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海行こう?
8月。蝉の鳴き声が日本中に響き渡る。
夏、青い空、風が熱気と湿気を連れてくる。
「海行きたいな」
教室の窓際の席で、ぼーっと外を見ながらぽつりと呟いた、何気ない一言。全てはこの一言から始まった。
「行く? 海」
頭の上から覗き込むようにして、幼なじみの希が言った。
「んー、行きたい。けど、めんどい」
「まーたそういうこと言う」
「だってめんどい」
「そんなこと言ってると、いつまでも彼女できないよ?」
「けっこうです」
ふざけ半分で希は言う。けど、それは俺に重くのしかかる。
もう、きっと届かない。
「で? 行くの? 行かないの?」
「だから、行きたいけど―――」
「よし行こー!」
「……めん…どい…って、言ったよね」
「行きたいんでしょ? なら、行こうよ!」
こうして、半ば強引に、希と海に行くことが決まったのだった。