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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-03 吸血鬼は文学だけにしておくべきかと
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0048:吸血鬼系魔法少女

 自分達の格好もコスプレが過ぎると思っていたが、現れた悪魔のコスプレ女は、その遥か上を行っていた。

 また、格好だけではないのを、異様な登場ぶりが教えている。

 重力を無視して壁を歩き、羽のように宙を舞うその女。

 今度こそ事件の本命であると、疑う余地が無いように思えた。


吸血鬼(ヴァンパイア)の力の使い方を教えてあげたのはー、あ、ち、し♪」


 そして、見た目に反して、やたら軽かった。


「カミーラ!?」

「このヒトが――――――――――!? この……何て言うの……?」

「絵に描いたような女悪魔デース」


 吸血鬼レスタトの科白(セリフ)に、黒アリスはリアクションに迷った。

 ヒトの事は言えない魔法少女ふたりだが、黒幕登場よりも、まずその格好に度肝を抜かれる。

 局部や胸の先端しか隠せていない、ヒモを組み合わせたようなボンテージファッション。手足に絡み付く鎖。

 それらは『着る』というか裸体(カラダ)を『飾って』おり、成熟して肉感たっぷりなスタイルを、惜しげもなくさらけ出している。

 そして、何かのオプションのようにくっ付いている、先が槍のように尖っている細長い尻尾に、大きなコウモリの翼。

 普通の人間がやったらタダの変態だが、挑発的な美人のお姉さんがやると、これがやたら絵になる格好だった。


 だが、すぐに雨音は顔やスタイルも自分達同様の擬態偽装(トランスミミック)である可能性に思い至る。正体を隠さなければ、これほど大胆な騒動を起こしたりは出来ないだろう。


「あんたが……カミーラ?」

吸血鬼(ヴァンパイア)の元締めデス!?」

「えー? まー、そうかも??」


 女悪魔は、雨音とカティの問いをはぐらかす。

 赤く点滅する信号機で、女悪魔の姿が良く見えない。

 吸血鬼の『最初のひとり』は、悪魔との契約によって成る。そんな話を聞いたのは、つい最近の事。なのに、随分昔の事のように思えた。

 女悪魔の姿は、吸血鬼を生み出す母としての暗示なのか。

 雨音とカティは、今度こそこの事件の根源へと辿り着いた――――――――――と、この時は思ったのだが。


「にしてもー、レタス君(・・・・)にはガッカリー」

「は……?」


 一瞬、女の悪魔が誰を指して言っているのかと、誰もが戸惑った。つまるところ、レスタトこと嘉山・S・治郎の事だったが。

 吸血鬼レスタトは、この女悪魔の見た目とキャラクターのギャップを知っていたが、それでも、今までそんな言葉をかけられた覚えが無い。

 女悪魔は、常にレスタトの良き助言者だった筈だ。

 少なくとも、『レタス君』などと呼ばれた覚えは一度も無い。


「か、カミーラ……??」

桜花(おーか)ちゃんが他のコンポーネント(・・・・・・・)ユーザーに捕まるのはチョーっとヤバめだったしー、レタス君もイイ感じに吸血鬼(ヴァンパイア)小慣れて来たから、お迎えがてら運命的な再会を演出してお披露目してみっかなー、て思ったんだけどー。まさか桜花ちゃん親戚NGだったなんてねー。失敗失敗ー」


 それはレスタトのやらかしたミスではないと思われたが、兎も角。

 この場にいる全員――――――女悪魔以外――――――の頭に、一斉に(はてな)マークが飛んでいた。


 女悪魔、『カミーラ』が嘉山・S・治郎を吸血鬼『レスタト』にしたのは分かる。

 レスタトはつまり、『ニルヴァーナ・イントレランス』の能力者が変身させた能力の一部、という事なのだろう。

 雨音へ能力を使おうとした際の機能衝突。魔法少女への知識。『コンポーネントユーザー』という科白(セリフ)回しからも、『ニルヴァーナ』の能力者で無ければ知り得ない事だ。


 だがどうして、カミーラはそこで北原桜花(きたはらおうか)押しなのか。


「………北原さん、アレ(・・)……知り合い?」

「えーと……あ、あたしの知り合いにあんな……へ、派手なおねーさんは居なかったと思うなー……」


 雨音の質問に対し、桜花は言葉を選んでいた。

 自分の知り合いにあんなコスプレ痴女はいねぇ、とハッキリ言いたかったのだが、何故か先ほどから頭が混乱しているのだ。


 この女悪魔を見てからだ。記憶がチグハグになったのは。


「いないよなー……?」

「北原さんに何の用か知らんけど! とにかく、あたしが訊きたいのはただ一つよ!」


 とりあえず自信なさげに(つぶや)く文学少女は置いといて、雨音はショットガンとリボルバーを信号機に向かって突き付ける。


「あんたが吸血鬼の生みの親なら、全部の吸血鬼を元に戻せるの!?」

「アンサーは慎重にするのをお勧めしマース……。このお姉さんの引き金(トリガー)は超軽いデースねー!」


 何故か横に居た巫女侍から来る攻撃に黒アリスの眉が引き()るが、努めて雨音は冷静な貌で女悪魔を睨む。

 この回答如何(いかん)で全てが決まる。そう思うと、引き金にかけた指が震え。

 そして、


「出来るんじゃん?」


 女悪魔は、あっけらかんと雨音にそう返していた。

 思わず、雨音は引き金を引きそうになるのを(こら)える。ゴール直前で気持ちが焦りまくっていた。


「じ……じゃ、すぐにやって!! 言っとくけど、あたしとしてはもう吸血鬼だニルヴァーナだなんてのはお腹イッパイ!! 吸血鬼になった人たち元に戻させる為なら、あたし、何でも出来る気分よ……?」


 黒アリスの中で積りに積った感情は、ここに来てマグマとなって噴出し、新島を造り出さんばかり。

 かつてないほど据わった雨音の凶眼に、とばっちりを喰らった巫女侍の方がブルブル震えている。

 ところが、女悪魔の方はと言えば、そんな黒アリスの怒気や殺気などどこ吹く風で、あらぬ方向を眺めて言った。


「でーもー……それを決めんのはあちしじゃないっつーかー」


 その瞬間、雨音は撃つ(・・)つもりだった。

 弾が当たっても死なないのは、雨音の魔法の最大の利点と言っても良い。物理法則無視の、最高に使い勝手の良い攻撃能力だ。

 そして、『何でも出来る』と言った雨音の言葉に、ウソは無い。

 吸血鬼に咬まれた被害者。餌にされた女性。生活が止まり、人生が狂った人。その負債は、秒単位で積み重なっていく。どんなに平静を装う雨音でも、それを忘れた事は無い。


 それこそ、この人を食った喋り方のコスプレ悪魔女ひとり廃人にした所で、これまでの悪事のツケだと、自分を納得させられる自信があるほどに。


 だが、覚悟完了の黒アリスが引き金を引く、その直前、


「決めんのはー、やっぱりあちしのご主人様の(・・・・・)桜花ちゃんじゃね?」


 雨音の思考が止まってしまった。


「……………………は?」

「オーカ(桜花)!?」

「お……桜花、ちゃん?」

「………あたしが何て?」


 何故、この女悪魔はそんなに桜花押しだったのか。つい1分前の疑問が、雨音の頭の中に再び湧き上がる。


 女悪魔は雨音を前に、あらぬ方向を向いて――――――――――いるワケではなかった。

 信号機の赤い点滅が邪魔になって良く分からなかったが、女悪魔は登場からずっと、ある一点だけを見ていた。

 北原桜花は、彼女と目が合ったから目眩(めまい)を起こしたのだ。


 こんな悪魔の様なコスプレ痴女と逢った事など無い。


 果たして、本当にそうだったか。以前にも逢った事は無かったか。

 それは例えば、自室で見覚えの無い、(ページ)の真っ白な本を開いた直後、とかに。


「でーもー、桜花ちゃんには『ニルヴァーナ・イントレランス』もちょーっと期待してるみたいだしー」

「――――――――――は!? あ、あれぇ!!?」

「ちょ――――――――――!!?」 


 またも一瞬意識が飛び、気が付くと桜花は女悪魔に腰を抱かれていた。

 挑発的なヒトを喰った美貌が、桜花の眠そうな顔のすぐ側に来る。

 しかし、女悪魔の動きには、雨音の方も反応出来なかった。吸血鬼レスタトと同じ、一瞬消えてから別の場所に現れて見せる能力。

 様々な疑問に戸惑いながらも、雨音は後ろの女悪魔へショットガンとリボルバーの銃口を向ける。


「カティ!!」

「がってんデース!!!」


 雨音の叫びに、無条件にカティが飛び出した。

 黒アリスがショットガンとリボルバーをぶっ放し、巫女侍が三尺を超える大刀を女悪魔に叩きつけようとする。


「レタス君がダメでもー、あと二人か三人くらいは桜花ちゃんにも良さげなのがいるー、みたいな? だからー、今度は桜花ちゃんに直で選んでもらおうかなー、って。ちょっとメンドくなって来たしー、また骨折り損はヤダしー」

「え? えぇ!? なんであた――――――――――――わっぷ!!?」


 だが、弾がアタッたと思った瞬間、女悪魔は数百のコウモリと化して螺旋を描いて舞い上がり、三つ編み文学少女諸共、真っ暗な空へ消えてしまった。


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