


「……それはそうかもしれないが、というかそうなのか?」


「娘はもう成人もしております。親離れをするにもちょうどよい機会でしょうから」


 ナユの両親を目の前にしてまだ少し迷いがあるエルジェ、そんな様子を見ていたサユが今度は口を開く。


「エルジェ様、ナユが気に入らないんだったら、サユを側仕えにしてください。あっ……ナユと一緒でも構いませんよ?」


『なっ!?』


 この場にいる皆が呆気に取られる中、最初に口を開いたのは姉のナユだった。


「ダメです。サユ、側仕えは遊びではないんだから。それに父様と母様をお願いしますっていったでしょ?」


「えぇ~っ。ナユが遠くに行った訳でもないし、同じ砦にいるんだもんいいじゃない。それにエルジェ様は超かっこいいもん」


「ダ・メ・で・す」


 姉妹のそんな会話にエルジェが困った顔をしていると、更に追い打ちをかけるように会話に入ってきたのはカナンだった。


「カナンもエルジェ様のお側においていただきたいです。だめでしょうか?」


「えぇ!? ちょっと皆落ち着いてくれ……」


 これには流石にエルジェも参ってしまう。なんだかよく分からないが、いきなり異世界ハーレム状態になりそうな展開である。少しだけ誘惑に負けそうになり、それも有りかなどと考えなくもなかったが、カナンには朝の時点で自分の女に対する価値観を言っている。それだけに「はい、いいですよ」とは間違っても言えなかった。


「と、とりあえずナユだけで今は十分だから。俺の身の回りの世話だけに何人も仕えるのは無駄が多いだろう?」


 尤もな断り文句にサユとカナンはがっかりし、ジルクやクガンは安堵する。ナユはうんうんと頷いているが、他の二人はまだ納得していないのか、何かを言いたそうにしている。


 すると、この機を逃すと会話に入れないと見たのか、ロウホが咳払いをして注目を集めた。


「そろそろ鍛錬の始まる時間になります。訓練場へ行きましょうか」


「ああ、そ、そうだな。よろしく頼む」


「むぅっ…」


 可愛らしい頬を不満気に膨らませるサユとカナンとはなるべく目をあわせないようにし、エルジェはロウホ等と一緒に砦の訓練場へと向かうのだった。


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