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作者: ユアリーカ

 そいつは薄っぺらな密林の中にいた。

 まんまるの黒い目が白く縁取られている。木漏れ日を浴びて明るい緑の羽根が鮮やかに輝いている。メジロだ。

 下校途中に通りかかった垣根から鳴き声がした。

 まるで耳元で鳴いているように聞こえて、足をとめて顔を向けると、すぐ目の前にそのメジロがいた。背の高い垣根は奥まで三〇センチくらいの厚さがあり、葉はまばらで日の光を透している。その垣を内側で支えているらしい横に走る竹の上にメジロが留まり、鳴いていた。

 おれを呼び止めたのか。

 顔を近づけると、ピピッと鳴いて垣の向こう側から飛び出して行ってしまった。

 なんだよ。そっちから声をかけてきたくせに。


 どうでもいいようなことなのに、ほんのちょっとしたことなのに、頭の中に嫌な気分が沸きおこってくる。一人の人間の小さな頭の中で、大きな嵐がぐるぐるといろんな記憶を巻き上げて、意識の表面にあふれさせていく。嫌な記憶を。


 おまえ、アイツと付き合ってんのかよ。

 はぁ、付き合ってるわけねえし。

 見たってやつがいるんだよ。おまえとアイツが――

 あたしが誰と付き合おうが勝手だろ。


 奈緒子は吐き捨てるように言って、行ってしまった。


 なんだよ。


 あれは雨の日、下校のときアイツの傘の中で奈緒子が上を向いているのを見たのは、おれだ。傘が降りてきて、アイツと奈緒子の顔を隠す。


 くだらねえ。くだらねえな。

 くだらねえ執着はやめろ。つまらねえことばかり考えるな。

 メジロだ。メジロがいけねえんだ。ちくしょう。


 メジロの行ってしまった垣の奥をぼんやりと見ていると、白いものが風に揺れている。風がカラカラという乾いた音を運んでくる。聞いたことのある音。

 それは洗濯物の音だった。垣根の内側のベランダに干してある、レースのついた白い下着がくっきりと目を射る。

 その途端、体中の血管に炎のように熱い熱湯が注ぎ込まれたようになって無我夢中に走り出す。垣のトゲのある葉が頬を擦った。

 ちくしょう。何をやってんだおれは。ちくしょう。

 全速力で走るおれの横をピピッといって小さな鳥が追い越してゆく。

 メジロめ。

 メジロなんて、絶滅しちまえ。



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