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また俺死ぬの? その二

「来年の一月一日、あなた達は明治神宮で初詣をするの。その時、何十台もの族車が狂ったように暴走を始めて……あなた達は轢かれてしまうの。日の出暴走を終えた暴走族のお兄さん達よ」


「また車に轢かれんの? 痛そう。まあトラックより痛くないか」

 他人事のようにそう言ったぼくは気づいた。


「じゃあ、神宮に行かなきゃいいんだよね?」


「それがね……そこには玲央奈……わたしの本家がいるのよ。玲央奈も有紀美も達志君も赤い車に跳ねられ死んじゃうの」


「えー。また玲央奈も死んじゃうんですか? 分かりました。なんとか助けます」

 どうせ死んだとしても、また有紀美が生き返らせてくれる。ぼくは簡単に請け負った。すると葉月さんは涙を流しながら大声を出した。


「真剣に考えて! わたし達分家は三回しか過去に帰れないんだよ。本家のわたしが過去に帰って分家として生活する。その分家はあと三回しか過去に戻れないの。有紀美はあなたを助ける為に既に三回戻っているの。今度死んだら有紀美はもうあなたを助けることはできないの! わたしもお父さんを助ける為に三回戻った。だからわたしも達志君のことは助けることができない。だから……自分の命を、有紀美の命を……。お願い」


「三回……なんだ」

 有紀美は最後の命をぼくに捧げてくれたんだ。そう思うとますます有紀美のことが愛おしく思えてきた。


「でも、俺だけでその……暴走族を止めるなんて。あ、警察に話そうよ」


「馬鹿ね。科学の発達した日本の警察が、こんなこと信じてくれるわけないでしょ? 宗教の教祖様が力を持ってる発展途上国ならまだしも」


「だよな」


「誰か、達志君の為なら協力してくれるような親友とかいないわけ?」

 葉月さんは苛立ちを隠さず、ぼくにそう言い寄った。


「親友かあ。野球部の誠くらいかなあ。腕っ節は強いけど、何十台もの族車でしょ? 助けにきて貰ったはいいけど、二、三台くらい相手するのが関の山っていうか……」


「誰でもいいわよ。少しでも力になってくれるなら。わたしがその……」


「誠ね」


「うん。誠さんにタイムトリップのことから全部説明するから、協力してもらおうよ」


「うん。でもそれで誠まで死ぬことになるなら葉月さんのこと怨むよ。毎晩、毎晩、枕元に立って呪い殺すからね」


「怖いな、もう。大丈夫。その辺もちゃんと話をするから。誠さんの電話番号教えて」


「ぼくは何度も死んだ身で、有紀美のお陰で今生きてるようなもんだけど、誠はこれからも人生楽しいことがいっぱい待ってるんです。絶対誠だけは死なせないようにお願いします」




『はい。片桐です……はい、達志はぼくの親友ですが、達志がどうかしたんですか?』


「突然すみません。わたし、達志君の友達で伊集院葉月と申します。実は達志君の命が危なくて親友のあなたに電話させていただいたんです。…………だからわたしから聞いた話を達志君に言わないでほしいんです。言ってしまうと誠さんは心臓発作を起こし死んでしまうことになるんです。それで来年の元日なんですが…………」


「突然の話で信じろと言われても……なんていうか、信じられない話ですよね」


「はい。信じられないのは当たり前のことです。わたしが未来から来たことを証明できればいいんですね?」


「あ、はい。でも、どうやって……」


「来週の日曜、競馬のG1レースが行われます。その結果は馬番で2―8、配当は千二百八十円。わたしが前世で買った初めての馬券が当たったのでよく覚えているんです。でもその馬券は買わないで下さいね。未来を知っているわたし達がそれを利用してお金を稼いだり、人に教えて稼がせたりすると罰せられてしまうんです。競馬の結果を見て信じてもらえたらわたしに電話して下さい。わたし……どうしても達志君を助けたいんです」


「分かりました。来週また電話させていただきます」


 ぼく達はお店を出た。夜七時を過ぎていたのだけれど、空にはまだ明るさが残っている。鳥が逆のV字型に戦隊を組み、マーチングバンドを思い出させるほど綺麗な列を成し飛んでいった。


「誠、信じてくれるかな」


「大丈夫。来週電話くれるって。あ、そうそう。有紀美から聞いたかな。わたしたちと同じ能力を持つ人が日本に二十人くらいいて、そのうちの三人が……」


「浦安にいる。でしょ?」


「知ってたんだ。あと二人ってどこにいるんだろう。まあ、関係ないけどね」


「あと一人じゃ……あっ、そういうことか。有紀美と葉月さんは同じ本家だから、残り二人いるってことなんですね。しかし今考えても不思議な話ですよね」


「そうね。普通じゃ考えられないもんね。じゃあ、帰るね」

 葉月さんは自転車にまたがり、頭をくるりと向こうへ向けた。長い髪がぼくの目の前をふわりと通り過ぎると甘い香りが流れてきた。

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