匙投げ熊のカオス脳内
東京メトロは今阿鼻叫喚、地獄絵図になっている。
赤、赤、赤……所々ピンクだったり白かったりするけどとりあえず血にまみれ生肉が飛び散っている。
電車は未だ動いている、何せ停止させるための運転手すら今や肉塊となっているからだ。
「ふふふ……次はアナタですね」
巫女さんは微笑む、その赤袴を赤黒く染め片手には日本刀、胸元をかなり開いていてかなり扇情的だ。
俺は知らず知らずのうちに後退っていた、怖い……むせるような血の匂いとねっとりと肌にへばりつく返り血に正常な判断はできない。
何がどうなってこうなったかなんて覚えてない。
とりあえず吐いたり失禁していない俺は褒められるべきだろう、巫女さんはまだ動かない。
俺は今度は意識して後退った、一歩、また一歩と……巫女さんはまだ動かない。
「アナタ、何を怯えているの?」
巫女さんは笑った……花が咲いたようなそんな華やかな笑顔だ。
場にそぐわないそんな笑顔に俺は見惚れてしまった、だが俺は止まらない……また一歩下がった。
巫女さんはまだ動かない……ふと思ったがこういうのは東京メトロでなくても山手線とかそんなのでもいいのではないのかと、何故ここでなければならなかったのか、それは巫女さんにしか分からないことだ。
俺はまた一歩下がった、巫女さんはまだ動かな――――巫女さんが俺の視界から消えた。
俺は倒れたらしい、足元に転がっている生肉を踏みつけて足を滑らせたらしい。
血だまりに身を沈め、そこだけ綺麗な天井を見つめた……巫女さんはまだ動かない。
「アナタは何を見ているのですか?」
巫女さんの声が聞こえる、ぺたりぺたりとこちらへ歩いてくる。
俺と巫女さんの距離はそんなに開いてはいない、だというのにぺたり……ぺたり……明らかに俺が後退った歩数より多くの足音が聞こえる。
ぺたり……ぺたり……。
俺の五感は全て血で覆われ、巫女さんの様子を探れない。
ぺたり……ぺたり……。
どこだ、どこから来る?
ぺたり……ぺたり……ぺた――――巫女さんが立ち止まったらしい、そして俺の目の前に巫女さんの顔が現れた。
どうやら横を回り込んで俺の頭の方へと来て、俺を見下ろしているらしい。
「アナタはワタシがどう見える?」
俺は、巫女さんを見つめる……凄く綺麗だ。
「……アナタには本当の赤を見せてあげる」
巫女さんは刀を振るった、刀は俺の首を横切り、巫女さんの首を横切った。
巫女さんの首が落ちてくる、俺の事切れた首へと向かって――――そして俺達は唇を重ねた、巫女さんの赤い口紅がやけに色濃く見え、俺の視界は黒に染まった。