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シルバの試験

(脱林後)


「……zzz」


「………がぅ!!!」


「うわぁ!?」


「♪」


目を開けるとそこは見慣れた草原だった。少し先には町の門も見える。どうやら無事に林から抜け出せたようだ。俺はというとふわふわで柔らかいシルバの背中で眠っていた。いや、ホント無意識に。


「…ありがとな。」


「がぅ!」


シルバは通常フォルムに戻る。ちょうど大型犬と同じくらいの大きさ…これなら町にも入れるか?期待をこめて門番に話しかける。


「お、クエスト帰りか?……って何だその狼は。」


「うーん……まぁいいじゃん。この子って入れる?」


「さぁ…見かけないモンスターだな。普通は許可を得ないと入れないんだが…」


シルバは俺の足にじゃれついている。もう本当可愛い…


「見たところ害を加えなさそうだしいいか。役所で登録するんだったらそいつも中に入りな。」


「あぁ、分かった。ちなみにモンスターを従えてる奴らって結構居るのか?」


「そうだな……冒険者の約2割ってところだな。護衛用にって理由の奴がほとんどだ。」


「……ふーん。ありがとう。」


そう言い門をくぐる。もちろんシルバも一緒に。


(in役所)


「……おぉ。」


役所の中は人とモンスターがごっちゃになっていた。ほとんどが下級モンスターだが中には見たことも無いような珍しいモンスターを従えている冒険者も居た。スライムを肩に乗せている者も。


「人、多いな。」


「グルルル……(威嚇)」


シルバはたくさんの人とモンスターに次々と威嚇の声を上げている。やっぱ人は嫌いなのか。いや、俺にしか懐かないっていうのは愛くるしくてたまらないんですが迷惑をかけるとすっげぇ厄介なことになりそうだからな…一応注意しとくか。


「…襲ったらシルバのこと嫌いになるからな。」


「!?」


「一生話しかけない。」


「きゅぅ……」


「うん、いい子いい子。」


反省したのか嫌われるのが嫌なのかスッと大人しくなるシルバ。何故かへこんでいる。頭を撫でるとすぐに上機嫌になり足元へすり寄って来る。あぁもう可愛い。


「…とっても仲がよろしいですね?」


「!?」


どうやら受付の順番が回ってきたようだ。気づかなかった……恥ずかしい。


「使獣の登録ですか?」


「あぁ、こいつなんだが。」


まだじゃれているシルバを指差す。


「……。」


「…ダメなのか?」


受付嬢がなにやら神妙な顔でシルバを見る。そして「少々お待ちください」と残して奥の扉へ消えていった。


「…変なの。」


「がう。」


しばらくしてさっきの受付とは違うゴツゴツした男が出てきた。こちらも神妙な顔つき。もしかしてシルバはこの町に入れないのか?あの門番め……いや、門番に罪は無いのだけれど。


「……ちょっとこちらの部屋へ来てもらえないか?」


「?別に、いいけど……」


「くぅん?」


案内されたのは何の変哲も無い部屋。椅子と机と書類があるくらいだ。


「どうぞ座ってくれ。」


「はぁ、どうも。」


シルバは所謂「伏せ」の体制で俺の隣に座る。あれだけ無邪気だったシルバだが獲物を狩るような目で向かいの男を静かに見据えている。


「とりあえず、俺の名前はロイドだ。お前は?」


「アスカだ。…なんでここに呼ばれなくちゃいけないんだ?シルバはこの町に入れないのか?」


思ったことを率直に述べてみる。本当に入れないのだったら…まぁ、説得するしかないよな。


「いや、違うんだ。……アスカ、お前はモンスターの階級を知っているか?」


「は?……何となくなら。」


鑑定眼を使えば早いのだがモンスターは主に名前しか出てこないようにしている。余程の相手でなけりゃレベルとか関係ないし…


「そうか……説明させてもらうと、使獣、つまりは従えてるモンスターだな。そいつらには階級がある。一番下から下級、中級、上級。ここまでが一般の冒険者が従えているモンスターの階級だ。そして聖獣、王獣、幻獣、神獣となる。聖獣以外は国で保護されるようなモンスターだな。戦争中の国では兵器に使われることもあるほどだ。」


「……。」


となるとここに呼ばれた理由はシルバが王獣、幻獣、神獣のどれかなのか?つまり国に渡さなきゃいけないモンスターなのか?……絶対に断るね。うん。


「…シルバは差し出さねぇぞ。」


「……あぁ、違う違う。」


半笑いでロイドが答える。何だよもう…さっさと本題にはいりやがれ。


「シルバだっけか?そいつは聖獣なんだよ。冒険者が持てるギリギリラインだ。」


「……あ、そう。ギリギリラインなら帰っていいだろ?」


「まぁ待て。いくらギリギリとはいえレベル上げでもしたら神獣を超えなくも無いだろ?だからテストする必要があるのさ。」


「……テストか。めんどいな。」


「俺の長かった前置きをめんどいの一言で片付けるなよ……」


項垂れるロイドを横目に俺はシルバを見る。シルバも同じことを考えていたのか俺を見る。やったね以心伝心だ。


「出来る?」


優しく問うと自信に満ちた顔でこくこくと大きくうなずいた。


「よし、それじゃあ行くぞ。」


「何するんだ?」


「言うことを聞けばそれでいいさ。」


「ふぅん…」


ロイドはシルバにゆっくりと近づく。シルバは怯むことなくロイドを見ている。いったい何をするのだろうか?


「……お手。」


「はっ!?」


「……。」


……盛大に、期待外れだ。ほらみろ、シルバもきょとんとしているじゃないか!おめめぱちくりしてるじゃないか!


「ロイド、ストップ。何してる?」


「何って…試験だよ!」


「だから何のだよ!?これって聞く限り結構大事な試験だよね!?第一声がお手ってどういう試験だこのやろう!」


「従順かどうかはこれしかないだろうが!ほらさっさとお手しろ!!」


「何でこれしかないんだよ!シルバは犬じゃねぇぇぇ!!!」


(5分後)


「……仕方ない、一万歩譲ってその試験を受けてやろう。」


「いやお前何様…」


「こっちは受けてやってんだよ。シルバ、非常に不本意だろうがこのおっさんの言う事を聞いてやってくれ。なぁに、人生に1度はプライドを捨てることも必要だからな。」


「俺をどんだけ下に見てんだよ!」


熾烈な言い合いをし、結局はお手、お座り、伏せの3つで落ち着いた。俺はいまだに納得してないが…。


「それじゃあ……お手。」


「がぅ。(ぽん)」


「お座り」


「がぅ。(しゃきっ)」


「伏せ」


「がぅ。(ぺたっ)」


「合格だぁぁぁ!!!」


「なにこの不毛な試験……」

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