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毒白

煙の中のエトセトラ

作者: 木嶋 いるか

口腔からゆっくりと煙を吐き出すと、淡いブルーグレーのベールが空中に広がる。

甘酸っぱい芳香が嗅覚をくすぐるたび、私のまだ衰えていないものを感じてわずかに安堵する。

もう1年以上服薬を続け、思考は鈍く記憶は脆く、言葉のほとんどが味気なく感じるようになってしまった。寂しさばかりが独り暮らしの部屋をゆったりと満たし、廃墟のごとき脳内には泡沫さえ見当たらない。いつしか自分を構成するものに価値を見出せなくなり、幸福も不幸も日々の中にある小さなものにしか感じられなくなった。

それがおそらく、私のすべてだったのだろう。

認めがたいが、ずっと前から。


細身な薄緑色の箱には繊細なエンボス加工が施され、女性の名を思わせる銘がメタリックブルーで印字されている。そのデザインはどことなく大人びていて、媚びた感じがない。

ナンセンスな警告表示も今は気にならなくなってきた。

箱を開けると上品なメンソールと花とも果物ともつかない甘い香りがする。これがいわゆる「女性向け」とされるものの特徴だろう。

シリーズこそ違うが、似たようなものを既に持っていたことを思い出す。こちらはピンク色のグラデーションに銀色で銘が印字されていて、装飾的な印象である。

フィルターを覆う紙にも淡いピンク色のグラデーションが施され、可愛らしさすら感じる。メンソール感の少ない煙を鼻から吸い込むと、バラ科の花のような香りがする。

この2つは最近のお気に入りであるがゆえに、消費が早い。

同じく女性向けのシリーズでありながら箱は普通のサイズでデザインも赤と黒の硬派な印象のものもある。

これには香り付けがされておらず、代わりに強烈なメンソール感がある。うっかり鼻から吸い込もうものなら咳き込み、しばらくの間粘膜を清涼感と痛みが襲うことになる。

ヘビースモーカーの両親のもとに生まれた私はこれくらいどうということないつもりだったが、彼らは余計な香り付けがされているものを嫌ったため、メンソール系のものは盲点と言っても差し支えない程度に無知だった。

切なさに眠れなくなる夜、キッチンの引き出しに入れたまま未開封だったそれのビニール包装を解いて1本取り出し、火をつけた。怠惰な気持ちとえもいわれぬ孤独感は最初の一服を吸い込んだ途端に消え去り、私はひどく噎せた。

それ以来、憂鬱な気分の日はそれを吸うことにしている。


幼少の頃から好奇心の塊だった私は、一箱吸い終わる前に違う銘柄を買ってきては吸い比べるということをしている。20歳になって半年と経っていないが、家のキッチンには数種類の箱が積んである。

ハードケースの煙草はほとんどが化粧ポーチに入る大きさで、持ち運びやすくデザインもいいため、気に入っている。しかしソフトケースも捨てがたい。ジーパンのポケットに無造作に突っ込まれてくたびれたソフトケースの質感は労働者のような風格すらある。

また、今となっては別居している父が吸っているのもほとんどがソフトケースの煙草だった。小さい頃からお父さんっ子だった私にとってはそれもあるのだろう。


新年度の健康診断で喘息の治療中であることを告げると、精密検査を受けさせられることになってしまった。

それでも私はしばらく喫煙をやめないだろう。寂しさを慰めてくれるのは今のところ、これくらいしかないからだ。


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