制限解除
「アスカさんはどこから来たんですか?力の原動力はなんですか?あとあなたの脚力は何なんですか?200mの恐怖を植えつけた責任とってください。」
「……はいはい。」
「答えになってません!いいですか、あなたはその気になったらこの国壊せるんですからね!?」
「いや、それは無理だろ。」
「真面目にですよ!ほら、JKJK!」
「早速使ってきやがったな。ていうかこの国壊すってどういうことだ。普通に考えて一個人では無理だろ、JK」
「無理じゃないから言っているんです!私昔から勉強だけはできますから!あなたの力とこの国全員の冒険者を集めてもはるかに上回るんですからね!」
「結局は憶測じゃねぇか、乙。」
「……っ、乙って何ですかぁぁぁ!!!」
「そこ!?」
冒険者ギルドでひときわうるさいのが俺とリース。間違えたリース。俺は静かに反論してるつもり。
俺らはタズアーレ討伐が一瞬で終わったため何かと注目されていた。特にリース、視線の集中攻撃を浴びている。
「……あの子うちらが断った奴じゃん?(小声)」
「あぁ…弱そうだったし、魔法使えなさそうだったから断った奴…(小声)」
「人は見かけによらずって言うんですかね?(小声)」
「……次あの子がフリーになったら声かけるか。(小声)」
「「「賛成(小声)」」」
「……だってよ。よかったな。」
「……良くないに決まってるじゃないですか。実際魔法全然出来ないのに…(ジト目)」
「お前何で魔術師やってんだよ…」
「だって体力もないのに剣士とか出来るわけないじゃないですか…」
「そんなものちょっと鍛えりゃすむだろ?」
「私はアスカさんとは違うんですって!そんなホイホイついてたまるもんですか…」
「ふーん……」
俺は少し考える。俺がこの町を去る。するとフリーになったリースはあのパーティーに入る(かも)。魔法が使えないことが判明する。リースはパーティーから外される。……いや、荷物持ちになるか?アイテムBOXなんか存在しないわけだし。…でもリースは体力が無いからすぐ付いていけなくなるだろう。アイテムを置いて冒険なんて回復魔術でも出来ない限り自殺行為。荷物持ちの役割もすぐ外されるだろう。その先に待っているのは囮……。
「そんなのダメだ!!」
「うわ!?」
…俺の悪い癖は被害妄想なのかもしれない。そのせいでいらんトラブルを起こしてしまうことも多々。さっきの考えもそうだ。だが……
「アスカさん?どうされました?おーい……」
俺に勇気を出して声を掛け、この世界の常識を教えてくれ、ご丁寧にギルドカードまで作ってくれた彼女にはやはり情が湧くだろう。この長いミルクティー色のおさげも優しげな緑色の瞳も白すぎる肌も血に染めるだなんて許せない。
「……せめて自分の身は自分で守れるようになれ。」
強くなれとは言わないが…もし仮に囮になっても全力疾走してギリギリ逃げ切れるぐらいの体力はつけて欲しい。リースには長生きしてもらいたい。
「……私だって、やろうとしましたよ。」
「…何を。」
「いつか立派な魔術師になって最強のパーティーを組んで王様からいっぱいクエストをもらえるように……ランニング20キロ、腹筋腕立て背筋それぞれ300回、縄跳び500回を3セット、夏は水泳20キロ、冬は雪山を登山、あとは……」
「よく死ななかったなお前。」
前言、撤回。こいつは心配しなくても長生きするようだ。アグレッシブ婆ちゃんとして王様のお目にかかるかもしれない。やったねリースちゃん。
「でも……どれだけやっても体力なんかつきませんでした。これもう何かの呪いです。」
「呪いとまで言い切るか。……ちょっとお前ギルドカード見せろ。」
「!?いやですよ恥ずかしい!身長はまだしも体重まで書いてあるんですから!」
リース曰く、持っているだけで戦歴や身長体重が更新されていくそうだ。誰だそんな機能つけた奴。
「いいから寄こせ。」
「嫌です!!」
「……上級魔法無属性【鑑定眼】」
「魔力の無駄遣い!」
【鑑定眼】、ギルドカードを見なくとも対象のステータスが丸見えというプライバシーの欠片もない魔法。
「んー…と…?」
目の前に半透明のウィンドウが出てくる。
名前:リース=カルリーノ(15)
性別:女
レベル:1
身長:152cm
体重:48kg
HP:20/20
MP:30/30
STR(筋力):10(制限)
DEF(強度):10(制限)
INT(知力):500
AGI(反射速度):10
VIT(生命力):30(制限)
ちなみに知力以外は30が平均的らしい。そう考えるとかなり足りていないのが分かる。しかし…身長が低いのに対して体重がアレだ。でも見た目は全然普通。むしろ痩せている。加えて横についてある制限の文字。
「迷わず制限解除だろこれ。」
勝手に操作していいものなのか知らないがここはリースの為にいじっといてやろう。俺優しい。
「……何したんですか?」
「ん?制限解除した……うわ、上がり方やばいわ。」
制限を解除し、目線を再び元に戻すと…
STR(筋力):10→300
DEF(強度):10→100
INT(知力):500
AGI(反射速度):10→100
VIT(生命力):30→200
平均男性なんかふっとばすぐらいの力が身についていた。まぁがむしゃらにあんなトレーニングやってたらこれぐらい付くのが普通だろう。
「自分のステータス見てみ。」
「?」
リースは訝しげな顔で自分のステータスを開く。大幅な数字の増え方に気づくと満面の笑みを浮かべた。
「え、ええぇぇぇ!?」
「制限かかってたんだよな。まあこれは予想だけど…どんな親だって可愛い娘を冒険者にはしたくないと思う。だから急に鍛え始めた娘の将来を心配して親父さんかなにかが勝手に制限つけたってとこかな?」
「……そうですか、お父さんのせいで私はしなくてもいい苦労を山ほどしたんですかなるほど。」
「そんな言い方すんなって……予想だよ予想。」
「何で気づいたんですか?」
「いや、身長の割に体重が多いなーと思って。あれ筋肉じゃねぇとかありえねぇし。」
「……え、」
「……あ。」
……俺って、マジで正直者だよね。HAHAHAHA☆
「うわぁぁぁぁぁん!!!!お嫁に行けないぃぃぃぃ!!!!」
「うぁ!?」
案の定の反応。しかし…こいつの声量を侮っていた。耳が…これは中耳炎どころの騒ぎじゃない…
ど、どうしよう……ここは日本人の俺が気のきいた言葉を言わなければ。大丈夫、全然スリムだよ。侮辱してるよ!却下。リースは可愛いよ?フォローになってねぇ!却下。となると…
「俺がもらってやるから安心しろ。」
「うわぁぁぁ……え?」
「俺がもらってやる。」
「……え?」
「何度だって言ってやるよ、俺がもらってやる。」
「……え、いや、そんなつもりじゃないっていうか…でも、その、・・・///」
「まぁ嘘だけど」
「突き落とされたぁぁぁぁぁぁ!!!!」




