バーサーカー・ヒーラー ~落ちこぼれ修道者の異世界冒険記~
勢い余って書いてしまった。
誤字・脱字多いかもしれません……
一人の青年がいた。
背の長けに合わない大きさの大太刀は彼をちっぽけに見せるほど存在感のあるものだったが、彼の表情が透けて見えるほど存在感の無いのもその要因なのかもしれない。
彼は世界に数多く存在するダンジョンの攻略を目指す冒険者である。
ダンジョンにはコアがあり、そのコアには膨大な魔素が含まれている。
手に取ったものの想像を元に、コアが物質化、はたまた能力化する。
まさに願いが叶う魔法の石なのだ。
金、武器、秘薬、不老不死。
あらゆるものが手に出来る夢の石なのだ。
それを求め、多くの冒険者がダンジョンに挑むのである。
彼もまたその一人。
「このダンジョンも外れ臭いな」
ダンジョンのコアは、年数や周辺の魔素の溜まり方によって質が変わっていく。
ダンジョンは日々成長し、階数も増やしていく。
成長したダンジョンのコアは、その分魔素の要領も多く、願ったものが現実化しやすい。
誕生したばかりのコアでさえ、不老不死が可能なのだが、彼が追い求めているものが途方も無く大きいことが言える。
「出来てから大分年数が経ってるって聞いたから着てみれば、魔素が完全に枯渇しているな」
彼は迫り来る魔物達を大太刀で、虫を払うかののように薙ぎ倒していく。
「折角だし最下層まで行ってみるか」
基本ダンジョンには4~6くらいの人数でパーティーを組んで挑むのが常識化している。
階層が多ければ、ダンジョン内で連泊もありうるし、睡眠時の見張りや、食料の運搬など気にかけなければならない。
食料は、ダンジョン内で自給自足できることもあるが、食べられない魔物もいるので用心に越したことは無い。
それでももっていける量には限界があるし、最下層へ辿り着くなど、ほぼ不可能といってもいいのだ。
なぜ、冒険者が不可能なダンジョン攻略をするのかというと、主に副産物が目当てな者達が圧倒的に多い。
ダンジョンは云わば魔石の洞窟である。
魔石は、魔道具の燃料にもなる為需要が多い。
魔法が使えない人たちが、快適に生活する為に無くてはならないものなのだ。
また、魔物の素材も良く売れる。
革製品であったり、食料であったり、薬の原料であったりと様々だ。
ダンジョンには広く広がったエリアがある。
不用意に真ん中までいってしまうと……
「しまった! 囲まれた!!」
今日もパーティーが危機に陥ってしまった。
倒しても倒しても湧き続ける魔物は、冒険者の精神を磨り潰し、やがては力尽きてしまう。
「おい、後ろはやっといたから、今のうち引け」
「す、すまない!」
少年は魔物に囲まれているパーティーの横を、いつもの散歩道を歩いてるかのようにまったりと進み、襲い掛かる魔物を軽く打ち払う。
「この辺は手ごわいだろう。上にまだいい稼ぎ場があるはずだ」
「あ、あぁ、恩に着る! 引くぞ!」
(まぁ、直ぐにこのダンジョンも無くなるだろうけど……)
ダンジョンのコアが無くなれば、ダンジョンは消滅し、副産物も無くなる。
それらを生業にしていた冒険者初め、町や村、国は困る訳だが……
(他の奴らの事情なんざ知ったことではない)
この男、自らの目的ならば他人の事情などお構い無いのかもしれない。
蒼い光が薄暗く光り、頑丈そうな鉄の扉が立ちふさがっている。
「さて、いっちょやりますか」
最下層――――そこにはコアを守る守護者がいる。
魔素の結晶である魔石を体中に生やし、体全体も魔石化しているようだった。
「なんだ、お前が魔素の枯渇の原因だったか。にしても食いすぎだ」
「GYABAAAABABABABABA」
亀のように背中に山のように魔石を担いでいるようだ。
咆哮は空間を震わせる。
「先手必勝! うらぁあああああ!!」
青年は、巨大魔石亀の懐に爆発的脚力で飛び込み、腹の部分を大太刀で上段から一気に振り下ろす。
「ちっ、かてーな」
「GYABABABABA」
全長10mはあろう巨大魔石亀は、体を捻りながら遠心力を使い、尻尾をぶつけて来る。
もちろん尻尾にも魔石がこれでもかと付いている。
「うがっ」
全身をハンマーで殴られたような衝撃を浴びせられ、一瞬意識を飛ばされそうになるが、立ち直る。
「図体がでかい割には素早い動きだ」
それからというもの、なんども太刀傷を負わせるが、致命傷には全くならない。
「はぁ、はぁ、はあぁぁぁー。いいぜ、何時間、何日でもつきやたらぁあ!」
その後3日に渉り戦闘を行い、ダンジョンは消滅した。
「硬いだけだったな……はぁ、はぁ」
奥には青白い光のコアが浮かぶ
「こんなもんの魔素じゃ、あいつらは救ってやれねーな……しゃあね、近場のダンジョンも荒らしに行くか」
少年は此処最近で、街の周囲に顕在していたダンジョン3ヶ所を層破してしまった。
ダンジョン都市といわれた街も名が折れてしまい、寂れた、唯の田舎町になってしまうだろう。
ここまで彼を掻き立てる説明には長い説明が必要になる。
レイティア地方にそびえる堂々たる山脈の一角にその修道寺院があった。
地名から名前を取り、レイティア寺院と名付けられたその場所が、修道者の総本山であった。
レイティア山脈には、魔素が多い。
だが、不思議なことに男性にはあまり変化が見られないという特徴があった。
その為、世界中から多くの女性修道者が多く訪れ、聖魔法の技術を競い合い、いつしか修道者の男子禁制の教育機関となっていった。
魔素が多い場所で魔術の鍛錬を行なうと、魔力の上昇や魔法スキルの取得スピードが上がるのだ。
そんなある日、男子禁制のレイティア寺院に一人の男の子が空から降ってきたのだった。
彼は何の前触れも無く、正に空からゆくっくりと下りてきたのだった。
当時、神の子だと職員の間では騒ぎとなったが、男子禁制の寺院に男ありとはどうなのかと物議をかもした。
当時の寺院責任者であるシスター・メルシアは、あまりの出来事に驚いたが、いくら男子禁制だからといって無下に出来なかった。
こうして、レイティア寺院初の男子修道者が誕生したのだった。
「ねぇ、レックス。またこんなところでサボってるの? そんなんだからいつまで経っても神様からお力を授かれないのよ」
男の子が舞い降りて、早や10年。彼はすくすくと育ち、体も大きくなっていった。
彼女は途中からレイティア寺院へ入山してきた同い年のエレナである。
「もう散々頑張ったけど、授かれないから諦めた」
授かる授からないとは、レイティア寺院で教えている回復魔法などの聖魔法である。レイティア寺院の周りには、魔素が多く湧き出るパワースポットのような場所であり、魔術を習うにしてはかなり適した場所であった。
「それでも腐らず頑張らないと!」
大抵レイティア寺院で2~3年修行すれば、最低止血するくらいの魔法は使えるようになるのだが、レックスは魔法の類を一切使えなかった。
「いいよなエレナは、もう中級の回復魔法齧ってるんだろ? いやみにしか聞こえないぞ」
魔法には初級、中級、上級とあり、上級の上は戦略級と呼ばれ、一人で戦場の状況を変えるとまで言われている。
「そうやって不貞腐れて! 昔はむきになって張り合ってきたじゃない! 私はレックスに頑張ってもらいたいの!」
「そうですか~俺には魔法は向いてなかったんだよ! ほっといてくれ!」
レックスはからっきし魔力が無い訳ではない。寧ろ人よりもかなり多いといわれているのだが、魔法の詠唱途中で、練り上げた魔力が霧散してしまうのだった。
「エレナ~そんな落ちこぼれほっといて行きましょうよ~」
「そうよ! あんたには泥仕事がお似合いだわ!! 畑でも耕してなさい」
「言いすぎよ、レベッカ、ミスティー」
「何々? エレナこんな奴庇うの~? 惚れちゃってる訳? こんな無能なのに?」
「そもそも、男が此処にいるってだけでおかしいわ。自立できるようになったんだから、さっさとここから出てけば良いのよ」
「うるせぇな~俺にかまってる暇があったら、少しは聖魔法の練習でもしてろや」
「「「あんたに言われたくないわよ!!!」」」
澄み渡る青空の下、芝草の上に寝転がりながら自分の居場所がなくなりつつある危機感をレックスは強く抱くのだった。
結局夜まで転がっていたレックスは、肌寒さを感じて自分の部屋へ戻った。
レックスには日課があった。
8歳の頃、自分に魔力があるのに聖魔法が使えない事と、周りの子供があっさり使ってしまう事に落胆したレックスは、悔しさのあまり岩に向かって拳を振り上げた。
その岩は脆く崩れ去り、レックスは自分の行なった事を振り返り、魔力に身体を強化できる作用がある事に気が付く。それ以来自分の体を巡る魔力を錬りながら、身体を強化する鍛錬を行なっている。
夜は寝る前に魔力の鍛錬を。朝には軽いジョギングをしてから素振りを行なっていた。素振りといっても桑を持って、畑を耕す振りをしながらである。その為寺院の同期、先輩、はたまた後輩までレックスを馬鹿にするようになっていった。彼は聖魔術を使えないから、畑仕事をさせられていると。
しかし、本人はいたってマイペースであり、自分には身体強化があるからいいかと前向きに思うようになり、自分の旅立つ日までの準備をしようと思うようになっていった。
そんな時、レイティア寺院周辺で魔物が現れる事件が発生した。レイティア寺院周辺には聖魔法により強力な結界が張られている為に、魔族の侵入は出来ないとされていた。しかし、結界魔術の更新時期をたまたま狙われてしまったらしい。
レックスはいつもの日課通りジョギングしている中、目の前に翼の生えた黒いライオンが、赤い目を光らせ唸り声で威嚇を始めたのだった。
「な、何なんだよこいつ!」
「GYAAAAAAOOOOOO」
「くるなぁあああ!」
直ぐに足を強化し、寺院へ走る。強化された脚力なら、例え飛んでいる魔物だろうが追いつける筈が無いと思った。
だが甘かった。
魔物の飛行能力は、レックスの走力を遙かに凌駕し、レックスの背中に鋭い爪で引き裂かれ、倒れた所を食いちぎられた。
その後の事はレックスも覚えていない。
レックスは無傷で発見され、魔物は胴体だけがその場に残されるだけだったという。
その後レックスは自分の体だけ、魔力を使い修復出来ることが分かったのだが、なぜ魔物の頭部が消し飛んだのが分からなかったが、生きている事に満足して、深くは考えはしなかった。誰か助けてくれたのかもしれないと心の中で思うことにしていた。
レックスが8歳の頃の話である。
レイティア山脈の冬は厳しい。
蒔きで暖を取らなければ凍えてしまう。
レックスはというと、自身の魔力を使えば体温も調節できる為、暑さ、寒さといった概念がなくなっていた。
今年の冬は一段と厳しく、蒔きの節約で寺院は寒く冷えていた。
そんな中、一人半裸の男が雪の中で斧を片手に蒔きと猪を担いで持ってきたという噂が流れた。
噂というの視界が悪く、誰もその顔を見た者がいなかったのだった。
レックス本人も否定し、男の正体は神の使いということになり、寺院の伝説となった。
だがエレナは神の使いはレックスと確信していた。レックスの靴が雪で濡れていたのを一人気付いたからだ。
その後エレナは、レックスに対し見る目が変わっていったのだった。
今までレックスは、寺院の中ではかなり異端な存在であった。男であるし、平気で動物を狩る。
だが、そんな異端児の優しさを垣間見たエレナは、レックスに心を引かれてしまうのだった。
時は流れ、レックスは14歳となり、寺院を出る一年前となった。15で寺院を出るというのは長年の伝統であり、誰もが聖魔法の中級をこなし、一人前と認められる歳であった。
しかし、シスター・メルシアはレックスをこのまま外へ出すことか頭を悩ませていた。
彼は聖魔法はおろか魔法さえも使えない身寄りの無い唯の一人だと思っていた。一人突き放し、奴隷商人に力なく攫われてしまえば一生使用人として扱き使われる人生となってしまう事に恐れていた。
そんな心配を他所に、彼は山の中を走り回り、得物を狩っては肉を焼いて食べたり、スープを作ったりしていた。
「うは! 今日は鹿が獲れたわ!!」
「レックス可愛そうよ……」
「なんだよエレナ。俺の飯横取りすんじゃねーだろうなー」
「する訳ないでしょ!! レックスは野蛮すぎる」
「知るか! 食わなきゃ死ぬのは俺らだぞ」
「他に食べる物があるじゃない?」
「木のみや山菜か? それを食ったらこいつら餌無くて結局死ぬぜ?」
「違う山に移動するわよ!」
「そうよ野蛮人!」
「やばんじーん!!」
「うるせぇええ! 野蛮で結構」
レックスは寺院の中では最早異端児を超えており、後輩からは恐れられて近付かれもしなかった。
正に孤独。
趣味といえば狩りと食事だった。
寺院の食事は質素で味が薄い。
鹿の肉を焼いて食う。
熱した鹿の油が喉を絡める。
これがたまらない。
この味を知ってから狩りの魅力に嵌っていき、罠の張り方、気配の消し方や見つけ方などの感覚も鋭くなり、自己流だが動物の解体も上手くなっていった。
何故後輩達から怖がられたのか。
解体後のレックスの姿を見られてしまったに限る。
血まみれの服に、大き目の鉈を肩に掛け、干し肉用に切り取った鹿の太ももから下を蹄を掴んで持った姿は、凶悪な悪魔にしか見えないだろう。
寺院では、学校のようにクラス分けされて座学や実技を行なう。主に聖魔法や人体の構造である。
聖魔法の回復魔法は、傷口を塞ぐ事から始まり、臓器の破損、骨や靭帯の再生など。
上級までいくと、失われた臓器や四肢など、無いところからの再生も行なえる。
「では、ペアになって回復魔法を掛け合ってください」
教壇に立つ修道着を着た教師が言う。
教師は複数人いて、彼女らが得意とする分野を教えてくれえる。
レックスは聖魔法が行なえないので、ペアはいつも教師となる。
「なぁ、シスターメンピス。聖魔法は俺は無理だから、もっと体の構造を教えてくれ」
「いいでしょう。本当はレックスに諦めず聖魔法の修練を行なってほしいのですが、無理強いは教えに反します」
「いつも感謝します」
レックスは人間の靭帯や構造などを学習していた。
レックスは対人戦で役に立つだろうなと、軽い気持ちであったが、メンピスには悟られていた。
彼女自身争いごとは嫌いだし、人を助ける事の為に教えているのであって、人間の殺しかたを教えているわけではない。
最初は抵抗があったが、レックスが毎時間一人で何もせずに過ごすのは忍びないと思い、渋々了承していた。
「れっくす~そんなもん詳しく知ったって、聖魔法は覚えられないぞ~」
「きゃはは。此処を出たらどうするんだろうね~」
野次はいつのも事だ。
身体強化と自然治癒は誰も知らない秘密だった。
レックスは此処を出たら冒険者でもやろうかと思っていた。
冒険者は遺跡や洞窟など、魔力が集まりやすい場所に出来るダンジョンを探索し、魔石や、マジックアイテムや魔物の素材などを収集し、それらを売って生計を立てている者達である。
寺院の先輩でも、冒険者のパーティーに入り、ダンジョンへ潜っていく人もいる。
だが聖魔法は貴重で、殆ど街の教会などに配属になり、国民の怪我や病気を治す仕事をする。
その方が給金もいいし、何より安全だ。
安全にお金がいい仕事があるのに、わざわざ危険を冒して冒険者になるものは少ない。
基本血の気の多い変わり者が年に1人なるかならないかである。
レイティア寺院には書物が多い。
印刷技術の無い時代にもかかわらず、図書室には膨大な数の書籍や図鑑などが並ぶ。
というのも各土地を治める貴族達が、お布施として持ち寄るのである。
というのは前向きな話で、地方貴族にとって、自分の領土を潤す事が使命であり、そこに暮す人たちがいなければ成り立たない。
その為健康を維持させる為にも修道者を引き入れたいと躍起なのだ。
本や、食料、衣類などの物資なども送られてくる。
レックスは授業をサボっては図書室に篭り、歴史、図鑑、冒険録などを中心に読み漁っては将来の自分を考えていた。
「あれ、こんな所に洞穴なんかあったっけ?」
ある日、日課のジョギング中に見つけた洞穴にレックスは違和感と、多大な好奇心を抱いた。
「ちょっと覗いて見るか」
後に分かったことだが、レイティア山脈で初めて確認されたダンジョンであった。
中は薄暗いけども、暗くは無く。
光が入っていないにも関わらず壁はほんのり明るい。
しばらく歩いていくと、大きく開けた場所に入った。
奥には青白く光る球体。
その手前には球体を守るようにして仁王立ちする巨大なオーガがいた。
「でかい……」
オーガは人型で、肌は緑だが、このオーガは燃えるような赤だった。
額には一本の角を生やし、左手には刀を持っている。
「刀もでかい!」
オーガの持つ刀は刃渡り90cmの大太刀。
しかし、オーガも2m以上の長身なため、大きさが目立たないのが驚きである。
「まさか! これがダンジョンってやつなのか! ということは後ろの球体がコアで、それを守るのがダンジョンマスターってわけか……できたばかりのようだな」
ダンジョンは人や魔素を食うことで成長する。
そして、成長と共に階数や魔物も増え、より強固なダンジョンになっていく。
ただ、ダンジョンのジレンマとして、成長すればする程人間が集まり、身を滅ぼしかねないということにある。
ある程度成長するまで、比較的見つかりにくいものなのだが、レックスの野生的感覚がいつもと違う違和感を感じ取り、できたばかりのダンジョンへ誘ってしまったのだった。
「やってようじゃねーか。たまたま鉈持ってきておいて良かったぜ」
レックスは腰に巻きつけていた鞘から大鉈を取り出し、一歩踏み出した。
「うがぁあ」
息の詰るような威圧。
目を合わせただけでこのプレッシャーである。
「なんだこの圧力……胸が苦しい」
オーガは静かにレックスを見つめ、右手の指をピクっと動かした。
「やばっ!!」
咄嗟に後ろへ躱す。
レックスの着ていた服が裂けた。
オーガの居合いである。
「なんて長い間合いだ……こんなに遠く感じるなんて。とても踏み込めない」
「どうする……折角のチャンスなのに」
ダンジョンのコアは様々の物へと変化する。
手にした者の想像で形が変わるとされ、願いを叶えられる物として有名であった。
力がほしいと願いばコアが体に入りスキルとなり、武器、防具が欲しいと願えば強力な武器防具が生まれる。また病を治したいと願えば秘薬に変わる。
不治の病の娘を助けたいと願った貴族が、大金を叩いてダンジョン攻略隊を編成するなど良くある話で、多くの書物で見られた。
ダンジョンコアは強大な魔力の結晶であり、その魔力は測りしえない。
通常コアはダンジョンの最下層にある為、普通は辿り着けない事が専らで、魔石や魔物といった副産物で満足している冒険者が殆どである。
とても狙って取れるものではない。
しかし、レックスの目の届くところにそれはあった。
是が非でも勝ち取りたい。
だがその希望を打ち砕くオーガの圧倒的存在感に冷や汗を流す。
「此処で引いたら後悔すること間違い無し!! やってやる!」
レックスは全身を魔力で強化させ、身を構える。
オーガもそれに反応する。
パラッ……どこかで洞窟の壁が崩れる音がした。
オーガが反応する。
レックスはまだ動かない。
キャインィンィン……
金属同士がぶつかり、狭い洞窟内を音が共鳴する。
完全に後手で動いたレックスが、オーガの居合いを大鉈で受けていた。
オーガはたまらず一歩下がりながら上段から振り降ろす。
剣道でいう引き面だろう。
ビュウッ! と風と共に振り下ろされた大太刀を紙一重で躱した。
地面に大太刀が叩きつけられ、床が捲れる。
その隙にレックスは全身し、大鉈を振り降ろす。
が、突然脇腹に衝撃が入り、真横に飛ばされ壁に激突する。
「ガハッ……うっ、クソ、蹴られた」
わざと意図して隙を作り、レックスに懐に飛び込ませたのか定かではないが、オーガのローキックが見事に炸裂したのだった。
本来の人間ならば、肺が潰れ、肋骨も粉砕して動けなくなるだろう。
「ち、効いたぞ……」
だがレックスは立ち上がる。
「その程度なら何度でも向かっていってやる! 即死じゃなきゃ俺は死なねぇえ!」
そしてまた打ち合っていく。
両者共に切り傷の数が増えてくるが、レックスは傷つく度に修復され、その後の行動に支障が出ない。
一方、オーガは小さい傷が徐々に蓄積され、最初の頃よりも動きが鈍くなっているのが感じられる。
そして、初手の横薙ぎが来た。
「遅い!」
横薙ぎをベリーロールで躱すと、オーガの振り抜いた両腕を下から振り上げる形で両断した。
両腕を落とされたオーガは血を噴出し、肩膝を付き荒い息を上げている。
まだ目が死んでいなかった。
好きあらば蹴り殺そうとこちらを伺っている。
「であぁあああああ!」
だが、急速に間合いに入られては今のオーガには何もできなかった。
横一線に振られた大鉈は、オーガの首を跳ね飛ばした。
「やった……よっしゃぁあああ!!」
レックスの雄たけびは洞窟内に木霊した。
目の前にはダンジョンのコアがある。
「何を願うか……やっぱり力か。聖魔法? 今更そんなもんいらねーな」
そういうとレックスはコアを掴み取った。
コアは、レックスに反応し、体の中に入り込み無くなっていった。
「ん~……お、おおおお!」
コアによってもたらされた恩恵は、身体の更なる強化、魔素の吸収、魔法無効化である。
レックスは頭の中に入ってくる情報を、受け止めながら新しい力に興奮していた。
「魔素が……体に入ってくるのがわかる。魔力切れを起こさないとか、ボッチの俺には助かるスキルだ。魔力無効化ってのもいい。接近戦なら負ける気がしないからな」
その後、普通の洞窟に戻ったダンジョンで、オーガの大太刀も回収した。
「あんだけ打ち合ったのに刃こぼれ一つ無い。こっちの鉈はボロボロだってのに凄い刀だな」
洞窟をでると日が真上に昇っており、長い時間戦闘を行ってたか実感した。
「今日はもう帰ろう」
そういって、帰路に着いた。
部屋に戻り、そのままベッドにダイブしして睡魔にされるがまま眠りについた。
――――レックス
――――――――――――――――レックス
……誰だ……
――――レックス!
「うお!」
飛び起きたレックスの横に、涙を浮かべながらレックスを呼びかけるエリスがいた。
「なんで泣いてるんだよ……」
「だっで、れっぐすおきないんだ、もん!」
「起きないって……」
寝たときには登っていた太陽が、今では沈んでいて、辺りは暗くなっている。
「少し寝てただけじゃねーか」
「3日も寝たっきりだったんだよ! 回復魔法も効かないし!! ばかぁあああああ」
「そいつは……すまんかった」
厳しい戦闘の後だったからなのか、コアを取り込んだ影響なのか、レックスは3日間寝たまま起きなかったらしい。
回復魔法が効かなかったのも魔力無効の効果が効いてるんだなと思った。
自分の体は自分で治せるから良かった。
ただそれ以上にも、エリスは此処まで俺のことを気にしてくれているとは思わなかった。
なんでもっと早く伝えてくれたら良かったのにとも思うが、手遅れではなかったし、嬉しく思う。
「なぁ、死んでないんだし、泣くのは止めてくれ」
「ばか、嬉しくてないてるのよ! ばかばかばか」
それからというもの、二人の距離は前よりかは縮まり、二人だけの時には寄り添うまで親しくなっていった。
「ここを出たらどうするのよ?」
「国から追い出されるくらい、ダンジョン荒らし回ってやろうかと思ってる」
「私も連れてってよ!」
「死ぬからやめとけって。ダンジョンの守護者はつえーぞ」
「私も冒険してみたいー!」
「じゃあエリスが長期休暇取ったとき連れ回してやるよ」
「本当!?」
「あぁ、だから大人しく王都で治療師として頑張れよ」
「うん! そうそる。絶対来てよね!」
「あぁ、ギルドに登録すれば、手紙をどこでも届けてくれる便利なものがあるらしいから、連絡はやりあえるよ」
それぞれの旅立ちの日、寺院の就業過程を全て終了し、それぞれの力を振るえる場所へと向かう。
レイティア寺院を出た証として、銀の輪の形のペンダントが送られる。
輪のモデルは、修道者が手を差し伸べて命を繋げる形がモデルらしく、寺院事に輪に名前が彫られている。
「俺は結局回復魔法使えなかったけどな」
「さぼらなきゃ出来たかもよ」
全員と顔を合わせるのは最後かもしれないな。
嫌みったらしい嫌な奴らだったけどな。
俺は自分の道を進むとしよう。
「うぐっ」
突然浴びせられた重々しい魔力の片鱗に、感覚の鋭くなったレックスは気付かない筈がなかった。
寺院上空に翼の生えた、人肌とは見るからに違う色をもった魔族がいた。
「ほぉ、俺の気配が分かる人間がいたか。面白い」
瞬間上空の魔族から放たれた魔法により、寺院周辺に張られた結界は尽く破られ、気付いた時には全員が被弾していた。
「他愛もない。重要拠点を落とすのは戦の常。許されよ」
魔族が悠々帰還しようと思ったとき、気配を感じた。
「ほぉ、人間と言うのも面白い生き物だな。貴様、何者だ」
レックスは突然の攻撃に動揺していた。
自分は魔法無効で助かったものの、寺院にいた全員が魔族の魔法によって結晶化してしまった。
エリスも例外ではない。
「おい、おま、おまえがやったのか?」
「いかにも。魔族軍の会議にて、治癒術士から叩く作戦が決まってな。手始めにここが標的になった。悪く思うな」
「ふ、ふざけるなよ……俺達が何をしたっていうだ!」
「お前達は何もしていない。だが叩かねばならぬ。それが戦争だ」
「何が戦争だ……何が戦争だぁああああああ!!」
レックスが飛び上がった瞬間に地面に大きなクレーターが生まれた。
魔族も驚いた様子で、急いで防御壁を魔法で作り出した。
だが、レックスの魔術無効が防御壁を引き裂く
「な! ぎゃあああああああああああ」
魔族の片腕を切り飛ばし、空中から地面に叩き落とす。
「許さねぇ……ゆるさねええええええ」
「やむを得ん!」
レックスが切りかかった瞬間に、広範囲に煙幕を発動させ、再び上空へ飛び上がった。
「小僧、ここで仕留められないのが残念だが、再び合えたならば次は戦場で会おうぞ」
「くそぉおおお、待てちくしょおおおお」
煙幕が晴れた時には、時間が止まったように、みな笑顔で談笑している姿で結晶化されていた。
「エリス……ちくしょう、なんでだよ。やっと仲良くなれたじゃねーか」
エリスは、食堂で配っていたクッキーを皿に盛り合わせて、レックスの方へ向かっていいる姿で固まっていた。
「くそ……こんなのあんまりだ。エリス……エリス……」
にこやかな笑顔のままのエリスに抱きつき、体を触っても何もかわらない。
レックスの涙がエリスの結晶に流れる。
「必ず治して見せる。なんとしても!」
レックスは寺院の図書館に魔族や魔法について調べることにした。
多くの事がヒントになったが、仮設が増えるばかりで確証するものがない。
最後にレックスが手にしたものがダンジョンコアについての本だった。
「ダンジョンコア……どんな願いでもかなえる膨大な魔力の塊。これしかない」
レックスのエリス救出の為のダンジョン攻略と、魔族への復讐の旅がここから始まるのだった。
別の作品の息抜きで書いたので、取り合えず短編として書きました。
意見、要望、感想などありましたら遠慮なくどうぞ。