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レイヴィス視点

《レイヴィス視点》


今日不思議な少年と出会った。俺と姫が盗賊達に追われているときのこと。大木から1人の少年が飛び降りてきた。真っ黒い服装と長いマフラーに美しい白髪、その中で爛々と光っている深紅の瞳。第一印象は『綺麗な人』だった。


「!?誰だお前は!」


その美しい少年は少し考え、


「……助けに来た?」


とだけ告げた。予想に反比例して可愛らしい答え方に一瞬気が緩む。その隙を狙ったかのように盗賊たちが矢で馬車を襲う。あのままでは少年が危ない……


「っ、なんだか知らんが死ぬぞお前!!」


「ん?」


声の限り叫んだ。一人でも死傷者は出したくない。その一心で叫んだというのに無情にも無数の矢が少年を襲う。あぁ、もうだめだ…そう思った矢先、少年は人間とは思えないスピードで矢を次々と避けていった。あれは本当に目を疑う光景だった。しかもその後少年は空間魔法を使い弓矢を取り出したのだ。空間魔法は一流の賢者しか使えないと聞いていたが…この眼で見れるとは。少年はゆっくりと弓を引き先頭の盗賊目掛けて射た。


「っがぁ!?」


「!?あいつ一発で仕留めやがった!?」


…驚愕した。この揺れる馬車の中一発であの盗賊の胸を射たのだ。


「あいつマジでぶち殺す!標的をあいつに変えろ!!」


「「「「了解!!!」」」」


だがあの一発で盗賊たちの怒りを買ってしまった。これはどうしようもない。すると少年は腰からライフルを取り出した。ライフルというのは非常に優れた武器だが扱うのが難しい。見たところ成人にもなっていない少年に扱えるわけがない。俺は少年が死ぬシーンを見るのを恐れて窓から体を引っ込めた。


「狙撃ヴァルキリー級、【百発百中アヴリカーレ】」


それを最後に銃声によって少年の声はかき消されていった。姫はさっきから恐怖で声を出そうともしない。この可愛らしい姫を守れるのは自分だけなのだ。自分しかいないのだ。


「おーい。」


「なっ…とうとう追いつかれたか!しかしどんな手段を使ってでも姫は必ず私が……!」


盗賊が中に乗り込んできた。あの少年は死んだのだろう。若いのに可哀想だ。国王には勇気ある少年として報告しよう。もっとも生きて帰れたらだが。…姫を守るのが俺の役目だ。この際俺はどうなってもかまわない。最後にカッコいいところを見せよう。


「レイヴィス…でも逃げて。私が捕まればきっと追ってこなくなります!」


「いいえ!そんなことは絶対にさせません!捕まるとしても2人です!」


「レイヴィス…」


「姫…」


姫が俺に抱きついてくる。あぁ、これでもう心残りはない。姫には悪いが、ここはひとつ潔く死んでやろうじゃないか。この想いは、来世でも引継ぎ実らせるとしよう…。


「……死んだけど。」


「「は?」」


後ろを振り返ると盗賊ではなくあのモノクロ少年が立っていた。少し返り血は浴びているもののそれ以外は無傷だ。


「全滅。抹消。辺り一面血の海。」


淡々と告げる少年。恐る恐る外を見ると本当に血の海だった。盗賊たちは皆頭から血を流している。


「……あれ、お前がやったのか?」


「うん。」


「1人で?」


「うん。てかどこまで見てた?」


「大部分は見てたが…そのライフルを使っているところまでだな。」


「ほとんどじゃん。……この武器ってあんたの国で流通してる?」


「いや、高価なものだからな。兵士か武器コレクターぐらいだろう。」


「ふーん…」


少年は軽くライフルを撫でる。…この少年は一体何者なのだろうか。1人で大勢を撃ち抜き平然としている。しかもあのライフルを使いこなすだと?全くもってありえない。


「……あの、助けていただきありがとうございます。」


盗賊が全滅したことを確認し、恐怖から解放された姫が口を開く。


「いや、たまたま見かけただけですし…」


「見かけただけで助けてくださったのですか!心優しいお方ですね…」


「いやいや…」


少年の顔には困惑の色が浮かんでいる。そして姫の目には♡が浮かんでいる。…かっこ悪いが少し嫉妬してしまう。


「あぁ、確かに素晴らしい心構えだな…俺はレイヴィス=クラーク。レイヴィスでいい。」


「私はアリーナ=サマトリアと申します。アリーナとお呼び下さい。…敬語はなしですよ?」


敬語はなし、という言葉にまたジェラシーを感じてしまう。俺もまだまだ子供だな……。


「俺はアスカ=アカツキ。アスカでいい。」


この少年の名はアスカというのか。珍しい名前だな…どこの種族なんだろう。


「それではアスカ様、危ないところを助けていただきありがとうございました。何かお礼をしたいのですが…叶えられる範囲で何かありますか?」


「……。」


少年もといアスカは少し考える。まぁこれが妥当だろう。


「それでしたら、」


「敬語はおやめください。」


「いやいや、一国の姫ですし…」


「……(暗黒微笑)」


「……分かった。降参。」


「はい♪」


…久しぶりに姫のあの顔を見た気がする。…じゃなくて。


「それで、どのような事でしょう?」


「あー、俺をこのまま町まで連れて行ってくれると嬉しい。」


「……それだけなのか!?」


「ん、そんぐらい。他とか別にねぇし…」


「いいえいけません!一国を代表する者の娘を助けた代価としてそれはあまりにも…!」


「えー…」


…本当にこいつが分からない。性格が分析できない。可愛い顔して人殺すし、でも欲ないし。謎すぎるだろ…。


「あ、じゃあこの世界の常識とか教えてくれよ。」


「……常識、ですか。」


「あぁ。俺は…その、どうやら記憶喪失っぽいんだ。気が付いたらあの森にいて。だから町への道も全然分からなかった。」


……この言葉を聞いて、俺はさして驚かなかった。あぁ、アスカならありえるなと思ってしまった。マジで掴めない奴だな…。


「それはお気の毒に……」


「苦労人だなお前…。」


「別に大丈夫だ。言うほど困らなかったわけだし。」


「まぁあれぐらい強かったらな。」


「やっぱり?…じゃあまず今から行く国のことなんだけど…」


それからは礼儀や金の単位、今から行く国の法律などを散々聞かれた。…こんなに説明疲れしたことはないだろう。だが、この少年は面白い。これからどうなるのかを見届けるのも面白そうだなと思った。

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